3 モーズの短剣
宵森はティーカップを片手に、思い出したように立ち上がる。
雑に床に置かれた布袋をゴソゴソと漁りながら
「それにしても、あんたとんでもない場所で魔女に覚醒したもんだねぇ?祝福飛ばしておったまげたよ。
今日はその話を聞きたいのと……もう一つ。」
言うと、コトン、と細長い箱をキナのティーカップの横に置く。
「モーズのジジイからの預かりもんだ。」
キナは目を丸くして、そっと蓋を開ける。
そこには一振りの短剣が横たわっていた。
キナは息を呑む。
「これ……!駄目だよ宵森、これまだ私、お金払ってないんだ。受け取れない……」
それは魔銀で作られた一品だった。
柄と鞘には繊細な曲線で蔓薔薇の意匠が緻密に彫られ、刃には丁寧に焼き入れされたとわかる美しい波紋が浮かんでいる。
「そんなことあたしに言われても知らないよ。
昨日触媒の納品に行って渡されただけさね。
けど、ジジイはあんたの『預かり物』だって言ってたよ?ジジイの中じゃそいつはとっくにあんたの物だったんじゃないのかね?」
キナはそれを聞き、複雑そうな面持ちで眉を顰めた。
「前にあんたを連れて納品に行ったとき、あんたが涎を垂らして眺めていたのは覚えているんだがねぇ。」
その後の経緯を宵森は目顔で問う。
「……どうしてももう一回見たくて、モーズさんのお店に行ったんだ。
そしたら『お前にゃまだ早い』って言われて、
けどそんなの当たり前だから、
『もちろんです。私がこんな美しい物に相応しいわけがない。ただ手の届かない美に焦がれ、愛でているだけです』って言ったら
お酒くれた。
飲めって言うから飲んだらもう一杯くれた。
飲めって言うから飲んだらもう一杯くれた。
飲めって言うから飲んだら、
これをくれるって言った……」
キナは短剣を指差した。
「けど貰えるわけないでしょ?だから、
『ちゃんとお金貯めて払います。贈り物にしたいんです。』って言ったの。それでなんだか押し問答になっちゃって……結局モーズさんが『預かっておく』事になったの……」
言いつつキナは、「なのにどうしてこうなった」と言う顔で短剣を見る。
「あっはっは!あんた、ドワーフの洗礼を受けちまったんだよ!」
宵森が愉快、と肩を揺らして笑う。
「ドワーフの酒を三杯飲めるヤツはそうはいない。
あんた自分の肝臓に感謝するこったね!
とにかく、『それはキナの物だし好きに使え』だとさ。」
キナは、お腹を押さえて、コクコクと頷いた。




