4 世界のお礼
ひとしきり笑って、宵森がお茶を一口飲み下した。
「さて、あたしがあんたに『夜天』と名づけたあの
場所。ありゃどこなんだい?」
唐突に話題が変わりキナはお腹から手を離す。
「『海底神殿』。なんだか、海から門が出てきて、
水がいっぱいある場所でゴーレムと戦って、
アスランが時空魔法で管理機構?だかがある場所に
繋げて、そこ。」
「……なにやらわかるようなわからないような話
だけど、とにかく碌な場所じゃあなさそうだねぇ?」
コクコクとキナは頷く。
「けど、アスランが大魔法でこじ開けて繋げた場所に、祝福が飛んでくると思わなかった。びっくりして嬉しかった。」
「ま、それが魔女ってやつさね」
宵森はひょいと肩をすくめた。
「で、あんた魔力の色にも混じりもんが入ったみたいだけど……
おや、目もだねぇ。金色が混じってる。
そいつは例の『師匠』のかい?やっと説得できたの
かい。」
宵森に言われて初めて気づいたと、キナは慌てて手鏡を取り出す。
なるほど、虹彩に、微かに金が散っている。
光が入って初めて気づくほど、微かに。
「……気づいてなかった……」
鏡を置くと、キナは語り出す。
「説得した、わけじゃないかな。
……魔女にならなきゃ、あの場を切り抜けられなかった。『世界の管理者』とかいうヤツが侵入者を排除
するって言って、アスランの古代魔法も全部
キャンセルされて、だから、魔女になってそいつから自由になって、そいつが管理する定義を書き換えなきゃいけなかったんだ。」
「……そりゃまた壮大な話だねぇ。
それであんたが賢者の魔力を無理矢理奪った、と。」
「無理矢理じゃない!……けど……そう、だね……
選択肢がなかったから……それに近いのかも……」
「ま、それで命拾いしたんだ、賢者も文句はなかろうさ。
それであんた……『器』がずいぶんとでかくなってるね。心当たりはあるかい?」
キナは思い返すように空を見つめる。
そして、パッと宵森に視線を戻す。
「……『世界』から、お礼もらった……」
「『世界』から???」
宵森が目をぱちくりとさせる。
「定義が変わって管理者が消えたあと、世界が言ったんだ、『新しい秩序を定めよ』って。
腰が抜けるかと思った。で、新しい秩序は美しさで、命の間引きもされないで文明も刈り取られないで、
命の営み自体が世界を作っていく、って定めた。」
さすがの宵森も声が出ない。ごくりと喉を鳴らし続きを待った。
「そしたら、世界からのお礼だって、なんだか
すっごくあったかい力が入ってきて、荒れ果ててた
神殿も綺麗に生まれ変わったんだ。
だからきっと、器が成長したのはその時。」
宵森は合点がいったと頷いた。
「……そりゃあ、礼も言われるだろうさねぇ。
あんたは世界に『世界』を返したんだから。」




