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七分間のプロトコル  作者: 船越 蒼波


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1/5

取引の夜

北湾の雨は、どこへ降るのかを決めていなかった。

コンテナの屋根を叩き、風に巻かれて狭いヤードの隙間へ入り込む。その音は、持ち主を失ってなお働き続ける鍵束のようだった。遠くではクレーンが宙に止まり、赤い警告灯が濡れた鉄を巨大な獣の背骨のように照らしている。


林澈は廃棄された調度棟の二階に立ち、曇った窓越しに港を見ていた。イヤホンの向こうでは誰も話さない。沈黙は安全ではない。ただ、全員が誰かの最初の失敗を待っているというだけだった。

「時刻は」

「二十三時五十三分」喬嵐の声は、どうでもいい経費精算を確認するように静かだった。「予定より二分早い」

「天候は」

「こちらに不利です」

林澈は一度だけ笑った。「今夜は何もかもが不利だ」

その先は口にしなかった。だからこそ、誰かはバベルに現れてほしかったのだ。


公的な記録に、この取引は存在しない。買い手も売り手もいない。どの政府も報告書に書けない貨物もない。北湾には、雨で足止めされた夜勤者と、一時閉鎖された整備岸壁、故障で接岸を遅らせた古い貨物船しかないことになっている。

しかし林澈は知っていた。少なくとも四系統の監視がこの水面を見ていることを。少なくとも三つの政府から「事態の拡大を防げ」という命令が来ていることを。そして、雨が洗い流すべきものを洗い流してほしい者が、ほかにも大勢いることを。


画面の中で、名無しのタグボートが防波堤を越えた。害がないと誰かに示すように、ひどくゆっくり進んでいる。

「対象、外港に入りました」イマンが言った。

「港湾巡回は」

「通常どおりです。通常どおりというのは、大抵、誰かが先に話を通したという意味です」

林澈は誰が、とは聞かなかった。彼らの仕事は、すべての答えを知ることではない。知りすぎた人間は、肝心な時に正しいことをしたくなる。そして正しいことは、複雑に組まれた卓をひっくり返す。

短い通知音が鳴った。喬嵐でもイマンでもない。この回線を使う許可のある者でもなかった。

掌ほどの端末に一行が落ちた。

七分後に離れろ。振り返るな。――アッカ

袖口から雨水が手袋へ流れ込むなか、林澈はその文を見つめた。


アッカは説明をしない。バベルで彼を見た者はいない。正確には、見たと断言できる者がいない。引き渡し条約のない島に隠れた老人だという者もいる。いくつかの口座と、不気味なほど正確な予測プログラムにすぎないという者もいる。林澈は後者を信じたかった。プログラムなら、夜明け前に遺言のような文を送ってきたりはしない。


「変更ですか」喬嵐が聞いた。

林澈は画面を消した。「ない。予定どおりだ」

その夜、最初の嘘だった。


タグボートが整備岸壁に寄る。反対側では、標識のない白い冷蔵車が影から出てきた。二つの灯りは雨のなかで一瞬だけ交差した。異なる二つの言語が、互いに通じる一語を見つけたように。

その直後、港内放送が鳴った。

電流の雑音。続いて、丁寧すぎるほど平板な機械音声。

「北湾八码頭で危険物処置事案が発生しました。許可のない者は直ちに退避してください」

林澈の胸が沈んだ。

八码頭はここから三キロ離れ、実際の岸壁からはもっと遠い。誤った座標。あるいは、わざと誤らせた座標だった。

「誰が出した」

喬嵐は二秒、黙った。「こちらの系統ではありません」

イマンの息が重くなった。「巡回車が八码頭へ向かっている。林、退け」

端末がまた光った。文字はない。表示されたのは、06:58のカウントダウンだけだった。


港の端、八码頭のそばには、移転が済んでいない古い住宅地がある。雨のなかの数百の窓灯りは、誰かが盤上に放り出した白い駒のようだった。

父が残した通行証を思い出す。端が白く擦れていた。父が最後に北湾で姿を見せた日も雨だった。公式発表は、それを避けられない事故と呼んだ。

何を、誰が、避けられないと決めたのかは、誰も説明しなかった。

「林?」

06:41。


彼は階段を下り、ヤードを抜け、車に乗り、この先だれも認めない雨から去るべきだった。それがアッカの命令であり、バベルの人間がもっとも得意とすることだった。正しい時刻に消えること。

だが八码頭の放送は繰り返された。繰り返されるたび、また一つ窓が灯った。

林澈はイヤホンを外し、ひと言だけ残した。

「取引は続行する。俺はあの間違いを見に行く」


雨音が一気に世界へ戻った。

一階へ下りると、階段の感応灯がちょうど消えた。

闇は長く続かなかった。港の反対側から探照灯がコンテナの列をなぞり、長すぎる針で夜を縫っていくようだった。林澈は扉の陰で、自分の靴先から光が離れるのを待った。

ここに留まる理由はない。車は西側の整備通路にあり、鍵はポケットの中、逃走経路は誰かが計算済みだった。車まで六分。港を出るまで五分。四分あれば、明日の記録は「関係者を確認できず」という一文になる。

それでも彼は、反対の方向へ歩いた。

調度棟の裏口から、使われていない高架通路へ出た。欄干の黄塗りは潮風に剥がれ、床の薄い水膜を踏むたび、砕けた鏡に足を置くようだった。林澈は帽子を深くかぶり、「設備廃棄・立入禁止」と書かれた鉄扉を回り込んだ。


放送が、もう一度流れる。

今度は、そこにないはずの間を聞いた。

「北湾……八码頭で危険物処置事案が」

機械はためらわない。人にためらわされた時だけ、人間のように聞こえる。


林澈は立ち止まり、喬嵐に短文を送った。放送の原音を残せ。理由は聞くな。

三秒後、句点だけが返ってきた。それが彼女の「了解」だった。彼女は「受領」とは書かない。その二文字には、存在しない契約へ責任を署名する響きがある、と言っていた。

イヤホンは襟元へ押し込んでいたが、時おり雑音が漏れた。イマンが彼の名を何度も呼ぶ声は、雨に切り裂かれていた。

「……退避経路じゃない……おまえの位置が見られている」

林澈は答えなかった。


前方のヤードには、フォークリフトが一台、雨の中で止まっていた。エンジンはまだ温かい。運転席は空で、フォークには青い雨合羽が掛けられている。袖から水が滴り、たった今そこから誰かが抜け出したようだった。

後ろへ回ると、足跡があった。六号のゴム長靴。歩幅は短い。先に八码頭へ向かい、それから港の内側へ戻っている。

足跡は、倒れたプラスチックのカップの前で消えていた。半分残ったコーヒーには湯気がなく、まだ雨水も溜まっていない。

誰かが、ついさっきまでここにいた。


「あなたはいつも、他人の間違いを自分の仕事にしますね」

背後から声がした。

林澈は振り返り、右手を腰へ落とした。触れたのは濡れたコートだけだった。高架の下に、港務局の反射ベストを着た若い男がいた。顔はフードの影に隠れ、左腕には古い機械式の腕時計をしている。

「ここは封鎖されている」

「だから来たんです」男は放送の方向を見た。「群衆は声のする方へ走る。見られたくない人間には、別の道ができます」

林澈は名を尋ねなかった。先に胸章を見た。ぼやけた番号の末尾には七码頭の印がある。

「七码頭の人間が、なぜ八码頭へ行く」

男は顔を上げ、笑った。見破られた者の笑みではない。ずっと待っていた質問を聞いた者の笑みだった。

「座標が違うと、あなたも聞いた」彼は言った。「でも、なぜ放送の方が間違っていると決めるんです?」

探照灯がまた二人をかすめた。林澈が目を細め、光が去るのを待つと、男は半開きの荷役扉の前へ半歩下がっていた。中の闇は不自然なほどきれいで、雨音さえ締め出されている。

「俺を知っているのか」

「あなたの父親を知っています」

表示は04:02になった。

男は反応を待たず、ベストのポケットから小さな金属片を出して地面へ置いた。濡れたコンクリートに、ほとんど聞こえない音がした。

「八码頭へ行かないでください。そこに何かがあると、誰があなたに信じさせたのかを見てください」

「おまえは誰だ」

男が扉を開ける。風が雨幕を押し、フードの端をめくった。林澈が見たのは、青白く疲れた顔だけだった。見覚えはないのに、古い写真の中で見たような顔。


次の瞬間、港の灯りがすべて消えた。

暗闇で、港務回線の声が言った。

「無許可者を確認。位置、調度棟東側」

それは、林澈が立っている場所だった。

イマンがついに叫んだ。「林、そこを離れろ!」

林澈は男を追わなかった。金属片を拾い、高架を引き返す。背後から急ぐ足音が迫り、同じ水たまりを踏んでいるように近い。前方の階段からも別の足音が来た。

二つの音のあいだで、彼は一瞬だけ止まった。

アッカのカウントダウンがゼロになる。

端末が黒くなる前に、最後の一文が浮かんだ。

今からは、どの座標も信じるな。

林澈は金属片を握り、高架の欄干を越えて下の点検網へ降りた。鉄網が大きく沈み、頭上を懐中電灯の光が横切る。手の甲の血が一瞬だけ照らされた。

振り返らなかった。

しかし着地の瞬間、港を揺らす大きな音がした。取引岸壁でも八码頭でもない。北湾の中央、調度塔からだ。


すぐに点検網の非常灯が点いた。普段の柔らかい白ではなく、最高警戒の事故でしか使わない琥珀色だった。水たまりも錆も、靴底の泥も、隠しようがなくなった。

端末は一秒だけ通信を回復した。港内網は乱暴に裂かれたようで、主航路の封鎖、職員登録の停止、現場記録の移送という権限申請が何百件も流れていく。一番上の申請には署名がない。それでも承認済みと表示されていた。


林澈はその二文字を見た。調度塔の爆音は、ただの故障ではない。誰かが、港から出入りした者を見分ける能力を奪おうとしている。残った記録をすべて、事故のなかで自然に失われたものに見せようとしている。

彼は金属片を内ポケットへ入れ、点検網の端の排水溝を越えた。背後の灯りはすぐには追ってこない。追う者にも新しい命令が届いたのだろう。そのためらいの方が、足音より恐ろしかった。


出口の先には仮設の避難コンテナが並んでいた。普段は交換部品と雨具が入っている場所に、放送で追い出された人々が詰め込まれている。女が眠る子供を抱え、制服の男に漏れがあったのかと何度も聞く。男は答えず、彼女を明るい場所へ押した。そこにはカメラ、規制テープ、「落ち着いてください」と書かれた電光板があった。


林澈はコンテナの影から、年配の作業員が引き返そうとするのを見た。道具も通行証も七码頭に残したという。警官は疲れた、しかし固い声で止めた。

「今は誰も通せません」

「誰がそう言った?」

警官は口を開き、答えられなかった。

港じゅうに、同じ文が増えていた。命令は届いている。命令主はいない。人々は見えない名のために、柵を上げ、扉を閉め、他人を雨へ押し出すしかない。


林澈は端末で電光板の時刻を撮った。二十三時五十九分。封鎖範囲はなお八码頭で、その下には新しい表示が流れている。住民を一時移送。理由は確認中。

理由は確認中。


彼は笑いそうになった。誰かはすでに結果を書いている。ただ、それに合う理由をまだ探しているだけだ。

喬嵐の文がオフライン回線を押し分けて届いた。西側通路は閉鎖。まだ港内なら地上を使うな。

林澈が顔を上げると、作業員は人波に運ばれ、ポケットから鍵束を落とした。褪せたゴムの小船がついた鍵で、七码頭整備班の印がある。林澈は拾ったが、返しには行かなかった。


鍵を盗みたいからではない。

反射ベストの男の古い腕時計にも、同じ小船がぶら下がっていたことを思い出したからだ。

鍵は掌の中で冷たかった。服の下では金属片が胸に触れている。二つの七码頭の物。一つは古い点検井へ彼を導き、一つは港から追い出された作業員の手にあった。両方が偶然であるはずはない。

遠くで、調度塔の赤灯が一度消え、また点いた。


林澈は雨の中へ戻った。西側へは行かず、まだ点検井へも向かわない。今必要なのは誰かを追うことではない。誰かに勝手な名前をつけられる前に、この港に何が残っているかを確かめることだった。

背後で「待て」と誰かが叫んだ。林澈は止まらない。若い警官の声かもしれない。誰に従えばいいのか分からない、別の誰かかもしれない。規制線の端を越えると、雨が襟から入り、短いあいだだけ頭を冴えさせた。


アッカは振り返るなと言った。

それでも彼は見すぎた。書き換えられた座標、署名のない承認、押し出される住民、消えてまた点く赤灯。それらはまだ真実にならない。だが、去ることは逃げることではないと知るには十分だった。誰かのために、もっときれいな物語を完成させることにすぎない。


父の古い通行証も握った。プラスチックの縁は柔らかく磨り減り、雨がぼやけた番号を流れていく。末尾の二桁は金属片のB-17とは違った。それでもどちらも同じ青黒いインクで消されていた。何を意味するのかは分からない。ただ、父が役に立たないものを彼の手に残したことは、一度もなかった。

そして今夜の北湾は、どんな古いことも静かに過去へ置いておく気がないらしい。


どこかで点呼が始まった。名を呼ばれた人々は雨除けの下で手を上げ、誰も規則を説明しない試験で、自分の存在を認めているようだった。林澈は最初の一団が連れていかれる方向を記憶した。市内の仮設避難所ではない。七码頭に近い古い倉庫群だ。地図に住民移送の経路はなかった。


彼はそれを喬嵐に伝えなかった。不信だからではない。今夜、口に出した瞬間に誰かの命令の一部になる情報が、あとどれだけあるのか、先に確かめる必要があった。


まるで北湾そのものから、誰かが舌を引き抜いたばかりのようだった。

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