1 悪夢
白の伸ばす魔力の糸。
その先を目指してキナは飛んだ。
真っ直ぐ、ただ一直線に。
白の糸はキナを牽引する光だった。
オーロラの層をも突っ切って、
キナはひたすらに飛ぶ。
層に突っ込む度に目まぐるしく景色が変わる。
どこかで見たようで空気の違う森。
見た事もない四角い建物が立ち並ぶ街。
キナはすべての景色を置き去りにした。
やがて、糸が飲み込まれる先が見えた。
そこにはまるで、暗黒天体のような、闇色の球体が浮いていた。
近づいたキナが触れると、
それは薄い膜を幾重にも纏った繭に似ている。
キナは小首を傾げる。
脳内で花守が高笑いした。
「千切っては投げ千切っては投げしておしまいなさーい!」
キナは闇色をむんずと掴んだ。
ベリ、と小気味良い音を立てて膜が剥がれる。
「…………アスラン」 ベリ。
「……アスラン」 ベリベリ。
「アスラン」 ベリベリベリ。
「アスラーーーーーーン!」
繭に、ぽっかりと穴が開いた。
キナはその穴をグイグイと押し広げ身を滑り込ませる。途端、自由落下に捕まった。
重力に逆らい翅を動かす。
降りていくその先に、透き通った四角い箱が見えた。
徐々に拡大されていくその箱の中に、
アスランがいた。
——アスランは、
濁った意識で夢を見ていた。
囚われて以来、苛むことを止まない悪夢だった。
夢の中、キナが床に倒れ伏している。
傍に、闇色を纏ったいつもの男が立っている。
男は、キナの豊かな夜色の髪を踏みつけていた。
そしてゆっくりと身を屈めると、その髪を無造作に掴みキナを引き摺り起こす。
キナの、細い悲鳴が響いた。
アスランはギリギリと歯を食い縛る。
闇色の男は、キナのローブを引き千切る。
キナの悲鳴とともにアスランの贈ったブローチが弾けとび、床でカラカラと音を立てる。
男は、上衣から伸びる白い首筋にねっとりと舌を這わせ、にやりと牙を剥いた。
キナの目からほろほろと涙が落ちる。
「やめろぉぉぉぉおお!!!」
アスランは絶叫した。
男はゆっくりとアスランへと視線を向ける。
その目が、愉悦に細まった。
アスランの耳に昏く甘い毒が注がれる。
「やめてください、お願いします、でしょう?
良い子にしていたら、この魔女には酷いことしないでおいてあげるよ……?」
くすくすと笑う声を聞きながら
アスランの意識は、泥のような暗闇に沈む。
(——キナ)
祈るように、その名を想いながら。




