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夜天の魔女  作者: 宵宮 詠
第10章
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6 夜明け


魔女が痛ましげに眉を寄せた時、

それは動いた。


「だから…… ちょう、だい……

お日様……僕に、ちょうだい……」


影は、ずる、と床を這う。


「強く、なって……一番に、なって……

父様も……アイツも……全部、全部……」


ずる、と、影は賢者を目指し、這う。


「僕の、お日様……」


魔女は、固く目を閉じ、開いた。

もがく影に、一歩、二歩、近づいた。

膝を突き、問う。


「触っても、いい?」


影の動きが止まる。


「……ちょっと、待って。」


静寂の刹那の後、影は霧となる。

霧が集まりこごると、影は少年の形となった。



魔女は、躊躇いがちに手を伸ばす。

そっと髪を撫で、その身を、胸に抱いた。

少年はくたりと、腕に身を預ける。


「……お姉さんってさぁ……バカって、言われない?」


少年がくつりと笑う。


「……さっき、自分で言った……」


「だろうねぇ……」


語尾が長い息に溶ける。


「……お姉さん、僕もう、疲れちゃった……」


魔女は言葉もなく頷く。


「こんなに壊してもさぁ……僕、元に戻っちゃうんだ。

……もう、いい……もう、いいのに……」


魔女は、闇に伸ばしてやれる糸を持っていなかった。

だから、言った。


「もう、いい。もう、いいんだよ……。

……お日様を、見てみたい……?」


闇は、微笑んで頷く。


魔女はその身を腕に、星空を展いた。


「闇と夜って……似てるのに違うんだね……」


吐息のような声に、

魔女は笑みを返すことしか出来ない。

闇をきつく抱きしめ、魔女は詠った。



「夜天の魔女が希う


原初に無のありて

無より光が生まれ

光より影が生まれし


闇の懐に星は灯り

彼誰かはたれと黄昏が

昼と夜を繋ぐ


今ここに夜は満ち

今ここに夜は還る


月よ

その巡りを持って

影に迷う者に

影に痛む者に

慈しみを示せ


東雲よ その名を解き

黎明よ その息吹を放て


夜は円環の中にあり

いざ

我が夜に暁の光あれ」



夜の帳が

慎ましやかにその裳裾もすそを持ち上げた。

空のがようようと白く染まりゆく。

やがてそれは一条の暁の光へ変わり

魔女の足元をそっと撫でる。

遠慮がちな夜明けは次第に眩く胸を張り

魔女の夜は朝の光に溶けていく。


影が大きな息を吐いた。


「やっと、終わりかぁ……」


陽が差し掛かる。


「あったかい、な……」


影は、さらさらと白くその輪郭を崩して

魔女の腕から零れていく。

陽光がひときわ眩く輝いた時

それはただ、灰と化した。


魔女は、光の中、

灰に塗れ、掻き抱き、握り締め

ただ座っていた。

朝日が、その影を長く落としていた。

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