1 キナのおでかけ
「アスラーン!」
声と共にパタパタと足音が近づいてきて、
居間で読み物をしていたアスランが、何事かと顔を上げる。
海底神殿から帰還して二日、まだ疲れの滲むアスランとは逆に、キナは今日も元気いっぱいのようだった。
バタン、と居間の扉が開き、キナが飛び込んでくる。
無言で目で追うアスランの元までその勢いで走ってくると、弾んだ声で問いかけた。
「あのね、今日、ちょっと出掛けてきてもいいかな?」
すでにワクワクに満ち満ちているキナを見やり、
アスランは口を開く。
「どこへ行くんだ?」
キナは何やらもじもじしながら答える。
「……婆様……じゃなかった、宵森のとこ。」
「宵森?」
「うん、宵森の魔女。えっと、あの、銀色の光の魔女。」
アスランは、キナが魔女になった時に現れた六つの光を思い出す。
キナの耳元に飛んでいった光が銀色だったことも。
「……ずっと思っていたんだが……
君、いつその宵森の魔女と知り合ったんだ?」
これまで断片的にキナから零れた話をまとめてみると、どうにもキナは、アスランの知らないところで魔女と接触していたようだった。
アスランの問いに、キナはそっと視線を逸らす。
「……アスランが、お留守の時に……」
「やっぱり。」
「……魔女のこと調べてて……そしたら宵森が見つけてくれて……魔女の卵だって……」
「ほぅ。」
「魔女には魔女の卵がわかるんだって。
私もいつか卵を見つけて見守りたいな!」
「うん。要するに君は、留守番中に私の言いつけを破って、勝手に一人で隠れ家を抜け出して、宵森の魔女と出会った、という事で良いのかな?」
「……ぅ。は、はい……」
「さて、そんな悪い子に外出の許可を与えて良いものか……」
「うぅ……」
みるみる萎れていくキナに、アスランがくっくと笑う。
「冗談だ。行ってきなさい。」
キナがパァァッと顔を輝かせた。
「あまり遅くならないように。」
「はい!いってきまーす!」
次の瞬間、キナはもう消えていた。
アスランはため息を吐く。
「まったく……詠唱ぐらいしていきなさい。」




