1 花守
……油断した。キナは思った。
奴らは明確にアスランを狙っていたのに。
結界を解いた間隙を、キナの注意が完全に逸れた
その瞬間を、正確に狙われた。
影のねっとりとした魔力の残滓の中で、キナは
キリキリと爪を噛む。
(落ち着け。黒はアスランに届いた。ならば白が
見つけてくれる。)
キナは震える息で深呼吸をする。
「白……白…… 黒を探して。アスランを探して……」
白の双珠に震える指を当て、目を閉じる。
白から、細い細い糸が伸びている。
キナは祈るようにそれを意識で辿る。
それは、途中で、ふっつりと消えていた。
キナは愕然と立ち尽くす。
「……なぜ……?ねぇ、白、どうして……?
どうして切れてるの!?ねぇ、どうして!!
やだ、やだ、なんで……
あ、あ……アスラァァァァンっっっ!!!」
キナは泣いた。
泣きながら跳んだ。
花守の魔女は自分の領域に他の魔力が現れたのを
感じた。くい、と眉を上げてそちらを見遣ると
扉の外に馴染みの魔力が具現する。
と思った途端。
バンッッッ!と扉が開いて泣き声が転がり込んできた。
「は、花ちゃん!ど、ど、どうしよう!アスランが、
アスランが、いなくなっちゃったぁあああ!」
うわぁぁああん!と泣き声は大きくなった。
魔女はカタンと席を立つ。
「どしたん?キナっち。『ししょー』と喧嘩したん?」
そして「あ。」と立ち止まる。
「すまん、こんな時だけど寿ぐ。
『我、新しき同胞の誕生を寿ぎ、その愉を祈る者なり』
超絶タイミング悪すぎだけど決まりだから、
マジすまん……」
言えばキナの肩を抱く。キナは泣きながらも
「わかってる」と言うようにコクコクと頷いた。
花守にソファへと誘われながら、キナは訴える。
「か、影が、あ、アスランをっ……つれっ、
連れてっちゃっ……」
ひぐひぐとしゃくりあげると、温かな手が背中をさする。
「し、白にっ……探してもらってもっ……
わ、わか、わからないのぉぉぉぉ!」
うわぁぁぁぁん!花守はキナを抱きしめた。
「よしよし、夜天、怖かったねぇ。
てかさ、その『影』ってなんなん?
夜天泣かせるとか絶許なんですけどぉー。」
キナは花守の肩をべしょべしょに濡らしながら答えた。
「きゅ、吸血鬼…… ミハイってのがいて、
やっつけて、けどそのボスが、アスラン狙ってて……
知ってたのに……知ってたのに!私のバカバカバカバカ!わぁああんっ!」
「えっとぉー」
花守はキナの背中をとんとんとあやしながら、言葉を
纏める。
「ミハイとかゆー吸血鬼がいてぇ、そいつをやっつけたけどそいつのボスがししょーを拉致った、ってことで、OK?」
キナはぐすぐすと啜りあげながらこくこくと頷く。
花守はキナの肩に手を置いて身を離し、
ローブの袖でぐしゃぐしゃの顔をぐいぐいと拭った。
「そんでぇ『白に探してもらった』ってのは……」
その時、キナの耳から「チリチリ」と音が鳴った。
桃染色の瞳がそこにある白い珠を見つめる。
「へーぇ、なるほどなるほど。夜天、いーもん飼ってんじゃーん?この子が『白』だね?ふむふむ。」
指を伸ばすと白を撫でる。白は応えるようにふるりと震えた。
キナは真っ赤な目でその様を見つめている。
やがて花守はうんうんと大きく頷き、指を離した。
「夜天、白と相棒はちゃんと繋がってる。
けど、『隠されてる』よ。」




