表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

(4)相談に参加しよう!

 部長にPBWの存在を強引に教えられ、この遊びについてほんの少し齧っただけの俺が抱いた感想。それは、『奇妙な遊び』だという事であった、

「……あ、参加出来た」

 朝七時、自室のベッドの上に腰掛けながらスマホの画面を覗き込み呟く。オーダー参加受付開始時間が今日の朝七時……それで、わざわざ早起きして待機していたわけだ。

 寝癖でボサボサの頭でベッドの上に正座する俺の姿は傍目にはかなり滑稽であった事だろう。

「とりあえず、あと三十分くらいは寝てられるか……んっ?」

 再び布団に潜り込もうとして枕元に放り投げたケータイが唸りを上げている。見ればそこには部長からの着信を示す表示が。

「……もしもし?」

『おはよー! 無事に旗取り出来たみたいね! っていうか、まだこの時点で一人分空きがあるから、そんなに慌てる必要もなかったかもね』

 右の耳から入り、左の耳に突き抜けるような明るい声に俺の表情はみるみるしわくちゃになって行く。

 ちなみに、オーダーというのには参加限度人数が設定されている。無制限のもあるらしいが、基本的には人数制限以内でクリアする事を前提とされているものであり、必然、人数はそこに納まる程度と相場が決まっている。

 今回のオーダーの限度人数は八名。募集開始の時点で六人分は埋まっており、現在七番目の枠が空いている状態にある。

 人気の有るオーダーだと募集開始直後には人数枠が埋まってしまうらしい。それで、開始の合図と同時に参加権を奪い合う……旗取り、というものが出来たそうだ。

『ま、今回は他に人気のシリーズとか大きい連動シナリオがあったのが幸いしたんでしょうね』

「そうなのか……。しかしなんでお前は朝っぱらからそんなにテンション高いんだ……?」

『え? いやー、それはその……まあなんでもいいじゃない。今日も放課後は部室に集合だから、詳しい話はそこで。それじゃあね!』

 一方的に電話をかけてきて一方的に切る……これがあの女のやり方である。

 頭をくしゃくしゃと掻き乱しながら時計を見やる。正直二度寝するには微妙な時間になってしまった。

 制服に着替える事にした俺はスマホを放り投げ寝巻きを脱ぎ捨てる。そうしている間に考えるのは、やはりPBWの事であった。

 PBWというゲームは、知れば知るほど――大したクオリティではない事がわかる。

 この言い方には多少の語弊があると思うが、あえて訂正するほどには感じない。何故なら実際、PBWを構成しているものは奇妙で歪んでいるからだ。

 以前、俺は部長とオーダー参加費用とイラスト発注費用の話をした。あの時はまだ気付いていなかったのだが、このゲーム、【微妙】な部分が多岐に渡って見られるのだ。

 まず、そもそもゲームとしての設定、世界観。前にも話したとおり、どこかで聞いた事があるようなないような感じである。

 オリジナリティや独創性に優れているとはお世辞にも言えない。まあ、それはそれで仕方ないというか、そうでなくてはならない部分があるというのも理解はしている。

 不特定多数の人間にとってわかりやすく、入りやすい世界観でなければいけない。まあそれはわかるんだが、要するにそれは最初から世界観という部分で目を引くような新しい事はしづらいという事でもある。

 微妙と言えば、あの学園案内。学園の見取り図である地図も、正直ちょっと見づらい。慣れればあれでも全然いいんだろうけど。

 そして、カーソルを載せると出てくるメッセージ。なんというか、全体的に一昔前の技術というか……こう、最新のゲームをやっているっていう感覚はない。

 更に、説明を読み上げるNPCのボイス。これは正直プロの声優とは結構な違いがあると思う。

 勿論、録音環境の違いやら過去の経験やら色々あるのだろうが、要するに最近ありがちな有名声優を起用して~とかいうのとは、雲泥の差なのだ。

 どこの誰なのか名前も知らない、全く無名のクリエイターであるという事は、イラストやGM……えー、この場合はマスターという……にも言える事だ。

 これはあくまでも俺の主観的な基準なのだが、こういう創作業というのは金を貰えるレベルまでいくのが難しい、という感覚がある。

 小説家になるのは大変だし、イラストレーターだってそうだ。本当の意味でプロとして活躍しているような人たちっていうのは本当にごく一部であり、そしてPBWにそうした有名どころが現れる事っていうのはないように思う。

 そう、何もかもがこう……【何かになりきれなかった】人たちが作ったゲーム。上手くは言えないけれど、そんな感想を抱かされるのだ。

 そしてこのゲームをプレイしている人たちは、その事実を知っているにも関わらず、これといって気にしている様子はない。彼らに対して対価を自然に支払っているし、文句を言う気配すら見られない。

「変なゲームだよなぁ」

 そりゃあ、ゲーム内ではこんな空気の読めない発言は出来ないさ。皆真面目にやってんだから。それでもこの疑念を払拭する事はまだ出来そうになかった。




「えっと……こんにちは……」

 放課後、部室で一人ケータイをいじっていた俺。そこへやってきたのは意外な事に部長ではなく、園田君であった。

「園田君……ど、どうしてここに? まさか自発的にTRPGをしに……」

「そ、そんなわけないですよぉ! ほら、昨日……部長に捕まっちゃったじゃないですかぁ。それで、明日から来なかったら家にまで押しかけるって言われて、僕……っ」

 おぉ、泣くな泣くな……怖かったなぁ。あいつそう言う事平然とやってくる可能性有るもんなあ。変態だからな……。

「まあそこに座りたまえよ。ぶっちゃけ最近TRPGは全くやってねーから、そんなにビビる必要ないって。一時間かそこら奴の無駄話に付き合っていれば……」

「ごっめーん! 担任の話が異様に長くってさぁ、遅れちゃった……お!? 園田君じゃない! まさか自発的にTRPGがしたくなったのかしら?」

 どこかで聞いたような台詞と共に園田君に飛びつく部長。そして悲鳴を上げる園田君。うん、今日も平和だ。

「まあ、そんな事よりコンピューター室に行くわよ! コンピ研には私が話をつけておいたから!」

「園田君も連れて行くのか?」

「もちろん。だって部員だし」

 ちらりと園田君に視線を送ると、彼はなんかもう死にかけたウサギみたいな目で虚空を眺めていた。

 そんなわけで、死に掛けの園田君を部長と一緒に拉致しつつ、既に恒例となりつつあるコンピューター室への突撃を行なうのであった。




【From:ルインズ・アーウェイ】

 初めまして、僕は治療師のルインズです。

 実際に現場に出撃するのはこれが始めてですが、足手纏いにならないように頑張ります。


【From:天宮 静流】

 魔道師の天宮。ロールスキルはクイックキャスト。

 火力特化型だから支援とかは出来ないわ。そういうのは期待しないでね。

 ただ、敵をぶち殺すのは頼りにしてくれていいわ。宜しくね。


【From:サクヤ・クレナズム】

 付力師のサクヤよ! このアタシがやってきたからにはもう安心ね!

 こっちの世界での実戦経験はゼロだけど、ま、人間よりは幾らかマシに動けると思うわ。

 とはいえ一人じゃきついし、支援してあげるから精々頑張って働いてちょうだいね!


【From:後藤 良二】

 銃士の後藤だ。ロールスキルはウィークバレット。

 ここに来てからの任務は初めてだが、以前は地方のシェルの護衛任務についていた事もある。

 今回の任務、俺達にとっては重要な初陣となる。お互い、万全を期すとしようか。


【From:桐崎 トガネ】

 魔剣士の桐崎トガネだァ! 一丁宜しく頼むぜえええ!! ロールスキルはヘヴィスマッシュ!

 まーぶっちゃけ俺は化物と戦って奴らをぶっ殺せるならなんでもいいからな。

 こまけーこと考えるのは任せるわ! 殴り合うのだけが俺の仕事って事で、シクヨロォ!!


【From:真崎 宗助】

 聖騎士の真崎宗助だ。俺も実戦はこれが初経験……というか、知識や経験も覚束ない感じだな。

 装備もスキルもまだろくにそろってないが、出撃までには揃える。お手柔らかに頼む。




「……なあ、ロールスキルってなんだ?」

 コンピューター室を占拠した我等がTRPG部はいつものように青春の汗を流し部活動に勤しんでいた。

 なにやら園田君が部長に捕まっていたので、俺はその間依頼の作戦相談室に顔を出していた。とりあえず挨拶が交わされていたので自分も挨拶をした所で一つの疑問にぶち当たる。

「ロールスキルっていうのは……って、いちいち私が説明してたんじゃキリないでしょ? ワールドガイドとかルールページとか、自分で見て調べたら?」

 言われるがまますごすごと引き返したのは、園田君がなにやら可愛そうな事になっていたからだ。涙目でパソコンに向き合う彼の横顔を見ては、邪魔しちゃいけないなーって思う。

 そんなわけで、俺はルールページを確認してみた。

 ロールスキルというのは、それぞれのクラスに現在の所三つずつ用意されている特殊なスキルの事を言うらしい。

 プレイヤーキャラクター……PCは戦闘に四つまでスキルを持ち込む事が出来る。それとは別に、ロールスキルスロットというものが存在するのだ。

 このロールスキルというのは即ち、そのキャラクターがどのようなキャラクターなのか、というロールプレイのために存在しているものである。

 ロールスキルのうちどれを装備しているかで、そのキャラクターの立ち回りが大きく変わってくる。強力かつパッシヴで効果を発動する、キャラクターの大黒柱となるスキルだ。

 俺はページを移動し、修練場……スキルを購入できる場所で聖騎士のロールスキルを確認してみた。

 まず、一つ目に【ディフェンダー】。

 これは通常不利な判定を受ける、【隣接した味方ユニットへの攻撃を庇う】という行為を、不利判定を受けずに常時行う事が出来る、というスキル。

 攻撃を庇うたびに行動力を消費する為片っ端からというわけにはいかないが、このスキルをセットしていると基礎防御力が大きく上昇するオマケつきである。

 次に【セイクリッド】。

 これは回復魔法、支援魔法を発動する際、効果数値を上乗せ出来るというスキルだ。

 通常の聖騎士でも魔法を使う事は出来るが、その効果は本職の魔法系と比べると大きく見劣りする。

 このスキルをセットすればそれに追いつけるとまではいかないが、支援と戦闘の両立がしやすくなる。かつ、基礎魔力が上昇する。

 最後に【ブレイカー】。

 聖騎士は防御力が高い他は平均的な能力であり、言ってしまえば器用貧乏だ。

 ブレイカーは副装備であるシールドを放棄するというリスクを背負う代わりに攻撃力を大きく上昇させ、アタッカーよりに調整する為のスキルである。

 とはいえ、盾がなくても元々防御力は高いので、物凄く死にやすくなるというわけでもないらしい。

「なるほどなぁ……」

 要するに、だ。これで同じ聖騎士にしても、それぞれ立ち回りやスタイルが変わってくるという事だ。

 スキルは出撃ごとにセットが可能だが、最初の一個は無料で貰えるのに対し、二個目からはやけに高額な料金を請求される。今の俺にとっては事実上一つしか選択出来ない道理だ。

「悩むな……」

「何が?」

「うおっ!? 急に人の真後ろに立つんじゃねえ!」

 考え込んでいたらいつの間にか部長が後ろから画面を覗き込んでいた。腕を組み、彼女は首を擡げる。

「結構前からいたけど?」

「園田君はどうなったんだ?」

「現在作業中……ってわけでヒマになったのよ。んで、結局どのスキルを選ぶの?」

 使われていない椅子を引っ張ってくる部長。そこにストンと腰を落とし問いかける。

「んー。セイクリッドは俺の中での聖騎士のイメージに近いんだよな。でもなんか強そうっていうか、役立ちそうなのはディフェンダーかな」

「そうね。セイクリッドを選んでもやっぱり器用貧乏って感じは拭えないものね」

 聖騎士は現状の全クラスの中で最も防御系能力が高く、相応のスキルが揃っている。

 実際今回の任務でも俺に要求されるのは壁役だろう。であれば、壁特化に仕立ててしまうのが一番外れの無いやり方だとは思う。

「ちなみに通常スキルの中にもロールが一致して無いと使えないのもあるからね」

「マジか……あわせて確認しないと駄目って事か」

 これも良い機会かもしれない。作戦相談に関してはまだ期間が一週間近くあるし、すぐすぐ相談が進むわけではないので、暫くはヒマだ。

 装備を整えたりスキルを選んだり、敵の情報を調べたり……そんな感じで時間を潰すとしよう。

 ふとそんな事を考えながら振り返ると、そこにはニヤけ面の部長が立っていた。

「……何だ? 何か用か?」

「用ってわけじゃないけど。なんだかんだ言って結構楽しそうにしてるなーと思ってね」

「そうか?」

「そうそう。さーて、そろそろ園田君がどうなったか確認してこようかしらねー」

 飄々とした様子で立ち去る部長。その後姿を見送り、僅か1メートル程離れた席で悪戦苦闘している園田君に視線を向けてみる。

 まあ、あれはあれで放っておくとして……とりあえず、PBWの面白さと言う奴を体感しない事には正しい評価を下す事も出来ない。

 肩を回し、首をコキリと鳴らす。俺は再び自らの分身である宗助の為、情報収集を行なうのであった。




【From:後藤 良二】

 まずレギオンについてだが……相手はソルジャー級。特別な連携や警戒を要求される程の戦闘力ではないだろうな。

 ワールドガイドに掲載されている情報なので余計な事かもしれんが、出現予測ソルジャー級について。

 バグズ乙型が日本各地で最も数多く目撃される個体だ。非常に数は多いが、ステータスは低い。

 ただ、複数個体で1ユニットとして扱われるので、それがMSの判定次第では多少厄介かもしれんな。

 トライアングル乙型はやはりメジャーなソルジャー級だ。

 直接的な攻撃方法は体当たりと光線だったか。偵察機のような役割も果たす為、発見されるとバグズを呼ばれる。

 飛行ユニットに対しては近距離属性の攻撃は命中にかなりの低下補正を受ける。一応注意しておけ。

 後は、コマンド級がどう出るか、だな……。


【From:サクヤ・クレナズム】

 良二は説明ご苦労だったわね!

 まあ六人もいればソルジャー級は大した脅威にはならないでしょーね。

 恐らく出現が予想されるコマンド級だけど、NPCの神木玲奈を頼る事前提にされているところをみると、多少強力な個体でしょうね。

 ただまあ、中級レギオンに関しては、包囲してタコ殴りにする戦法で倒せない事もないと思うけど。

 大人しく引き上げるかどうかは全体の意見次第かしらね?

 そういえば、神木玲奈って強いのかしら?


【From:ルインズ・アーウェイ】

 確か、神木さんは他の依頼で単独でコマンド級を撃破している描写がありましたから、腕はいいんでしょうね。

 ただ、コマンド級は普通は単独撃破出来るような個体じゃありません。所謂中ボスくらいの戦闘力ですからね。

 この無料シナリオは一度も出撃経験がないPCでないと入れないわけですから、皆さん能力はレベル1の筈です。

 場合によってはコマンド級に蹴散らされる可能性もありますよね……。まともにやり合うのは危険だと思います。


【From:桐崎 トガネ】

 へぇ、コマンド級っつーのはそんなに強いのか。だったら俺は一度やりあってみてぇな。

 実際、コマンド級とやりあえる任務っつーのは低レベル帯じゃレアだ。今の実力でどれくらい通用するのか試してみてぇ。

 今回は神木っつー保険もあるわけだしな。

 流石に一人で突っ込んでフルボッコにされましたじゃ格好つかねーから、お前らがやりたくねぇなら無理強いはしないけどよ。


【From:天宮 静流】

 貴方達のページに跳んで能力を見させてもらったけど……コマンド級もやり方によってはそれなりにいい戦いが出来ると思うわ。

 基本的には聖騎士である真崎君と魔剣士であるトガネ君に前に出て貰って……他は後衛職が多いから、一斉砲撃で。

 ただ、コマンド級はかなり戦略的な思考をとってくるわ。神木がいるからと言って私達が足を引っ張れば結果はひっくり返るでしょうね。

 まあ、メタな話をすると……エクストラボーナスを狙うならこのコマンド級は落としたいわね。やれる可能性があるなら、私は試したいかな。

 ただ、特に壁役である真崎君には危険の大きい作戦になるわ。同時に彼が潰れたら全滅も有り得るから、責任も負担も大きくなる。

 真崎君がその気になってくれるならお願いしたいけど……彼次第かしらね。




 真夜中、俺は一人でスマホの画面を見つめていた。

 作戦相談室では他のPCが意見を述べている。何気に俺を中心とした作戦になりそうな雰囲気もちらほら見える。しかし……。

「……コマンド級が出てくるなんて、どこに書いてあった?」

 眉を潜め溜息を一つ。俺は斜め読みしかしていなかったオープニングテキストを読み直す為、深夜の延長戦に突入するのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ