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夜天の魔女  作者: 宵宮 詠
第6章
36/65

3 営み


 パイと紅茶でHPもMPも満タンにした二人は、

アスランの次の目的地へと向かう。

キナはもう、「グスタフさんは?」と聞くのをやめた。


 道を行く二人の元に甘い香りが届く。先ほどまでの

喧騒とは少し違い、街全体が祝祭の準備で活気づいているようだ。あちこちで露店が設営され始め、

花飾りが窓辺に飾られていた。


あちらこちらに視線を奪われ、足取りが疎かになる

キナを見てアスランが笑う。


「キナは初めてだったな、柏葉祭。結界柱の建立をm祝う、盛大な祭りだ。三日間、街はこんな調子で

騒がしいぞ。」


「お祭!だからこんなに賑やかなんだね!

……花飾り、可愛らしいなぁ。

柏葉祭か、子孫繁栄を願う良い名前だね?」


「子孫繁栄」という言葉に、アスランは少し意外そうな顔をしてキナを横目で見た。

そんなアスランの表情を見て、キナは続ける。


「柏の葉は新芽が出るまで古い葉が落ちないから、

代々続いて行くって意味の縁起物だよね?

結界柱のおかげで、これから子孫の代までも安心して暮らしていけます、ありがとう、って事なんじゃないかな。」


アスランは思わず足を止めてキナをまじまじと見つめた。


「君……キナは物知りだな。その通りだ。


昔、街はもっと内陸側にあった。

港の発展と共に人々はこちらへ集まり、

スヴェイヤが生まれた。


結界柱は今や置き去りだ。

それでも、結界柱を祝う祭は続いている。

しかしその祭は、元は君が言った通り、

先祖に感謝し、子孫繁栄を願う祭だった。


……人々の営みとは、何やら摩訶不思議なものだ。

いつかまた、祭の意味も姿を変えるのだろう……」


感慨深げな様子を見てキナが口を開く前に、

アスランが指を差す。

その先に蔦の絡まるレンガ造りの小さな店があり、

看板には古代文字で「賢者の書庫」と書かれていた。


キナは看板をしげしげと眺め、一つ大きく頷く。

「合格」とでも言いたげだ。


「古代文字を選ぶセンス、名付けのセンス、

これは期待が高まりますねぇ。」


アスランは少し驚いたように目を見開いた後、

ふふ、と小さく笑った。


「ほう。センスを褒められるのは、悪い気はしないな。」


「え?もしかしてアスランがつけた名前なの?」


「友人の店でな。多少出資した成り行きで私がつけた。その分私好みの本を探しておいてくれている。」


知らなかった、と驚くキナに、アスランはにやりと

笑って付け加える。


「キナ、はしゃいで本棚を倒すんじゃないぞ?」


「もー!そんなことしませんよーだ!」


「したんだ、昔。君が本が好きだとわかった時、

小さな本屋に連れて行った。君は喜んで駆け回り、

止める間もなく棚にぶつかってな。」


クスクスと笑いながら、少し遠い目をしてアスランは語る。


「……覚えてないもん……」


目を逸らして口を尖らせるキナに目を細め、

アスランは重厚な木製の扉に手をかけた。

ギィ、と錆びた蝶番が軋む音を立てて扉が開く。

中から、インクと古びた羊皮紙の匂いがした。


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