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夜天の魔女  作者: 宵宮 詠
第8章
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4 ミハイ


 二人は「徒歩の旅」を楽しみながら街へと戻った。

すでに日は落ちかけており、民家からはかまどの煙が

立ち昇っている。


子供たちが口々に「また明日!」と言いながら二人の

横を駆け抜けて行った。

その様子を横目に見ながら、キナは柔らかな笑みを

浮かべる。


「……なんだかお腹空いて来ちゃったね?」


「君はいつも腹ぺこだな?」


「育ち盛りなんですぅー!」


アスランが悠々とキナを見下ろして、

上から下まで意味深長に眺め回す。

キナが、「むぅ」と頬を膨らませたところで宿へと

到着だ。


昨夜から泊まっているそこは、こじんまりとして

いながらも居心地の良い宿だった。

キナはカウンターの主人ににこやかに会釈をして、

トントンと階段を昇っていく。


日はすでに落ち、窓からの月明かりに照らされた部屋へ、キナは「ただいまー!」と言いながら入っていく。


その瞬間。


「待て!」とアスランが叫ぶのと、

双珠がチリリと鳴るのは同時だった。


室内に、ねっとりとした魔力が澱んでいる。

二人は咄嗟に魔力を携え身構える。

部屋の片隅、暗がりがわだかまる一角から、

ぬらりと影が立ち上がった。


「……おかえりなさいませ。

ずいぶんと、待ちくたびれましたよ?」


含み笑いの混じったその声は漂う魔力に似て、

二人に纏わりつくようだ。


「誰?」


短い誰何の声に、くつくつと影が笑った。


「おや、これは失礼。わたくし、ミハイと申します。」


言いつつ、影は部屋の中央へ進み出る。

月明かりに、青白いその顔と、禍々しい紫色の髪と目が浮かび上がった。

ミハイはそのまま優雅に一礼して見せる。

そして、ニィ、と口の端を吊り上げると


「若様が……

わたくしの主人が、貴方様を御所望でしてね?

本日こうして、お迎えに上がりました。

悠久を生きる、賢者殿?

……ところで、そちらのお連れ様も……良い。

実に、美味しそうな魔力だ……」


ミハイがゆっくりと舌舐めずりをする。


「貴様!!【ウェンティ・エンシス(風の剣)】!」


アスランが唱えた瞬間、ミハイの魔力がぶわりと

膨れ上がった。

それはアスランの魔術を呑み込み、部屋いっぱいに

広がって行く。


「おっと、おっと。そう殺気立たないでくださいな?

少し、お話がしたいだけですよ?」


ミハイがパチンと指を鳴らす。その魔力はキン!と

硬質な音を立て、紫色の結晶となる。

閉ざされた空間で、アスランはギリ、とミハイを睨み

つけ、キナを庇うように前に出た。


キナは構えを解かないまま、そっと己の魔力を伸ばす。細く細く髪の一筋ほどに引き絞られた魔力が、

息を潜めるように秘めやかに、「ミハイ」と名乗った

相手の魔力の結晶を辿る。


ミハイは眉を持ち上げ、感心したように声を上げた。


「ほぅ?なかなか面白いことを考えますね、

お嬢さん。ですが、無駄ですよ?」


ミハイが指先で宙をなぞると、結晶から紫の魔力が

煙のように立ち昇る。それはまるで意思を持った蛇の

ように蠢いて夜色の魔力糸に絡みつき、ぷつり、と

断ち切った。


「……貴様、何者だ。何が狙いだ。」


アスランの地を這うような声が響く。

ミハイは芝居がかった仕草で、両手を広げた。


「わたくしは、ミハイ。申し上げたでしょう?

貴方様を我が主の元へ『歓迎』したいのですよ。」


にこり、と笑みを深める。


「ああ、そちらの貴腐ワインのような甘い香りの

お嬢さんは、わたくしが手ずから、

『歓迎』して差し上げてましょうね?」



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