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夜天の魔女  作者: 宵宮 詠
第8章
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5 夜


「黙れ」


アスランの冷え切った声と同時に

その魔力が暴力的に膨れ上がった。

衝撃が、空気さえをも震わせる。

魔力は瞬時に無数の氷刃に姿を変える。

そしてぴたりと空に待機し、

ミハイへとその切っ先を向けた。


「……次にその汚らわしい口を開くときは、

己の断末魔の叫びだと思え。」


「おお、怖い怖い。」


ミハイは大仰に両手を上げて降参のポーズをとる。


それを見ながら、

キナは再び秘めやかに魔力の糸を伸ばす。

夜色の魔力糸は既に断ち切られた。

けれど、夜天の魔力は何色だったか。

夜に、星を、内包してはいなかったか。


キナは己の金色から、

叶う限り夜の香りを削ぎ落としていった。

研ぎ澄まされたアスランの残り香は

結晶の結び目のあわいを静かに静かに侵食していった。

部屋に漂うアスランの魔力の影に、

そっと身を潜ませて——


「まあまあ、そう焦らないでくださいな、

悠久の賢者殿。わたくしはただ……

『取引』をしに来たのですから。」


「取引だと?ふざけるな。」


「ええ、とてもとても、簡単な取引ですよ?

わたくしどもは、貴方様方にわたくしどもの

『眷属』になる権利を差し上げます。」


ミハイの唇が、ニィっと大きな弧を描く。


「その代わり……その極上の血を、魔力を、

わたくしどもに、啜らせてくださいなァァァッ!」


ミハイから魔力が溢れ出す。まるで触手のように

のたうち、二人を目掛けたその時。


「今!!!」


キナが叫んだ。

ミハイの結界が、ガラスの崩れ落ちるような音と共に砕け散った。そこにはもう夜が忍び寄る。魔力の金糸は結晶の欠片を抱えながらミハイへと牙を剥く。


「凍てつけ——

【オルクス・グラキ・フローリス(冥府の氷華)】!」


キナの叫びを間髪入れずにアスランの詠唱が追う。

獰猛な喜びに満ちたその声に応え、無数の氷刃が

一斉にミハイへ殺到する。


「ちぃっ!」


ミハイは咄嗟に触手を障壁に変える。

が、己の魔力は、己の魔力に勝てるのか。


金糸に絡め取られた切先は、ミハイ自身の魔力に

吸い込まれて行く。

その間隙かんげきを、氷の華が引き裂く。

アスランが渾身の魔力を注ぎ込む。

ミハイの障壁が削り取られて行く。


砕けたミハイの結界の後を

すでに夜は司っていた。

ここはもう、夜天の領域だ。

そして夜は、星々の世界だ。

キナは詠う。


「夜天の魔女が希う


夜の帳に抱かれしものよ

深き夜空を彩るものよ


今こそ祭

今こそ宴


歌え 踊れ

夜に仇為さんとする者を

星の巡りを妨げんとする者を


【ウィンデクス・ルナエ】

月に代わってやっちゃえアスラン!!!」


「はっははははは!」


それを聞いたアスランは、堪えきれずに哄笑した。

キナが詠い上げる、どこか間の抜けた魔歌。

ともあれアスランの魔力は爆上がりだ。


「いいぞ!詠え、詠え、夜天の魔女よ!」


アスランの魔力はさらに膨れ上がる。

パキン、と音がした。

ミハイの障壁が砕け散った。

氷華は、夜天の星々から降り注ぐ流星となって

ミハイを打ち据えた。


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