3 洗うよ
「保存とか浄化とか足さないの?」
「もう無理だ」
そんなやり取りをしながら、二人は塔を出る。
チチチ、と小鳥の囀る声や、
草むらがサワサワと揺れる音が帰ってくる。
キナは結界柱の前で腰に手を当て、告げた。
「さあ、仕上げだ。洗うよ?」
アスランは無言で頷き、結界柱の前へと立った。
それを見たキナが、手で制する。
「私にやらせて?水洗い、『リベンジ』だ!」
目を丸くしたアスランを横に、キナが唱えた。
「月夢揚羽(蝶の羽ばたき)!」
キナは翅を羽ばたかせ、結界柱の先端を目指す。
「またそれか」と言いたげなアスランを一瞥する事も
なく、キナは空中で両手を高く掲げた。
「水明清環(雲の浄め)!」
キナが唱えると、
結界柱の先端に水蒸気が集まり始める。
それはムクムクと雲へと育ち、結界柱を囲む環と
なった。
両手を上げたまま、キナが魔力を高める。
雲の圧がそれに呼応して高まっていく。
やがて、雲は雨を降らせた。
それはキナの魔力の圧を受けた、激しい雨の
噴出だった。
雲は、ゆっくりと先端から降りてくる。
「うふふん、どうだ!キナさん特製、
『結界柱高圧洗浄魔法(業務用)』でっす!」
地上に降り立ちふんぞりかえるキナに、
アスランが言いにくそうに口を開く。
「いや、でも、これは……」
その瞬間、パリ、と小さな音が響いた。
キナが不思議顔で見上げると
パリ、パリ、という音と共に、雲の中に小さな閃光が
走っている。
(そんな術使ってないのにな?)
キナが首を傾げた途端。
バリバリ!ちゅどーーーん!
激しい閃光と共に落ちた雷は結界柱に弾かれ
もちろんキナに返ってきた。
プシュゥ。
という音が聞こえたような気がした。
地面に倒れ伏すキナがプルプルと震えている。
「必要なのは治癒か?回復か?」
キナに手を差し伸べ、アスランは聞いた。
ふるふると首を振りながら、キナは手に捕まり
立ち上がる。
「ど、どうして……」
「……圧が高まれば雲の中の氷の動きは活発になる。
そうなれば、必然、だろう?」
呆れたように言うアスランに、
キナはがくりと膝をついた。
「……ぎゃふん。」
呆れ顔のままキナを見下ろすアスランの肩が
小刻みに震え出した。
「……っ、あはははは!全く、君は!あはははは!」
遠慮なく大笑いしながら、アスランは再びキナを引っ張り起こす。
「ぅう」と恨めしそうに呻き、キナは立ち上がった。
結界柱は半分だけ綺麗になっていた。
笑いながらアスランが浄化の魔法をかける。
白い輝きを取り戻した塔を
笑いながら見上げる影と、
恨めしそうに見上げる影。
「さあ、宿へ向かおう。」
笑い混じりの声が森の中に響く。
その影で、小さな小さな、虫が蠢いた。




