第一話 退魔するもの(二)
騎士甲冑と妖魔との間には十メートル近くの差があったのだが、道路を陥没させる踏み込みとともにその距離は縮まった。甲冑は剣を持ち上げ、刻み込んだ内容を実行する。
上段から妖魔の首を切り落とすための袈裟斬りである。ほんの数秒で一体を狩り終えられて敦子としては笑みを隠せないでいた。
しかし、最後のあがきか、切り離された胴体が騎士を殴りつけた。その一発で甲冑は吹き飛ばされるが、すぐに立ち上がる。
殴られた部分はへこんでいたが、修復術式が一瞬にして元通りに直す。術式は実践でも成功したのは、私としても嬉しい誤算だ。
欲を言えばだけど、一度も敵の攻撃を受けないというのが私の考えだった。
妖魔はその場に体だけを残し、息絶えるとゆっくりとした拍手が聞こえた。
「初めてながら、とてもいい内容でした」
真島だ。
「今のが一体目。依頼には、殲滅とありますので、あと二時間ほどですがお願いいたしますね」
「分かりました」
私はそう答えながら妖魔の反応へと向かうことにした。
「ただいま戻りました」
古ぼけた一軒家。玄関に靴がないのを見て、先生が依頼で出かけたのを思い出す。
帰宅時間は六時半だというのにこんなに早く出かけるとは思ってもいなかった。
すぐに着替えてベッドに横たわる。初の依頼は思ったより疲れる。
依頼は成功。明明後日には、依頼料が私の口座に振り込まれている。
今日は日曜日だけど、出かける気分にはならなかったので、そのまま一日家で過ごした。
「とりあえず依頼は成功ですか」
「ええ、それに中々筋がよろしいかと。さすが古式尊の弟子だと感じましたよ」
尊の言葉に応えるのは真島である。
真島は私の後ろにいる。たった一メートルほどなのだが、未だに慣れることはなさそうだ。
「それで次の依頼なのですが……」
封蝋されている手紙。判は協会からと分かるものだ。竜と杖が見える。
封を切り、内容を確認する。
「これは何かの冗談でしょうか」
「いえいえ、今の協会の現状を考えて頂ければ、納得してもらえるものだと思いますが」
知るかそんなものとは口が裂けても言うことは出来ない。
内容はこうだ。
私と陣屋の二名と別グループ三名との共同作戦である。
陣屋に新しい経験、集団戦での人形師の立ち位置を覚えてもらういい依頼だと思える。
だが別グループが問題だ。
「なぜ藤野家なのでしょうか? それに別グループは私たちでなくても良いのでは?」
藤野家。私の元いた場所だ
「それが……その、藤野家当主藤野源馬からの指名なのです」
それはつまり、断りを入れるのを出来ないことを示唆されていた。
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