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夜天の魔女  作者: 宵宮 詠
第7章
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4 おまたせ


 翌日。

二人はついに、ついにグスタフの店の前にいた。

アスランが躊躇いなく扉を開けると、覚えのある

濃厚な香辛料の香りが鼻腔に飛び込んでくる。


「来たぞ。」


アスランがそれだけ告げてカウンターへ近づくと、

グスタフは大仰に顔をしかめて見せた。


「おいおい、賢者サマよぅ。

こちとらヒヤヒヤして待ってたってぇのに、

伝言魔法が飛んできたと思ったら『依頼完了』の

たった一言。その後さっぱり顔も見せねぇってぇのは、いったいどういう了見なんだ?」


(ほら、やっぱり怒られた)


キナは小さく首をすくめる。

それを見たグスタフは「ガハハ」と笑い


「嬢ちゃん、お前さんにゃ言ってねぇ。

そうビクビクしなさんな。

悪いのは全部こいつだからな。」


アスランはグスタフに親指で指されても

顔色一つ変えず、


「契約を完了させるぞ。」


告げると、目顔でカーテンの奥を示した。



 三人はあの、グスタフの「お宝倉庫」へと向かう。


アスランは倉庫の真ん中で足を止めるが、グスタフは

ズンズンと進み、奥の小部屋へ入っていく。

「面倒だ」と書いてある表情で、アスランは渋々と

その後に従った。


キナはそんな二人にそっと着いて行くだけだ。

(あの香辛料いっぱいのミルクティー、今日も出てくるかな)などと思いながら。


 どさりと椅子に腰を下ろし、グスタフは険しい顔で

二人が席に着くのを待った。

キナはするりと椅子に座るが、アスランは殊更にゆっくりと、最後に腰を下ろした。


「で、いったい何が起こったんだ?」


グスタフの言葉にアスランの眉間の皺は深まる。


「依頼は遂行した。他に説明が必要か?」


「アスランお前よぉ……」


グスタフは深い深いため息を吐いた。


「ほんとそういうところだぞ?

『依頼完了』じゃあお前らが無事だったのかもわかりゃしねぇ。姿も見せねぇから怪我でもしたのかと気が気じゃねぇ。

そんでやっとこさ顔を見せたと思ったら、

嬢ちゃんの魔力が変わってる。

……これで何も聞くなってぇのかよ。」


アスランが答えを返さず、すい、と横を向く。

それを見てキナが


「……グスタフさん」


と口を開くと、アスランがギョッとした顔で、

グスタフがひどく真面目な顔で、キナを見る。


「なんだか、海底神殿の守りの機能?が壊れちゃってて、間違えて船を捕まえてたみたいなんです。

で、それをちょっと直してきたので、もう『怪異』は

大丈夫みたいです。


けど、私たちも侵入者って思われて……

あ、いや、侵入者なのは間違いないのかもだけど……

とにかく、帰ってこられたのはグスタフさんのお陰だったんです。」


アスランは目を丸くしたままキナを見つめている。

グスタフも、キナの言葉に目を丸くした。


キナはつぶらな瞳の男二人をよそに、

ゴソゴソとベルトポーチから一つの箱を取り出す。

それをグスタフへと差し出すと


「お礼、と言ってはなんですが、私の気持ちです。

受け取ってもらえると嬉しいです。」


グスタフは目を白黒させて、両手を降参するかのように持ち上げた。


「待ってくれ嬢ちゃん。俺ぁお前さん達をあそこまで

運んだだけだ。しかも嬢ちゃんのお陰で港まで安全に

帰してもらった。恩があるのはこっちってもんだぜ。」


キナはぶんぶんと首を横に振る。


「いいえ。私だけでもアスランだけでも、

海底神殿から帰ってくることはできませんでした。

二人が揃っていないとできない事だった。

そして、私の同行を後押ししてくださったのはあなたです。私にとってあなたは恩人です。」


グスタフは口を開けたり閉めたりを繰り返し、

ようやく「……よせやい。」と一言絞り出す。

気を取り直したのか、ひたりとキナを見つめて一つ

頷いた。


「……恩人なんざくすぐったくていけねぇや。

けど、そこまで言ってくれるんなら、こいつはありがたく頂戴しておくぜ、嬢…… キナ。」


キナは嬉しそうにこくこくと頷く。

そして箱を開けたグスタフは、言ったばかりの言葉をすぐに取り消したいと思った。


「こりゃ、まさか……

モーズソグニルの短剣じゃねえか!?」


「モーズソグニル…… えっと、モーズさんの

打った短剣です。美しいでしょう?」


「モーズ、さん……だと……?

キナ、おめぇ、モーズソグニルと知り合いなのか!?」


キナは少し首を傾げて考えた。


「はい、飲み友達です!」


グスタフは「キナ、恐ろしい子……!」と言いたげな顔だ。そこにアスランの声がぼそりと追い討ちをかける。


「……悪かった。礼を言う。」


ドワーフの名工と飲み友達の娘と、

詫びと礼を言う旧友。


グスタフは悪い夢でも見ているのだと

自分に言い聞かせた。



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