2 婆様とキナ
キナの姿は森の奥深く、
一軒のこじんまりとした家の前に現れた。
コンコン、と扉をノックするものの、
キナの視線は横の木に止まる梟へと向けられる。
「婆様、来たよー!」
「入っておいで」
梟から嗄れた声が響いた。
「お邪魔しまーす!」
元気に扉を開き中を見回すと、宵森の姿は見えない。
キナは、勝手知ったる宵森の家とばかりに奥へと進み、一つの部屋の戸を開ける。
「やっと来たね、夜天。まずは、おめでとう。
『我、新しき同胞の誕生を寿ぎ、その幸を祈る者なり』」
宵森へ駆け寄ろうとしていた足は止まり
キナはその場に立ち尽くす。
「……あ……ありがとう、よ、宵森……」
「あー、なんだいなんだい、泣くんじゃないよ。」
「だって…… う、嬉しいのと……寂しいので……」
宵森は薬草や鉱石が散らばるテーブルからキナの傍へ近寄る。そのままキナを居間のソファまで導き、
「寂しいってなんだい?」
魔女の調合した香草茶を渡しながら尋ねた。
「だって…… もう、『キナ』って呼んでもらえないし……『婆様』って呼んじゃいけないんでしょう……?」
グスっと鼻を啜りあげてキナは答えた。
宵森はキョトンとした後に笑い出す。
「あっはっはっは! なんだいそんなことで泣くんじゃないよ、天下の魔女が!」
手巾でゴシゴシとキナの顔を拭いながら、
その目は柔らかく細まった。
「別に絶対駄目だってわけじゃないさ。
たまになら大目に見てやるよ、キナ?」
「……婆様……」
キナは容赦なく拭われて腫れた目元で笑った。
「けど、あんたの称号をつけたのもあたしだからね?そっちも大事にしておくれよ?」
宵森は悪戯っぽく笑いながらキナの向かいに腰掛ける。キナはハッとした後、コクコクと頷いた。
「うん!もちろん!称号、ありがとう。
……どうして『夜天』なの?」
「さてねぇ…… ただ浮かんできたのさ。あんたのその色のせいかもしれない、そうじゃないかもしれない。気に入らなかったかい?」
宵森は答えを知っているようにニヤッと笑う。
「すっっっごく気に入った!」
そして、勢い込んだ答えに満足そうに頷いた。




