(6)リプレイを読もう!
「……作戦開始時間だ。行くぞ」
装甲車で担当地区まで移動した覚醒者達は作戦開始の通信を聞き立ち上がる。銃士の後藤良二はサブマシンガンの弾薬をチェックし、ゆっくりと息を吐いた。
「それでは評価試験を開始します。私は貴方達の後方に付随し評価を行ないますが、基本的に手出しはしませんのでそのつもりでいて下さい」
「ええ、それで構わないわ。貴方の手を煩わせるような事にはならないもの」
大型の杖を肩に乗せ微笑む天宮静流。それとは対照的にルインズ・アーウェイは緊張の面持ちだ。
「初の実戦ですからね。皆さん、気をつけて進みましょう」
「いいねぇいいねぇ、この感じ! これが戦場の空気って奴か……たまらねーぜ!」
「下級レギオン風情じゃ相手にならないわよ。アタシの力、存分に見せ付けてやるわ!」
盛り上がっている様子なのは桐崎トガネとサクヤ・クレナズム。二人は実戦を待っていましたといわんばかりの勢いで、物怖じする様子は見られない。
「気合が入ってるのはいい事だ。その調子で宜しく頼むよ」
「まっかせとけっつーの!」
苦笑を浮かべながら声をかける真崎宗助。トガネはそんな彼に笑顔を返し、続けて大通りを指差す。
「こんな所でくっちゃべってる時間が勿体ねー! 一番乗りは俺が貰ったぜ!」
「あっ、ちょっと待ちなさいよ!」
駆け出すトガネとサクヤ。良二は溜息を吐き、二人の後に続く。
「俺達も行くぞ……作戦開始だ」
こうして評価試験は開始された。六名の覚醒者と一人の監察官はエリア66の大通りを通過。道中に存在する敵を殲滅して行く。
廃墟と化したエリア66近辺の町は下級レギオンの巣窟と化している。大通りを移動していると、直ぐにレギオンの部隊が立ち塞がった。
「バグズか……数が多い、囲まれないように気をつけろ」
「囲まれる前にやっちまえばいいだけの話だろ!」
大剣を引き摺り敵集団に飛び込むトガネ。強烈な一撃でバグズの群れを薙ぎ払う。
「……やれやれだ。まあこうなる事は予測していたがな」
マシンガンを構える良二。彼は援護射撃を行い、前衛に接近するバグズの動きを牽制する。
「自己強化からの~、乱舞攻撃!」
サクヤは自身の鞭に強化を施し自在に振り回す。その攻撃を若干迷惑そうに掻い潜り、宗助が片手剣をバグズに突き刺す。
「闇雲に振り回してるだけだろ……」
「そろそろ下がりなさい。詠唱完了……そいつら纏めて吹き飛ばしてあげる」
杖を構え魔法を詠唱していた静流。詠唱短縮に優れた彼女は既に三段目までの詠唱を終え、魔法陣の光を杖の先端に宿していた。
「もう詠唱が終わったのか……おい、下がるぞ!」
「うわぅ! 変な所掴むなぁ!」
宗助はサクヤを抱きかかえ退避。そこへ静流が魔力を解き放つ。
青白い光が瞬き、波紋が大地を伝う。その通過の直後、バグズの群れを無数の氷柱が飲み込んだ。
「……さあ、眠りなさい」
指を鳴らす静流。次の瞬間バグズを囲う氷柱が砕け散り、レギオン達は光の粒となって空に舞うのであった。
「っぶねーよ! てめえ静流、殺す気か!?」
「あら、ちゃんと当たらないように狙ったわよ」
「俺が避けたからだろうが!
必死の形相で訴えるトガネだが、静流は聞き入れる気配が無い。そこへルインズが近づき、回復魔法を施した。
「まあまあ……傷なら僕が回復しますから……ねっ?」
手際よく第一集団を撃破した一行。更に進攻すると、今度はトライアングルとバグズの混成部隊と遭遇する。
トライアングルは覚醒者達を発見すると頭上を回転しながら飛び回る。これは周囲のレギオンに敵の存在を知らせる為の行動である。
「放っておくと彼方此方からレギオンが集まってくるぞ」
「その前に倒しちまえばいいんだろ!」
良二の言葉を聞かず再び飛び掛るトガネ。しかしトライアングルは華麗に飛び回り、トガネの切っ先から逃れてしまう。
「くそっ、すばしっこい!」
続いて宗助も剣を繰り出すが攻撃は回避される。翻弄するトライアングルは回転しながら宗助に飛び掛るが、宗助はこれを盾で弾いてやり過ごした。
「近接だと分が悪いぞ、トガネ」
「チッ、んなこたー承知してるっつーの!」
左右に跳び距離を取る二人。良二は武器を持ち替えライフルを取り出す。そこへサクヤが強化を施し、トライアングルを狙撃する構えを取った。
「これでもガンナーなんでな……狙い撃つのはお家芸だ」
ホークアイを発動し敵の動きを銃口で追う良二。動きを見切った瞬間に引き金を引き、トライアングルのど真ん中を貫いた。
「一つ……」
更にリロードを行い射撃を行なう。弾丸は二体目のトライアングルを貫き失墜させた。
「二つ……」
三体目に狙いを定める良二。次の瞬間、ルインズはバインドを発動。トライアングルの周囲に光の陣が浮かび、動きが停止する。
そこを待っていましたと言わんばかりに両断するトガネ。どや顔で良二を見やるが、そんな彼に近づいていたバグズを良二は撃ち抜く。
「随分と余裕があるな、桐崎」
「チッ。ああ余裕だよ、余裕シャクシャクだぜ!」
振り返りながら刃を振るい、次々にバグズを蹴散らすトガネ。こうして戦闘は特に問題なく進み、大した傷も負わず覚醒者達は任務を進めていった。
状況に変化が訪れたのは程なくしての事であった。突然良二が足を止め、仲間達を制止したのである。
「待て。何か嫌な予感がする……」
「嫌な予感……ですか?」
首を擡げるルインズ静流は唇を指先で撫でながら目を細める。
「早期警戒に優れる良二の勘だから、無碍には出来ないわね。ルインズ、ソナー使える?」
「ええ。ちょっと調べてみますね」
立ち止まり目を瞑るルインズ。オーラソナーを発動し、周囲に魔力を持つ存在がいるかどうかを確認する。
「……反応ありました! かなり強い魔力反応です。側面から……来ます!」
ルインズが声を上げた直後、廃墟と化したビルの壁が突如爆発した。
渦巻く粉塵と飛び散る破片の向こうへ目を凝らす覚醒者達。薄っすらと浮かび上がった影は砂を抜け、ゆっくりと姿を現す。
「人型のレギオン……コマンド級じゃないんですか、あれ!?」
全身を黒い外殻で覆った人型のレギオン。その体には赤い光が迸っている。
コマンド級が軽く腕を振るうと赤い衝撃波が周囲へと放たれる。その一撃で粉塵は吹き飛び、アスファルトには亀裂が生じた。
「明らかにこれまでのザコとは格が違うわね」
「神木試験管、コマンド級の存在は事前情報にはなかった。我々はどう対処すれば良い?」
口笛を吹きながら微笑む静流。良二は警戒を怠らないまま、背後の神木へと問いかける。
「……緊急事態ではありますが、試験は続行します。あれにどう対処するかは、皆さんの判断にお任せします」
多少口篭りながら応える神木。良二は彼女へ鋭い眼差しを向ける。
「安心して下さい。ここで撤退したとしても、減点の対象にはしません。その場合は私がここで奴を討伐します」
「ちょっと待て。神木、あんたが一人でここに残るって事か?」
宗助の言葉に頷く神木。少年は考え込み、頭をわしわしと掻いてから溜息を一つ。
「だったらやるしかないだろ。あんた一人にあんな化物押し付けて逃げるわけにはいかない」
「真崎君……」
「なーに一人でかっこつけてんのよ、宗助!」
「そうだぞ! あいつと喧嘩がしてぇのはお前だけじゃないんだっつの!」
宗助の横に並ぶサクヤとトガネ。その様子を見た良二と静流は頷きあい、得物を構えるのであった。
「み、皆さん……中級レギオンと戦うつもりですか?」
「こんな強い奴とやれる機会なかなかないぜ? 捨て置けるかよ? 捨て置けねえよなぁ!」
高らかに声を上げるトガネ。ルインズは逡巡した後、覚悟を決めるように己の頬を叩いた。
「……わかりました。でも、本当に危険だと思ったら迷わず逃げるんですよ。それだけは約束してください」
「心配しなくたってみんな命は大事なんだから、ヤバくなったらとっとと逃げるわよ」
サムズアップするサクヤ。神木はそんな新人達の様子を背後から見つめ、そっと唇を噛み締めるのであった。
コマンド級は空へ片手を伸ばす。すると周囲から次々にトライアングル級が集まり、その周囲を旋回し始める。
赤い光を帯び加速したトライアングルはまるでブーメランのように高速で飛来する。先程までとは違いすぎる動きに驚きつつも前に飛び出した宗助は盾を構え、攻撃から味方を庇った。
衝撃と共に光が迸る。金属音が連続で三回鳴り響き、宗助は地面を滑る様にして背後へと弾き返されていた。
「……っづう! 威力が違いすぎる……!」
更に旋回し周囲から接近するトライアングル。ルインズは杖で大地を叩き、巨大な魔方陣を描き出す。
「皆さん、集まってください!」
光の柱が立ち昇った。それは障壁となり彼らを包み込む。トライアングルは回転しながら突撃を行なうが、障壁によって弾き飛ばされている。しかしそれも長くは持たない。
「耐えられるのは、三発までです……良二さん!」
歯を食いしばるルインズ。良二は素早くライフルを構え、クイックショットを発動。トライアングルを次々にライフルで撃ち落として行く。
「ちょっとちょっと、正面! あいつが来てる!」
障壁が消えると同時、正面からコマンド級が猛スピードで駆け寄ってくる。静流は詠唱を終え空中に巨大な氷の刃を形成。杖を振るいコマンド級へと投擲する。
コマンド級はこれに対し拳を繰り出した。氷の槍は拳によって砕かれ、更に彼らの眼前にその拳が迫りつつあった。
「何とかしろっ、宗助――っ!!」
「真崎さん!!」
ルインズが物理障壁を宗助の盾に纏わせ、サクヤは複数の強化を重ねがけする。そこへコマンドの拳が炸裂。宗助はそれを何とか盾で防いでいた。
「……んの、野郎ぉおおっ!!」
踏み込むと同時に宗助の足元が陥没する。次の瞬間衝撃が爆ぜ、コマンド級の体は大きく背後へと吹き飛ばされていた。
「やるじゃない」
「ナイスだ宗助! カウンター決めんぞぉおッ!!」
再度詠唱を開始する静流。ルインズ、サクヤも再詠唱までは時間がかかる。
トガネと宗助は前に踏み出し、怯んでいるコマンド級へと斬り込む。胸部から放つコマンド級の光線を左右に跳んで交わし、二人は挟撃を仕掛けた。
雄叫びを上げ大剣を叩き付けるトガネ。腕の装甲で受けるコマンド級だが、トガネは魔力を大剣に付与し連撃を繰り出す。
「オラオラオラオラオラァ!」
光を纏った剣が叩きつけられる度にコマンド級の腕に亀裂が走る。反撃を繰り出すコマンド級。そこへ側面から宗助が飛び込み、蹴りを入れた。
よろけるコマンド。宗助は背後に跳び、それからコマンドを挑発する。
「どこ見てやがる! お前の相手は俺だ!」
片手を差し出すコマンド。掌から無数の光球を連射する。宗助は周囲を走るようにしてそれから逃れ、そこへトガネが刃を叩き付ける。
「桐崎、攻め急ぐな! まともに食らったら一撃でやられるぞ!」
ライフルで弱点である胸部コアを狙撃する良二。その攻撃を機にトガネは背後へ跳び距離を取る。
コマンドは今度は良二へ片手を突き出す。放たれた光球はうねるように飛び回り良二を狙うが、そこへ滑り込んだ宗助が盾を構えて攻撃を庇った。
「ぐ……あああっ!」
「真崎……!」
「真崎さん、今回復します!」
杖を掲げるルインズ。三段詠唱のヒーリングが発動し、宗助の傷付いた体を見る見る癒していく。
「反撃行くわよ! さあっ、総攻撃準備!」
味方全員の攻撃力をブーストし、更にコマンド級の防御力を低下させるサクヤ。そこへ完全詠唱を終えた静流が杖を両手で構える。
コマンド級は危険を察知し後退。周囲から呼び寄せたレギオン達を差し向けるが、静流はお構いなしに魔法を解き放つ。
「今更そんなザコをけしかけても無駄よ。纏めて――薙ぎ払ってあげるわ!」
青い光が瞬き、杖の先端から解き放たれた魔力が直線に突き進み、大通りを纏めて氷結させていく。
一瞬で氷の世界へ変貌した町。静流が指を鳴らすと雑魚は全滅、コマンド級も装甲を破壊されよろめきながら方膝を着いた。
「いけます! 今なら押し切れます!!」
更にバインドを発動するルインズ。三つの光の輪がコマンド級を拘束し、そこへサクヤ、トガネ、宗助の三人が襲い掛かる。
「この野郎っ! とっととくたばりなさいよ!」
「おぉおおらあああッ!」
「サクヤ、トガネ! 同時に仕掛けるぞ!」
頷く三人。それぞれが持つ最大の力をこめた一撃をコマンド級へと叩き込む。
「こいつで……ッ!」
「死にやがれえええええっ!!」
激しく吹き飛ぶコマンド級。よろけながらも立ち上がろうとするその身体に次々と弾丸が命中。胸部のコアに食い込み、赤い結晶を破壊した。
「……おまけだ。とっておけ」
銃を下ろし溜息を漏らす良二。コアを破壊されたコマンド級はもがきながら全身を光へと変化させ、爆発すると同時に周囲に霧散するのであった……。
「……今回の件、お前は何処まで知っていた?」
任務を終えた戦士達。今は装甲車の付近まで戻り、傷付いた者はルインズの治療を受けていた。
「コマンド級は……私が倒すつもりだったわ。でもまさか、貴方達が倒してしまうなんてね」
答えを曖昧に濁したまま苦笑する神木。良二は眉を潜めて詰め寄る。
「今回の件、場合によっては報告させてもらう。お前のした事は……」
「まあ、いいじゃないか、そのくらいでさ」
割って入ったのは包帯を巻かれた宗助だ。良二を制し、神木へと目を向ける。
「全員無事で任務を終えられた。今はそれでいい」
「……貴方は」
「宗助の言う通りだぜ。てめえやエリア66の事情なんか知ったこっちゃねえ。だがまあ、楽しかったからな。俺は文句ねえよ」
ひらひらと手を振るトガネ。静流は肩を竦め、苦笑を浮かべる。
「私も貴女をどうこうする気はないわ。その代わり、報酬の方は弾んでもらわないと困るけど」
「……ええ。貴方達の評価は、学園側にくれぐれもよく伝えておくわ。期待の新人現る、ってね」
最早尋問するような空気ではなくなってしまった。まだ納得の行かない様子の良二ではあったが、これ以上追求する気はないようだ。
「……ま、そのうち埋め合わせはしてもらうさ」
「皆さん、そろそろ帰りましょう! 僕、すっかりヘトヘトですよ……」
装甲車の傍で手を振るルインズ。サクヤは笑みを浮かべ、仲間達の背中を叩く。
「悪くない初陣だったわね! これからもまた組んでやってもいいわよ、凡人!」
「……ははは。まあ、お手柔らかに……な?」
苦笑を浮かべ拳を合わせる宗助。こうして彼らの初の実戦、そして評価試験は終了するのであった。
「新しい時代の幕開け……なのかもしれないわね」
風に髪を靡かせる神木。寂しげな笑顔を浮かべ、腰から提げた刀を撫でる。
日本を、そして世界を脅かすレギオンとの戦い。その物語は今、幕を開けたばかりだ……。




