1 寄り道
あれから数日、アスランの疲労が癒えた頃に、
二人は再びスヴェイヤの街へと降り立った。
変わらぬ喧騒と、熱気にも感じる人々の活気は健在だ。
「じゃあまずはグスタフさんのお店だね?」
行き先を確認するキナに、アスランは僅かに
考え込む。
「そうだな、それが筋だが……ちょっと寄り道だ。
グスタフの店といえば、キナ、あそこで手に入れた
月光石があっただろう。」
キナは不思議そうに頷きポーチからゴソゴソと
取り出してみせる。
アスランはそれを受け取りながら
「少し磨いてもらおう。腕の良い店がある。」
そう言うと歩き出し、
雑踏に一度足を止めてキナに手を差し出す。
キナは大人しくその手を握り、隣を歩き出す。
「はぐれて迷子になるなよ?」
「……はーい。」
キナを覗き込んだアスランは、
キナの返事にふっと笑みを返して店を目指した。
キナはまじまじとその横顔を見上げ、何も言わずに
前を向く。
やがて雑踏から抜け、落ち着いた風情の店が
立ち並ぶ通りへ出た。
アスランはキナの手を握ったまま通りを行く。
そして一軒の店を指差した。
「あの店だ。……隣に布地屋がある。
キナもそろそろ新しいローブが必要だろう?
旅の間にだいぶくたびれてきた。
私が戻るまで、布地を選んでおくと良い。」
アスランがキナのフードを軽く摘んでそう告げると、
いよいよキナは、アスランの顔を穴が空くほど見つめ
はじめた。
「……何をじろじろ眺めて「師匠熱とかないですか?」
「は?」
「どこか具合悪くありませんか?大丈夫ですか?」
「……確かめてみるか?」
アスランはキナの額から前髪を除けると
コツン、と額を合わせてみせる。
アスランが身を離すと、ギュッと目を瞑ったキナが
目に入った。
「どうだった?」
「……ありませんでした……」
どこか恨めしそうに額を押さえて見上げるキナに、
アスランはくすりと笑った。
「ゆっくり選ぶと良い。こちらが終わったら合流する。」
アスランとキナは、左右の店へと別れた。
キナが居心地の悪さを抱えながらドアを開けると、
そこは様々な布地が色や素材で丁寧に分類され、
品良く鎮座した空間だった。
キナはまず、自分の目にご馳走をあげる事にする。
決して纏わないであろう、艶やかな薔薇色のアラクネ
生地。真珠のような乳白色の絹。透けて見えそうに
薄い、鮮やかな南国の織物。
満腹になったキナは、次に黒い布地に的を絞って
手触りや厚みを確かめていく。
やがてアスランがカラン、とドアベルを鳴らして
姿を現した。
真剣に選ぶキナを、入口近くの壁にもたれて
眺め始める。
「……キナ。君、鴉にでもなるつもりか?」
黒ばかりを眺める様子に、揶揄うように声をかけると、キナがパタパタと駆け寄ってくる。
アスランのローブを掴んで引っ張ると
耳元に手で覆った口元を寄せる。
「魔女って、黒いローブのイメージじゃない?」
アスランは驚いたようにキナを見下ろす。
「……まあ、確かに御伽話などではそういうイメージは多いが……でも、キナはキナだろう?
好きな色を選ぶと良い。
そうだな、あの暗褐色は、君、昔から好きだったろう。あちらの深い青も似合いそうだ。」
キナはアスランのローブを握ったまま、
ぶつぶつと考え始める。
「……一理ある……宵森は灰色だし祈りは白……
花守はいっつも違う……」
するりとローブを離したキナが、またくるりと店の
奥へと向かう。
その背に「外で待つ」と声をかけ、カウンターの店員
に、キナがどんな布地を選んでもお釣りが来る金額を
渡す。
「宵森に、祈りに、花守……か。」
そしてアスランは、通りに面した壁にもたれ直した。




