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七分間のプロトコル  作者: 船越 蒼波


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3/5

それぞれの思惑

点検網道の突き当たりに、番号のない扉があった。

林澈が肩で押すと、鍵はかかっていなかった。中は倉庫ではなく廃棄された回線室だった。期限切れの港区地図が壁に留められ、机には古い無線機がある。電源灯はまだ点いていた。誰かがついさっきまで、彼を待っていたのだ。

掌を開く。知らない男が残した金属片は硬貨より薄い。縁には「七码頭 B-17」、裏には黒く塗りつぶされた点検井を指す矢印だけが刻まれている。


無線機が鋭い雑音を発した。

「四十七秒遅い」喬嵐が言った。

林澈はイヤホンをつけ直した。「どこにいる」

「いるべき場所にはいない。イマンは?」

「一緒じゃないのか」

短い沈黙の後、喬嵐は言った。「アッカは、あなたと私に違う版を送ったらしい」

彼女はスクリーンショットを送ってきた。同じ黒地、同じ署名、しかし内容は違う。

現場記録を保存せよ。誰にも原始端末を持ち出させるな。

時刻は二十三時四十六分。林澈の「離れろ」より七分早い。

「イマンには何が来た?」

「電話に出ない」

回線室の外で水音がした。林澈が画面を消すと、扉の隙間の下に泥のついた靴が止まっている。

「探す」

「急いで探さないで」喬嵐の声は珍しく揺れた。「白い整備車を見た?」

「なぜ?」

「本当の岸壁から出るのを見た。乗っていたのは港務の人間じゃない」


問い返す前に、扉が外から開いた。

イマンが立っていた。雨が顎から滴る。右手は空で、左手には端が焼けた紙を握っている。林澈を見ても安心した顔をせず、悪い知らせが確定したようだった。

「去らなかったな」

「おまえも」

「俺への命令は、おまえが出たことを確認することだった」

焼けた紙には二行だけ残っている。林澈が滞留した場合、まず記録が外へ出ないよう確保せよ。

誰も最も単純な説明を口にしなかった。アッカが、彼らを互いに疑わせようとしている。

それを言えば、これまで正確に見えた命令も、誰かを守るためではなかったと認めることになる。

「アッカの言い方じゃない」林澈が言った。

イマンは目を上げた。「いつから彼の言い方が分かる?」


回線室の灯りが明滅し、調度塔の方から二度目の鈍い衝撃が来た。古い地図が剥がれ、下の赤い印――八码頭住宅地――が現れる。そのそばに色褪せた手書きがあった。

リスクを転嫁するな。

父の字だった。

イマンはそれを見ても理由を聞かず、焼けた紙を机へ置いた。「どうする」

「誰のためにも記録を壊さない」林澈は窓の外の暗い港を見る。「それから、皆が命令を実行していると思わせている者を探す」

長い沈黙の後、喬嵐が言った。「なら、私たちがお互いに『皆』なのかを決めないと」

無線には電流音だけが残った。林澈が切ると、壁の管を古い雨水が滴る音まで聞こえた。

イマンは金属片を見た。「さっき誰を見た?」

「港務ベストの男」

「名前は」

「ない」

「知っていたな」


林澈は否定したかった。旧件も父も、雨の夜に浮く記憶も、知らないと言い続けてきた。だが隅の倒れた椅子には古い標語が貼られていた。座標を確認。次に人員を確認。 父も、食卓で地図を教える時に同じことを言った。地図で危険なのは空白ではない。誰かが先に印をつけた場所だ、と。

「一つの言葉だけ知っている」林澈は言った。「俺の父を知っている、と」

イマンの顔は変わらないが、右手が静かに握られた。決める前の癖だ。以前は頼もしく思えた。今は、その決断の前に何が捨てられたのか見えないだけだった。

「出る」イマンが言う。「物は喬嵐に渡して検証する。出所のない金属片で死者を追えない」

「なぜ死んだと知っている?」

イマンは止まった。


外の警報が変わった。機械的な退避案内が切れ、調度塔が主制御を失ったため八码頭周辺の封鎖を拡大するという、人間の焦った声に変わる。落ち着いて聞こえようとするほど、語尾が上ずった。

林澈は窓へ行った。黄色灯を回した工事車両が住宅地へ向かう。長く引かれた読点の列のようだった。

「封鎖拡大。誰が認めた」

イマンは答えない。端末の青い光に、末尾の一文だけが見えた。灰鏡組:制御可能な境界を維持。

「イマン」喬嵐が言う。「誰の命令を聞いている?」

イマンは端末を伏せ、回線室の配電盤へ行って主電源を落とした。網道が闇に沈み、扉の隙間の雨光だけが床に鈍い刃のように残る。

「今夜は、誰にも先に見つけさせない」

保護に聞こえる。しかし林澈は初めて知った。保護と統制のあいだには、誰も言いたがらない一つの名しかない。

「B-17」

喬嵐がすぐ聞く。「何?」

金属片を非常灯へ上げる。イマンは手を伸ばさず、一度見て眉をひそめた。「七码頭の旧点検井。十年前に封鎖された」

「確かか」

「港の保安図を作った。封鎖後は排水と旧通信線しかない。誰かが物を置く理由はない」

「理由がないから、理由にする者がいる」

誰も賛成していなかった。ただ喬嵐が、調度塔の予備回線がB-17の下を通ると遠隔確認した時、沈黙が票を投じた。


イマンが先を歩いた。手電筒は使わず、照明棒を壁際へ沿わせて狭い青い道を作る。林澈は、彼が水を踏む前に深さと前方の人影を測るように僅かに止まるのを聞いた。

「灰鏡組から命令が来たな」

「命令はたくさん来る」

「電気を落としたのはどれだ」

イマンは止まった。「すべての指示が口にする価値を持つわけじゃない」

「ならなぜ信じろと?」

彼は振り返った。下からの青い光で、実年齢より疲れて見える。「信じなくていい。ただ、今夜誰かは君たちの注意を互いへ向けたい。俺に問題があると急いで証明するほど、そいつの仕事をする」

正しい。正しいから反論しにくい。

「哲学は生き残ってからにして」喬嵐が割り込んだ。「B-17最後の保守記録を見つけた。署名は林正川」

父だった。


二秒の静寂の後、イマンは低く悪態をつき、歩き出す。

B-17は古い警告標識だらけの鉄扉の先にあった。鍵は壊れているが、閂には新しい黒テープが巻かれている。誰かが最近来て、ずっと開いていないように見せた。

林澈は七码頭の鍵を順に試す。三本目が回ると、内側で小さく噛み合う音がした。

「俺が先だ」イマンが手を上げる。

「命令を信じるなと言った」

「これは命令じゃない。習慣だ」

扉の向こうには黒水へ下りる点検井があった。鉄梯子は水に浸かり、壁の安全灯は忘れられた目のように数メートルごとに死んでいる。喬嵐は短距離回線に端末をつなげと言った。旧通信線の残留データを読めるかもしれない。

井底で林澈の靴が硬い物に当たった。機材ではない。水に白くなった薬の容器。七日前の日付と、顧原診療所の名がある。

「あの男はここに来た」イマンが言う。

「そう思わせたい者がいるだけかも」

奥には帆布をかぶせた古い制御盤があった。喬嵐が遠隔接続すると、画面は雪嵐の後、何度も上書きされたログを出す。最初の記録は文字でなく座標と時刻だけ。二十三時四十六分。

「私の命令が来た時刻」喬嵐の声が小さくなる。

二十三時五十三分。零時。三つの時刻は七分間隔だった。


イマンは焼けた紙を制御盤へ広げた。紙の繊維はログの出力形式と一致しない。長く見た後、彼は言った。「俺の命令はアッカの回線から来ていない」

初めて、疑いを口にした。

制御盤が短く鳴り、座標は八码頭診療所で止まった。顧原の診療所。

林澈とイマンは同時に顔を上げる。

「誰かがB-17で彼らを見ている」喬嵐は言い切る前に、画面が黒くなった。

停電ではない。制御盤は湿った空気を吹き続ける。黒くなる前の一枚が林澈の目に残った。ブラインドを下ろした診療所の正面、そこに停まる無標識の整備車。

「喬嵐?」

「いる」返事は早すぎ、普段の静けさがなかった。「中継を切られた。十秒前のキャッシュしか見えない」

イマンは梯子へ向かう。「診療所へ行く」

「行けない。封鎖が広がっている」林澈が止めた。

「じゃあ君が?」

狭い井底で見つめ合う。どちらも顧原を守るためと言って出られる。単独で動き、受け取った情報を隠せる。だから先に出る者は、残る者をまた疑念へ戻す。

「動かないで」喬嵐が言った。

「何?」

「上書きされていない端口が一つある。B-17は監視点じゃない。転送点。診療所の映像は生中継ではなく、別の場所から送られている」

制御盤の側面に欠けたコードが出る。林澈が父の通行証を読取部へ近づけると、赤灯が一度点き、緑になった。

扉が無音で滑る。書類はない。防水袋の古い録音機と磁気テープだけ。褪せたラベルに手書きの日付が残る。北湾事故後、七日目。

林澈はすぐ手を伸ばさない。

「誰が置いた?」

「俺に」

「それとも、父親に?」

父の名は古い鍵になり、今夜はあまりに多くの者がそれで扉を開けている。知らない男も、保守記録も、このテープも。

出来すぎている。

「喬嵐。位置、時刻、制御盤の状態を記録して。バベルだけに残さないで」

「もうしている」

「持ち出す?」イマンが聞く。

「いや」林澈は扉を押し戻した。「ここに置く」

今夜初めて、自分のために用意されたらしい答えを拒んだ。

井口の上で金属扉が開く音がした。誰かが下りずに立ち、雨を鉄梯子から一滴ずつ闇へ落とす。

「ようやく見つけたね」知らない声が言った。

イマンは林澈の前へ立ち、照明棒を下げた。見えるのは井口の濡れた靴だけだ。相手は下りず、名も言わない。あと一語で追える線を与えることを知っているようだった。

「答えないで」喬嵐が急いで言う。「最後の端口は保存した。地上から消そうとしている」

林澈は制御盤を見て理解した。テープの価値は内容ではない。それを持ち出すのを誰が阻止しに来るかだ。井口へ声をかける。

「林正川を知っているのか?」


雨が一瞬、止まったようだった。


やがて相手は静かに答えた。「知っている。でも彼は、あなたに私を知ってほしくなかった」

答えではない。ずっと前に彼のために書かれた判決のようだった。

林澈はもう聞かなかった。北湾で危険なのは誰も答えないことではない。

すべての答えが、彼を同じ用意された道へ押していくことだと、分かり始めていた。

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