5 ローブ
グスタフの店を出る頃には、全てが逆転していた。
報酬として用意されていた代物、それは
「魔力結晶体でできた瓶に詰まった、純化されたマナの液体」
という、意味のわからないやたら凄いものだった。
キナは思った。
あの中身があれば「臨界点」なんて一発クリアなのではないだろうかと。
そして恐ろしい大人たちは、
「ほらよ」「ああ。」で、その瓶を投げ渡すのだ。
キナは、悪い夢を見ている気分だった。
そんなキナの心中も知らず、グスタフからの報酬に
大層ご満悦なアスランの足取りは軽い。
どこに向かうのだろうとキナが首を捻ると、
見透かしたかのようにアスランは言う。
「昨日の月光石が仕上がっている頃だ。
近くに君の好きそうなカフェもある。
……香辛料入りのミルクティーもあるぞ?」
キナはパッとアスランを見上げ、ぷいっとまた前を向く。
「……別に飲みたいなんて言ってないし。」
アスランはその赤らんだ耳を見て、くすくすと笑った。
見覚えのある店の並びに差し掛かった時、アスランは歩調を緩めた。
さて、月光石が先かミルクティーが先か。
思った時に、布地屋から店員が出てきて鉢合わせに
なる。店員は驚きながら二人を見、破顔した。
「お客様!なんて良い偶然なんでしょ。昨日のローブ、ちょうど仕上がったところなんですよ!」
「え?もうできたの?三日って……」
「それが偶然、縫い子の手が空いたんですよ。
それで、いつ来られても良いように総出で縫いました。お代も弾んでいただきましたしね!」
店員はアスランに向けてにっこりと笑いかける。
「アスラン、ちょっと待ってて?」
嬉しそうな笑顔でそう言うと、キナは店員と共に店へと消えた。
程なくしてキナが新しいローブに身を包んで現れた。形は何の変哲もないありきたりなデザインだ。
けれどその表地は深い深い、底しれないほどの
漆黒だった。
キナはアスランの前まで来ると、にこにこと笑いながら「どう?」と言ってくるりと回って見せる。
アスランは一瞬言葉を失った。月も星もない闇夜が、
キナの白い肌と夜色の髪を抱いている。
「……ああ。よく、似合っている。
……やっぱり、その色にしたんだな。」
キナは嬉しそうに、どこかくすぐったそうに笑う。
「やっぱり黒が、様式美かなって思って。
……でもね?」
そして「見て?」と言うように、その身をすっぽり覆ったローブの合わせ目を開いた。
そこには艶やかな夜色の裏地が張られ、
まるでキナの虹彩のように、金色の星が散りばめられている。
アスランはもう一度言葉を失う。
「東国ではね?こういうの『粋』って言うんだって。
表は地味で、中が綺麗なの。
女将さんに教えてもらったんだ。」
気恥ずかしそうに、それでも胸を張るキナに、
アスランはこくりと息を呑み、ようようと口を開いた。
「本当に、君に相応しい衣裳だ……。」




