表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜天の魔女  作者: 宵宮 詠
第10章
62/65

5 闇


「僕は上等だ!!!」


闇が叫んだ。


「優秀で、次代を望まれて、僕は、僕はっ!」


ずるりと身を起こし、闇はグイ、と涙を拭う。


「あ、いや、ご、ごめん……『どさんぴん』は、

取り消す……ちょっと、言ってみたかっただけ……」


魔女は狼狽えた。

闇は頷いた。

そして、肩で息を吐く。


「……ズルいよねぇ?お姉さんはそんなに強くて、

なんでも持ってて……」


魔女はゆるく首を振る。


「何でもなんて、持ってない。

できない事もいっぱいあって、

守れなかった物もある、よ……?」


魔女はその手の平に目を落とす。

闇は、ひどく真面目な顔で、告げた。


「でもお姉さんは、お日様に選ばれた。

お姉さんにはわからない。」


「……みんな、

選んだり、選ばれなかったりしながら、

傷ついたり、傷つけたりしながら、

それでも縁の糸を紡いで、生きてるんだと、思う……」


「糸の先に、なんにもなかったら?」


魔女は息を呑んで白珠を押さえた。


——双珠の糸が切れている。


そう思ったあの時が甦る。

それでも魔女は、息を吸い込んだ。


「……それでも、諦めないで、探す……」


魔女の震える声に、闇は目を細める。


「ひとりぼっちでも?」


魔女の脳裏に、桃染と琥珀が過ぎる。


「お姉さんはお日様に選ばれなくても諦めないで手を

伸ばせるの?絶望しないでいられるの?」


魔女は胸元を握り締めた。

何も、言えなかった。


——これは呪いだ。君への罰だ。


甦るあの声を振り払うように首を振る。

闇は嘲るように、唇を歪めた。


「知った風に言うな。わからないくせに。

選ばれない側のことなんて、わからないくせに!!!」


魔女はただ、震える手でローブの胸元を、月光石を、

握り締め続ける。

ずるり、ずるりと立ち上がりながら闇が叫ぶ。


「なんで!なんで!僕だけ何にもないんだ!

なんで!!」


魔女はひりつく喉から、声を絞り出した。


「……縛りつけた太陽も、抜け殻になった人形も

あなたを愛することは、ないんだよ……?」


「愛?愛!愛だって!?」


ゲラゲラと闇は笑い出す。


「そんなモノ、何の役に立つのさ!

そんなモノ、変わっちゃうんだよ!


……愛されてると思っても、すぐに手をすり抜ける。

手を伸ばしても、痛いだけだ。


お前の!あの男だって!

いつか変わっちゃうんだよ!!!」


ふっつりと笑い声が止んだ。


「……なら、変わらないお人形の方がいいでしょう?

笑ってって言ったら笑ってくれるよ?

愛してって言ったら、抱きしめてくれるよ?

ずっとずーーーっと、一緒だよ……?」


魔女は思い出す。

怜悧な美貌をくしゃくしゃにして笑う、賢者の姿を。


「……そんな事で、あなたは幸せになれるの?」


闇はまた笑い出す


「愛!幸せ!すごいや!

なんでも持ってる人の言うことは違うね?

手に入らないモノなんて、

最初から壊しちゃえばいいんだよ。最初からなかったことにしちゃえばいい。……母様も。」


くすくす、くすくす、楽しげに闇は笑う


「アイツが出来てからさぁ、母様変わっちゃったんだ。アイツを壊したら戻ってくれるかなって思ったんだ。でも母様はアイツを選んだんだよ。代わりに壊れちゃった。でもさ、僕のモノにならないんなら壊しちゃってよかったよね?」


魔女はヒュと息を呑んだ。


「壊れ……てる……」


少年の顔がくしゃりと歪んだ。


「うるさいうるさいうるさいうるさい!!!

父様と同じ事言うな!!!

おかしいのはアイツらだ!!!」


轟、と闇色の魔力が巻き上げる。


荒れ狂う魔力が闇雲に魔女と賢者を襲う。

魔女は髪一筋揺らさずそこに立つ。

魔女の作り出した力場を逸れて、

嵐は月の守りで美しい音色と成り果てる。


闇は月光に倒され、立ち上がり、なお叫ぶ。


「僕の方が強いのに!!!僕の方が賢いのに!!!」


魔女の唇が音もなく動いた。


回れ、回れ、糸車。

来し方を綴り行く末を編め。


——その、糸が、なかったら……


闇が床に転がる。立ち上がり、叫ぶ。


「なんでアイツなんだ!!!

なんでアイツが愛されるんだ!!!」


叫ぶ度に闇が荒れ狂い、月光が一閃する。


ふ、と嵐が止んだ。

襤褸切れのような影がひとつ、転がっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ