1 ホーンラビット
アスランは、目の前でホーンラビットの肉を頬張ろうとするキナを、じっと見つめていた。
つい数十分前、木々の間にその姿を見つけたキナは、「おっ昼っごはーん♪」と言いながら、ホーンラビットに矢を射かけたのだ。
「……キナ。一つ、聞いて良いか。」
肉の串焼きに大口を開けたキナは、
そのままアスランに問うような眼差しを向ける。
「……何故まだ、魔物がいるんだ……」
モグモグと口を動かすキナは、
口の端に垂れた肉汁を指で拭いながら口を開いた。
「……なぜって???」
「君は世界を正したんじゃないのか。なのに、何故。」
「正してなんかいないよ。ちょっとずらしただけ。」
ホーンラビットをごくんと飲み込んで、キナは続けた。
「『正しさ』をちょっとずらして、
秩序を『美しさ』に書き換えただけ。
そんで、『営みは変わらず続いていく』って
定めたから?じゃない??
魔物いなくなったら冒険者さんたち、
『おまんま食い上げ』だもんね?」
アスランは鳩が豆鉄砲を食ったように
口をぽっかりと開けた。
「……そんな…… 営みは…… 変わらず、とは……
そんな……」
絶句するアスランをキナは不思議そうに見ながら、
モグモグとホーンラビットを咀嚼し続ける。
「……魔物さえ……
生態系のひとつ……と言うことなのか……」
串焼きを見つめながらアスランは呻いた。
キナはそんなアスランに首を傾げる。
「それより早く食べちゃおうよ、美味しいよ?
結界柱も、もうすぐそこだよ?」
「……」
沈黙の後、アスランはこくりと頷き、
ホーンラビットに齧り付いた。




