3 営み
パイと紅茶でHPもMPも満タンにした二人は、
アスランの次の目的地へと向かう。
キナはもう、「グスタフさんは?」と聞くのをやめた。
道を行く二人の元に甘い香りが届く。先ほどまでの
喧騒とは少し違い、街全体が祝祭の準備で活気づいているようだ。あちこちで露店が設営され始め、
花飾りが窓辺に飾られていた。
あちらこちらに視線を奪われ、足取りが疎かになる
キナを見てアスランが笑う。
「キナは初めてだったな、柏葉祭。結界柱の建立をm祝う、盛大な祭りだ。三日間、街はこんな調子で
騒がしいぞ。」
「お祭!だからこんなに賑やかなんだね!
……花飾り、可愛らしいなぁ。
柏葉祭か、子孫繁栄を願う良い名前だね?」
「子孫繁栄」という言葉に、アスランは少し意外そうな顔をしてキナを横目で見た。
そんなアスランの表情を見て、キナは続ける。
「柏の葉は新芽が出るまで古い葉が落ちないから、
代々続いて行くって意味の縁起物だよね?
結界柱のおかげで、これから子孫の代までも安心して暮らしていけます、ありがとう、って事なんじゃないかな。」
アスランは思わず足を止めてキナをまじまじと見つめた。
「君……キナは物知りだな。その通りだ。
昔、街はもっと内陸側にあった。
港の発展と共に人々はこちらへ集まり、
スヴェイヤが生まれた。
結界柱は今や置き去りだ。
それでも、結界柱を祝う祭は続いている。
しかしその祭は、元は君が言った通り、
先祖に感謝し、子孫繁栄を願う祭だった。
……人々の営みとは、何やら摩訶不思議なものだ。
いつかまた、祭の意味も姿を変えるのだろう……」
感慨深げな様子を見てキナが口を開く前に、
アスランが指を差す。
その先に蔦の絡まるレンガ造りの小さな店があり、
看板には古代文字で「賢者の書庫」と書かれていた。
キナは看板をしげしげと眺め、一つ大きく頷く。
「合格」とでも言いたげだ。
「古代文字を選ぶセンス、名付けのセンス、
これは期待が高まりますねぇ。」
アスランは少し驚いたように目を見開いた後、
ふふ、と小さく笑った。
「ほう。センスを褒められるのは、悪い気はしないな。」
「え?もしかしてアスランがつけた名前なの?」
「友人の店でな。多少出資した成り行きで私がつけた。その分私好みの本を探しておいてくれている。」
知らなかった、と驚くキナに、アスランはにやりと
笑って付け加える。
「キナ、はしゃいで本棚を倒すんじゃないぞ?」
「もー!そんなことしませんよーだ!」
「したんだ、昔。君が本が好きだとわかった時、
小さな本屋に連れて行った。君は喜んで駆け回り、
止める間もなく棚にぶつかってな。」
クスクスと笑いながら、少し遠い目をしてアスランは語る。
「……覚えてないもん……」
目を逸らして口を尖らせるキナに目を細め、
アスランは重厚な木製の扉に手をかけた。
ギィ、と錆びた蝶番が軋む音を立てて扉が開く。
中から、インクと古びた羊皮紙の匂いがした。




