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(3)オープニングを読もう!


●オーダータイトル

 【開戦】第五回学園初期評価試験



●OP本文

「――では、これより初期評価試験の概要を説明する」

 作戦相談室の一室、明かりの消された個室は教室と同様の作りをしている。段々に設置された長机についた生徒達は、教壇に立つ男へ注目した。

「諸君ら新入生には、旧和歌山県北部、通称エリア66におけるレギオン殲滅戦の末端に参加してもらう。エリア66は現在最も過酷な戦闘が繰り広げられている激戦区だ。エリア66を含む関西地区一帯は、現在日本の戦力を北と南で分断している場所でもある」

 教師が壇上の大型モニターを操作すると、簡略化された日本地図の画像が浮かび上がった。男はその中でも関西地区を拡大表示する。

「関西地区と関東地区は、一部を除きレギオン共に制圧された状況にある。住人の殆どは抹殺されたが、一部は各地拠点に篭り現在も抵抗を続けている。貴様らは66番ゲートから現地まで直接転送を行い、【シェル・ブラム】周辺のレギオンの始末を行なってもらう」

 そこまで一気に説明してから男は静かに咳払いを一つ。ここで漸く生徒達と向き合おうという構えを見せた。

「申し遅れた。私の名前はグラヴァン・ドルネーゼ……このシャングリラでは魔道系授業で教鞭をとらせてもらっている。ここに集まっている者は新入生である以上、私の顔を知らぬ者も居るだろう。諸君らの努力次第ではあるが、場合によっては長い付き合いになるだろう。是非宜しく頼むよ」

 銀色の長髪。痩せこけた顔に鋭い目付き。黒ずくめのローブを纏っているという事もあり、男の外見は良くも悪くも威圧的である。

 男は再び咳払いを一つ、更にマップを拡大する。そこから先、このブリーフィングが終了するまでの間、彼が生徒達と目を合わせる事は二度となかった。

「既に知っている者も居るとは思うが、幾つか補足しておこう。【シェル・ブラム】とは、人類側の都市を我ら空人の技術で覆い、強固なシェルターとしている土地の事を指す。今回の作戦で諸君らが護衛につくのは、旧和歌山市であるな」

 ――シェル・ブラム。それはレギオンに制圧された土地に生きる人々を守る最後の盾である。

 現地に派遣された空人の中でも特に強大な力を持つ人材、【柱】を中心に展開される光の防御壁。これが周囲を敵に囲まれた人々の生活を辛うじて維持していた。

 理論上シェル・ブラムは【柱】が殺害されない限りは都市を守れるだけの防御力を誇るが、シェルに対する攻撃をただ黙って見過ごすわけにもいかない。

 よって、都市には対レギオン戦力が駐留し、日々周辺レギオンの殲滅に当たっている。シャングリラの生徒にとって、それは彼らが任されるべき仕事の一つでもあった。

「シャングリラからエリア66まではかなり距離があるが、ゲートを使えば問題ない。ゲートの使い方に関しては、各自担当転送官にでも確認してくれたまえ」

 三度目の咳払い。それから男は教壇に積んであったプリントを手に取り、生徒達の方を見ないまま呟くように言った。

「細かい指示については現地の部隊の指示に従う事。くれぐれも勝手な行動はせず、諸君ら一人一人がシャングリラの名誉そのものであると自覚し、的確な行動を取るように。それと……」

「はじめまして、皆さん。特技教導隊所属、神木玲奈少尉です。今回の作戦では、私が皆さんの行動に対し評価をつけさせて頂きます」

 グラヴァンの奥に控えていた少女が前に出ると同時にはきはきとした声で挨拶をする。隣の空人とは異なり、こちらの態度は随分とフレンドリーだ。

「特技教導隊に所属し、少尉階級を与えられては居ますが……ご覧の通り皆さんと年齢はそれほど変わりません。覚醒者の先輩として、困った事があればなんでも相談してくださいね」

「……だが、彼女は試験管でもある。現地で試験管を頼ればそれは限定対象であるから、質問などがあればこの場で済ませておく事だ」

 グラヴァンの言葉に苦笑いの神木。気を取り直し、胸に手をあて凛々しく微笑む。

「エリア66は、関西地区では今の所それほど強力なレギオンは確認されていません。皆さんの実力でも十分に対応可能でしょう。しかしそれでもレギオンはレギオン、和歌山の人々を苦しめている事に変わりはありません。日々レギオンに怯えて暮らす人々に希望の光を見せる為に、どうかその力を私達に貸して下さい」

「……和歌山ではなくエリア66だ。間違った知識を生徒達に押し付けないでいただきたい」

「え……っと。それでは、これより作戦内容の再確認と、通信機の配布を行ないます」

 生徒達に資料と通信機を手渡す作業中、グラヴァンはずっと不機嫌そうな表情を浮かべていた。

「神木少尉。今回の作戦、これまで通りに上手く行きますかな」

「それはどういう意味でしょう?」

「私の杞憂であれば問題はないのですが‥‥エリア66では最近になって【コマンド級】の存在も確認されているそうではありませんか」

 その言葉に一瞬だけ険しい表情を浮かべる神木。直ぐに笑顔を取り繕い、優しく応じる。

「コマンド級確認の話は私も聞いていますが、まだその数は一体だけとの事です。今回の試験にはそれほど影響を及ぼさないと思います」

「エリア66の状況……新米を必要とする程劣勢ですかな?」

「今回の試験、私は試験管として彼らの安全を第一に行動します。下手な勘ぐりはせず、私を信頼し任せていただけませんか?」

「どうですかな……。ニンゲンと言う種族は狡猾です。我ら空人も、この数年でそれくらいの事は学びましたよ」

 深々と息を突き、いやらしい笑みを浮かべるグラヴァン。

「……何事も起きなければ良いのですがな」

 俯きがちに黙り込む神木。その表情からはやはり、完全に不安を消し去る事は出来なかった。



●解説文


▽目的

エリア66周辺のレギオンの掃討。


▽概要

 エリア66周辺のレギオン掃討戦に参加する。

 現在、旧和歌山市を中心とした第66番シェル・ブラムは、レギオン制圧域にて孤立した状況にある。

 66番シェルは現在も正常に稼働中であり、周辺に強力なレギオンが確認されたという情報は今の所ないが、断続的な襲撃が繰り返されているのも事実である。

 諸君ら新入生はこのエリア66周辺の敵勢力を殲滅する掃討戦に参加し、その一翼を担ってもらう。

 尚、今回の作戦は新入生に対する評価試験を兼ねている。試験管には神木玲奈少尉が同行。諸君らの行動に評価をつける。

 担当するエリアはエリア66周辺都市の一つで、現在はゴーストタウンと化し、レギオンの根城となっている。

 神木少尉と協力し、この地に蔓延るレギオンを殲滅する事が諸君らの任務となる。

 現地までの転送には66番ゲートの使用が許可されており、そこからの護送には教導隊から装甲車が用意される為準備は不要。

 くれぐれも現地部隊の足を引っ張らぬよう肝に銘じ、作戦行動に当たって欲しい。


▽敵戦力

【ソルジャー級】

 レギオンの下級戦力。様々な動植物の形をした、黒い結晶生命体。

 特にこの地区では飛行能力を持つ【トライアングル乙型】、戦闘力は低いが個体数が多く群れで行動する【バグズ乙型】の目撃例が多い。

 これらソルジャー級は新人でも十二分に撃破可能な個体だ。畏れず勇敢に立ち向かう事。


▽友軍戦力

【神木玲奈】

 自衛隊特技教導隊所属。階級は少尉。

 シャングリラで新人覚醒者の指導をしている少女で、関西地区出身。

 出身地の事もあり、関西地区での作戦に志願する事が多い。

 第一次越境防衛戦時、早期段階で覚醒を果たした魔剣士で、実力は信頼出来る。


▽特筆

 本オーダーには神木玲奈(魔剣士)が同行します。

 神木はPCに協力して行動しますが、あまり彼女の力を頼りすぎると減点の対象となりかねません。

 現地に取り残されている人間は存在しない為、純粋にレギオンを殲滅する事が評価内容となります。

 尚、なんらかのアクシデントが発生した場合には、神木に頼り撤退を推奨します。






「……それで、先輩……その、テストはどうだったんですか?」

「死んだ」

 俺の財布から五千円札が略奪され、一方的な殺戮が行なわれてから一週間と少しが経過した。

 この一週間の間に、まあ定期テストというものがあってだ。俺達学生はそれに従事し、その間はろくに遊ぶ事も出来なかったわけだが。

「だ、ダメだったんですか……それはそのぉ……ご愁傷様です」

 テスト最終日の昼下がり。俺は後輩の男子生徒と一緒に屋上にやってきていた。テストの為半ドン……今半ドンって言葉通じるのかわからんが……まあ兎に角学校が早く終わった俺は、後輩と一緒に開放感を満喫しにきたというわけだ。

「もうすっかり秋めいて来ましたね。風も冷たくなったなぁ……」

「そうだなあ。園田君とTRPGをやってから、早くも二ヶ月が経過したわけだが……」

 その言葉を耳にした瞬間、あからさまに園田君の体がびくりと震えた。今やすっかり縮こまり、青ざめた表情を浮かべている。

「その話はもう、や、やめてください……」

「なんだ、まだ引き摺ってたのか。君だって我らがTRPG部の一員じゃないか」

「ぼ、僕は違いますよぉ! 人数が足りなくて困ってるからどうしてもって、黒井先輩が……」

 肩をばしばし叩いてやると、面白いくらいに狼狽して今にも泣き出しそうになる園田君。何を隠そう、彼も我等がTRPG部の一員であった。

 といっても、彼が部室に来たのは最初の三日間だけだ。その間にそれはもうひどい仕打ちを受け、部長恐怖症になって部室には顔を出さなくなった。

 実はさっきも廊下でばったり遭遇した際、とりあえず部室に誘ってみたのが彼はそれを断固拒否。屋上ならいいですぅ~というので、ここまで引っ張り出したわけだ。

「実際今も困ってるんだよ。あいつと俺で二人きりっていう状況は非常に好ましくない。園田君、君しか頼れる人はいないんだよ」

「そ、そうやって強引に押し通すのやめてくださいよぉ! 僕、断れないんですからぁ!」

「それをわかっててやってるわけだが」

「余計たち悪いですよぉ!!」

 まあ、正直な話。部長がこいつをイジりまくる気持ちもわからんでもない。

 園田君は線の細い高校一年生で、色白で顔立ちもすっきりかわいらしい男の子だ。割とちゃんとしていればイケメンなのだろうが、性根がナヨナヨしているのでどうしてもかわいい止まりになってしまう残念な子である。趣味は園芸。

 ちょっといじめるだけでこれだけいい反応を示してくれるものだから、あの時は俺も部長と一緒になってイジメちゃったりして……そりゃこなくなるわなぁ。

「部長はまた君とTRPGしたがってたぞ」

「も、もうやりたくないですぅ! だって……だって……僕っ! 女の子の役なんか無理ですよぉ!」

 泣きそうな顔で叫ぶ園田君。そう、彼がTRPG部から遠のいてしまった直接の原因……それが例のTRPGであった。

 約二ヶ月前、俺達は部室でTRPGを行なったのだ。俺のPCは……その……漆黒の風と呼ばれる黒衣の暗殺者。そしてこの園田君がロールしたキャラというのが、非常にキュートな感じの魔法使いの少女だったのである。

 GMがあの部長と言う事もあり、なんかこう執拗にエロいイベントを差し向けられた園田君は、俺があえて引っ掛かったトラップとかの効果もあり、それはもうしんどいことになってしまったのだ。

 でもこの性格なもんだから、最後の最後まで逃げ出せなくて、結局最終的には泣きながらもプレイを続行していた。

「僕、男らしくなりたくて悩んでるのに……女の子の役やらせるなんてひどすぎます!」

「なんだ男らしくなりたかったのか。だったらそうだな……TRPGをやろう!」

「だから、もうTRPGは嫌なんですってばぁ!」

 おお。なんかこう、両手を小刻みに振りながらジタバタしている。まるでどこかのアニメキャラのような動きだ。

「あ、見つけたわよ!! テスト終わったら速攻部室に集合って言ったのにすっぽかすとはいい度胸……あら? 園田君?」

「ヒッ! 黒井先輩……」

 素早く飛び退く園田君。部長はそんな園田君を見つめ、まるで新しいおもちゃを見つけた幼子のように瞳を輝かせる。一方園田君は蛇に睨まれたカエル……といったところか。

「園田君、会いたかったわよー! いやーん、かわいいかわいいっ!」

「わぁあああっ!? こ、こないでくださ……く、くっつかないでくださいー!」

「ほれほれ、女の子の身体だぞ~! やわっこくていいにおいがするぞ~! うりうり~!」

「あっ、ああ……っ! やだ、僕、僕……女の人苦手……で……っ!」

 何をやってるのかは大体想像がつくが、俺はあえて見ない。見ないという事が最大限の園田君に対する配慮だという事を理解してほしい。

「んで、テスト終わったわけだが……?」

「あ、そうだったそうだった。ねえ、ちゃんと私が言ったオーダーの内容確認しておいたんでしょうね?」

「今それを見てたトコ」

 ベンチに座ったままスマートフォンを振る俺。部長はそれで興味がこちらへ移ったのか、ぴょこぴょこと駆け寄ってきた。

「どう? どう? 面白そうでしょ?」

「ん……と、まだよくわからん。ただ、敵を倒すだけの簡単なオーダーって事はわかった」

「他に何か感じた事は? ひっかかった事とかでもいいわよ?」

「は? んー……教師が陰気な奴って事くらいしか……」

 そんな話をしながら振り返ると、何故か園田君がYシャツのボタンを全て外された状態で、なんかこう、アニメチックな構図で床に転がっていた。

 見なかった事にしよう。

「ま、素人じゃそんなものかしらね。思いっきりわかりやすく書いてあると思うんだけどなー」

「何がだ?」

「それは後で説明するわよ。それよりあんたのPCで注文したイラスト、もう届いてるわよ」

「マジか!?」

「今日来たみたいね。マイページ行けば確認出来るわよ」

 慌てて自分のPCのページを確認してみる。すると今までただの空欄に過ぎなかった場所には、立派なイケメンが鎮座していた。

「やっべ超かっこいいんですけど。俺この絵師様の信者になるわ」

「一週間で完成するなんて作業速いわよねー。私もこの人に注文してみようかしら」

「あ、あの~……? お二人はなんのお話をしているんですか……?」

 ボタンをいじりながらおずおずと顔を出す園田君。俺達は同時に振り返り、彼の肩を掴んで引き寄せた。

「「 PBW 」」

「え? ぴー……えっ?」

「今、こいつのPCのイラストが完成したんで見ていたところよ」

「イラストって……このイラストですか? わぁ、きれいですね」

 うむ。手前味噌で申し訳ないが、本当にイケメンなのだ。いやー、本当に頼んで良かったなあ。あの時は……正直不安ではあったんだけど……。


 時を少し巻き戻そう。あれは今から一週間ほど前の事。

「イラスト一枚三千円!?」

「そ、三千円」

 コンビニでオンラインマネーを購入した俺に部長は真顔でそんな事を言ってきた。

「イラスト作るのだってタダじゃないわよ、当然でしょ? 更にオーダーは一度参加するのに千円かかるわ」

「おいおいおい、高校生の金銭事情でやれるゲームなのかそれは!?」

 自慢じゃないがバイトはしてないし、親だって普通のサラリーマンだ。稼ぎも当然平凡な、俗に言う中流階級の家庭なんだぞ。そんな毎月貴重な小遣い使ってられっかよ。

「イラストは最初の発注は安くすむサービスがついてるから、これでも価格は据え置きなのよ? アイコンも無料でついてくるしね」

「アイコン?」

「PBWでは、自分のキャラクターのアイコンって重要なの。それがあればチャットするときにも使えるし、掲示板や作戦相談の時にも顔を出せるってわけ。このプランならキャラクターデザインとアイコンがセットになって三千円だから、お得なのよ」

 部長は俺のスマホを引っ手繰り……ちなみにこいつのはガラケー……イラストの発注ページ……使い方がわからないというので俺が開いた……を指差す。

「イラスト代は初期費用だと思って割り切りなさいよ。かなり細かく指定してイラスト作ってもらえるから病み付きになるわよ?」

「う、ううむ……まあ、イラストは我慢しよう。三千円でも……イラストなら安く感じる。だがオーダー一回千円ってのは高すぎる!」

 握り拳で叫ぶ俺。イラストが欲しいという気持ちはモノカキならではかもしれないが、オーダーが高いというのもモノカキならではなのだ。

 自分で文章を書いた経験があると、どうしても文章に対する価値観というものは少し下がる。自分でも頑張れば書けるかもしれない……そういう前提が頭にちらつくからだ。

 同じ事はイラストにも言えるのではないだろうか。自分で美麗なイラストを書けるやつにとって、このイラストの発注費用三千円は高く感じる事だろう。

「オーダー一回ってあの小説を買うって事だろ? 一回分で何文字なんだ?」

「えーと、あそこのは参加者一人につき千文字。だから六人参加の依頼なら六千文字。八人参加なら八千文字ね」

「少なすぎるだろ! ラノベの文庫本だって十万文字くらいあってワンコインとかだぞ!?」

「それは、量産体勢の整ってる商品だからでしょ? 出版社がきちんと流通させてる商品と、PBWのリプレイを同等に考えるのはお門違いよ」

「何がどうお門違いだっていうんだ」

「例えば同人誌。エロマンガ」

 腕を組み真顔で言う部長。一つ同人誌の名誉のために言っておくが、全部がエロマンガってわけじゃないんだぞ。

「でも大体エロマンガでしょ?」

 人のモノローグを読むな。

「同人誌って、高いものは千円とかするじゃない。たった十数ページしかないマンガなのに、よ。それって高いと思わない?」

「そりゃ、自費出版だからだろ。自分で本にする所までやってるわけだから……あ」

「そういう事。同じマンガでも出版社が発刊してるものと、素人が手作りにしたものとでは、そもそも必要とされるコストが異なってくるわけ」

「ちょっと待て。その言い方だと、PBWのリプレイは素人が手尽くしたものだって聞こえるぞ」

「あら、正にそういってるんだけど?」

 飄々とした態度に俺は眉を潜める。それがどうして自慢げに言える事なんだ?

「つまり、素人が書いた文章に千円出せって事か? そんなんやるのバカか金持ちだけだろが」

「そもそも素人って言葉について議論の余地はあると思うけど……それに千円出す価値を見出せるかどうかは、実際にプレイしてから語ってくれるかしら?」

 至近距離で睨み合う俺達。暫くそうしていたのだが、何故か見る見るうちに部長の顔が真っ赤になり、俺は強引に突き飛ばされた。

「と、とにかく! 新規参加キャラクターは、無料シナリオってのに参加出来るの! だから判断するのはそれをやってからにしてちょうだい!」

「無料シナリオ……?」

「デ、デュリスフィアはまだ稼動初めて半年未満のゲームで、まだ新規って多いのよね。それでもMSが頑張ってるから、オーダーの回転率はよくて依頼にありつけない奴はそんなに居ないんだけど……」

「なんだかよくわからんが……無料で遊べるんだな?」

「一回だけね!」

 人差し指を立てた手をビシリと俺に向ける部長。まあここで熱くなっても仕方ない。俺はスマホを引っ手繰り、ゆっくりと歩き出す。

「わかったよ。じゃあその一回やってクソだったらやめるからな」

「上等よ。吐いた唾飲むんじゃないわよ」

「お前そういう台詞どこで覚えてくるんだ……?」

 二人で肩を並べて歩き出す。その間もずっと部長はPBWの話をしていた。

「それで、イラスト発注のやり方なんだけど……」

「おお。それは是非教えてくれ」


 まあ、そんなこんなで一週間。俺は無料シナリオが出るのと、イラストが完成するのをずっと待っていたわけだ。

「この依頼の募集開始は明日の朝七時ね。これは過酷な旗取りになりそうだわ」

「旗取り……?」

「うん、旗取り。まあそれはともかく、とりあえずOPについてはよーくチェックしておくこと。これを見れば現地でどう動くべきか、それからどんな事が起こるのかも全部わかるはずよ」

 全部わかるって……GMが全部勝手に動かすんだろ? そんなの予測しろっつー方が無理な相談だろ……。

 しかしまあ、こいつがこれだけどや顔ってことは、このOPに仕掛けがあるって事か。斜め読みだったけど、ちゃんと読んで見るか。

「ところで園田君、PBWって知ってる?」

「ふぇ!?」

 後ろでは園田君が部長に絡まれている声が聞こえるが、俺はOPの確認で忙しいので放っておく事にした。

「もうコンピ研が活動再開しているはずよね。よし、これからコンピューター室に急ぐわよ、園田君!」

「ええっ!? 僕、帰って庭のお花に水遣りをしなきゃいけなくてぇ……」

「そんなの明日でも明後日でも出来るわよ園田君! さあ、れっつらごう!」

「う、うわぁああん! 助けてください、先輩……せんぱーい!」

 なにかこう、救いを求める悲痛な声が聞こえた気がしたが……ほっとこう。

 こうして俺のPBW生活は、また一歩新しいステージに進もうとしていた……まる。


 ……生きろ、園田君……。

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