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DBAS怪事件録  作者: まきろん二世
赤い糸ノコ殺人
2/3

第2話 今回の事件は……

「良いですか、黒羽さん。人の不幸に幸せを見出しても、表に出してはなりません」

 電話があって1時間後、わたしは所長にお小言を垂らされていた。

「しかも、あなたは立派なレディーです。それが恍惚として股を摺り合わせるとは、社会的に大変恥ずかしいことなのですから、少しは自重しなければなりません」

「15の女子高生にレディーなんて大袈裟だわ。それに、あんたみたいな上流身分でもないし。両親なし、家の収入は事務所のバイトなわたしに、社会的体裁もあったもんじゃないわよ」

 所長が怯んだようにうぐっと詰まる。まあ、身分がどうのの後は全部彼には急所だからね。もちろん狙ってやった。

「と、とにかく、気を付けてください。はしたないものは、はしたないのd」

 コンコン。

 小言を遮るように、木のドアがノックされる。

 思わずおかしさにぷっと吹き出した。

 所長は納得いかない様子で眉を少し寄せてから、

「どうぞ。お入りください」

 と営業顔になって、声をかける。

 

 ドアはゆっくりと開いた。

 その向こうから、ひとりの女性が現れる。

 30代程と思えるが、顔はそうとは見えない程やつれ、皺が走り、カサカサだ。目に生気はうかがえず、その代わり、そこには飲み込まれそうな洞窟がある。暗く、絶望的な瞳だ。

 

 かわいそうー。

 人間という種族はこう思うのだろう。いわゆる同情、シンパシーとか言うやつであろうか?

 

 でも、悪魔のわたしには分からない。

 他人の不幸は大好物。

 他人の不幸を幸せと感じる種族だから。

 

 人間の一般概念に疑問をぶつけつつ、クライアントがソファーに着くのを待つ。3つある内、ドア際のものだ。

 それに腰掛けると、わたしには共感できない心持ちで深くため息をついた。

「解決……してくれるのですね?」

 開口一番、所長に問う。

「ええ。もちろん」

 スーツの裾などをチェックし終え、紳士然として見つめ返す。

「ただ、その前に、お話をうかがわなければなりません。あなたがここに来た経緯をお話しください」

 わたしは、ももを机代わりに、ノートを用意し、メモの準備をする。

「はい。分かりました……」

 女性は語り出した。


 依頼主である女性の名は、伊藤あかり。旧姓、根岸あかり。現在30歳で、専業主婦。

 夫はサラリーマンの伊藤弘(ひろし)。高校で知り合い、大学卒業後に結婚。円満な家庭を営んでいた。


 が、昨晩、そんな平和な日常は崩れ去ったのだ。



 一台の扇風機によって。



 弘さんは、会社から帰宅して20時頃、あかりさんとふたりで夕食をとっていた。

 他愛もない会話をいつものようにしていたら、話題は今流行りの昼ドラに行き着いた。

 そのドロドロとした愛憎劇の模様を、あかりさんは弘さんに語って聞かせるがー


「もうやめよう。その話は」


 弘さんが辛そうに言ったのだ。

 あかりさんもハッとして、口を閉ざした。


 居心地の悪い空気になってしまい、あかりさんは一旦席を立った。

 コップを手に台所へ行き、お茶のお代わりをつごうとする。

 食卓のある方に背を向けて、冷蔵庫からペットボトルを取り出しー



 その時、背後で悲鳴が上がったのだ。



 驚いて振り向くと、夫が血に染まっている。何かを叫んで、前方を指差している。

 一体どうしたの!?

 と、呼び掛ける寸前、再び血しぶきが上がった。

 同時に、見覚えのある「何か」が離れていく。 

 弘さんはその「何か」を差して、声ならぬ声で絶叫している。

 だがすぐに三度目の血が上がった。

 そこでようやく分かった。

 襲っているのは「何か」がーー。


 

 

 それは、扇風機の羽だった。




 何度も何度も、執拗に羽は弘さんを襲う。

 断末魔の叫びは絶え間なく、見る見るうちに上半身はえぐられていった。

 救いに行こうにも、その隙がない。

 あかりさんはただ立ち尽くす他なかった……。


 残虐な暴力は、弘さんが倒れ込んで終わった。

 羽が満足したようにふっと食卓に落ちる。

 確認するまでもなく、愛しの夫は胸元を傷だらけにして、絶命していた。


 あかりさんはこの直後、ショックの余りに気を失い、起きたら今日の昼だったのだ。

 それから、この尋常ならざる怪事件の犯人ーとある故人に思い至り、怪事件解決のプロDBASに依頼を寄せた。



 以上が語ったことのまとめである。


「うーん、そうですか」

 姿勢正しく、口を挟まずに黙って聞いていた所長が頷く。

「扇風機の羽が襲う……ありそうでなかったですけど、私の力で何とかなりそうですね」

 悪霊にしたってピンからキリまでいる。

 運悪く最強に当たってしまえば、かなり強い天使の彼でも、勝てるとは限らない。口での説得で済むことも一応あるが、戦闘でねじ伏せなければならない場合もあるのだ。そのため、悪霊の強さを、まず初めに推し量るのが重要なのである。

 ちなみに、彼に死地ギリギリまで追い詰められたわたしは、悪魔界三強のひとり。14の女子に24の悪魔悪霊討伐のプロが手こずったのも当たり前だ。

 話を戻すと、扇風機の羽を動かす程度なら力の程は知れている。なお、悪霊の力は、手を組んだ悪魔ー死人の霊魂には初め善も悪もない。悪魔と手を組んだら悪霊となり、天使と手を組んだら聖霊となるのだーの力に比例する。

「では、いくつか質問をします」

 依頼の受理を最終決定し、所長が足を組む。

「楽にしてくださって結構ですよ」

 柔和に微笑んで、ガチガチに緊張したあかりさんに言う。

「は、は、はい……」

「そうです。お美しいご婦人には緊張など似合いません」

「は、はいっ!?」

「所長?」

 口説くような文句に、ギロリと睨み付ける。

「い、いえ、決して他意はありませんよ」

「ふーん」

 訝しげに鼻を鳴らすが、所長は気にせず質問を始めた。



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