6 飛翔
キナは、上も下もわからない、
目眩がするような空間に浮いていた。
繋いだ花守の手の温もりだけが確かだ。
「ここから二時の方向を見ろ」
琥珀の光から迷宮の声が響く。
二人が視線を向ける。
その目に、大きく垂れ込めたオーロラと、
幾層にも重なり横たわったようなオーロラの間に
夜空の隙間が映った。
「これより位相空間を飛び、吸血鬼が隠した位相を
発見する。準備は良いか。」
キナは迷宮の光に頷いて、花守を見る。
花守は、にやりと笑って首を振った。
「やてーん。まだ準備できてないっしょ?」
キナが首を傾げると、花守が目を閉じた。
ふわり、と魔力がその身から揺らめく。
それは白いローブの背で煌めきながら、
桃染色に透き通る一対の翅を形作った。
キナが目を丸くする。
「可愛い!お花の妖精みたい!」
夜色がキラキラと輝いた。
「でしょー?テンション上げてこ?」
にっこり笑う花守に勢いよく頷いて、
キナは己の翅を広げた。
金の翅脈に象られた夜色の翅が、
ステンドグラスのように煌めく。
「ひゅー。囚われの王子様を助けに行くのに相応しい
翅だね。夜天かっけぇ。」
花守がパチンとウインクを飛ばした。
「……準備ができたなら、飛べ。道が閉じるぞ。」
二人は頷き、羽ばたいた。
オーロラの隙間の道を縫うように二人は飛ぶ。
「抜けて六時」
迷宮の声と共に、道の終わりに大きなオーロラの壁が
立ちはだかる。
一拍遅れるキナの手を引いて、花守が急降下する。
分厚い層を潜って行き、花守が浮上し始めると声が
飛んだ。
「高度キープ。後、9時に大きく旋回」
見ると二人の上空からオーロラの幕がひとつゆっくり
と垂れ込めてくる。
それを潜り抜けると前方に渦が見えた。
「渦に触れるな。特異点だ。」
その、ありとあらゆる色彩を巻き込んだ渦を、
キナは見た事がある。
海底神殿でアスランが作り出した渦だ。
その大魔法を、使えない状況にアスランはいるのだ。
キナの身体の奥がすぅっと冷たくなった。
花守に、手をギュッと握られる。
二人は大きく進路を取った。




