4 魔力をちょうだい
「ワタシは星の巡りを管理するモノ。
セカイを管理するモノ。」
ジジ、と揺らぎながら影が答える。
明滅は止んだ。
キナは、それを目に入れ一歩を踏み出す。
そしてアスランに肩を並べると、その手をぎゅっと
握った。
「世界の何を?世界はあるべき姿ではいられないの?」
「生命を、文明を、管理スル。
セカイは、管理が必要。
管理なしでは、セカイは滅スル。」
呆然としていたアスランがぴくりと動く。
「なぜ世界は滅するの?」
キナは畳み掛けるように質問を投げ続ける。
水晶は明滅を忘れたかのように影の言葉に合わせて
光を走らせる。
「……アスラン、魔力をちょうだい。」
キナが囁いた。
アスランの手が反射的にキナの手を離そうとする。
けれどキナは逃がさない。
「セカイは生命を増やし、文明を発達させル」
影の言葉を聞きながら、キナはゆるゆるとアスランの
魔力を吸い上げる。
「キナ!何を!」
「文明が進歩スル。生命は争いを始めル。」
「お願い、同調して」
「生命は、制御不能なチカラを生み出ス。」
「駄目だ、魔力が暴走するぞ!そうなったら、
君は……!」
「暴走。制御不能なチカラは暴走しセカイを
滅スル。」
「強引に吸う方がリスクが高い!
お願い同調して!!!」
「同調。そう、それがセカイのコトワリ。」
「くっ……!」
絶対に離さない。
そんな意志が伝わるように、固く握られた手。
アスランの許しを待つように躊躇いがちに吸い上げられる魔力。
「全てのセカイは皆同様に滅しタ。」
アスランはキナをひたりと見つめ、声を絞り出した。
「……信じて、いるぞ……!」
キナの夜色の魔力にアスランの陽光の様な煌めきが
流れ込む。反する物のように見えながら、キナの濃密な夜色は金色を受け止め包み込む。
「故にワタシはセカイが滅せぬよう管理スル」
キナは魔力の奔流を受け止めながら囁いた。
「……アスラン、あいつを喋らせて。」
キナの目線が壁の水晶を指し示す。
理解したアスランは一つ頷く。
「その為に生命を刈り取り文明を破壊するというのか」
「ワタシは管理スルのみ。全ては『魔王』が行う」
「魔王……だと!?」
影が沈黙し、壁の水晶が再びけたたましく明滅し
始める。
キナが、握る手にキュッと力を込める。
「……魔王とは、何だ……」
水晶は鎮まり、影が言葉を紡ぐ。
「魔王は暴走するプログラム。セカイの
余剰エネルギーが起こすバグ。演算済の不具合。」
「予測された……不具合、だと……?
人々を蹂躙し街を破壊し世界に絶望をもたらした
魔王が……計算、ずくだと……!?」
アスランからドッと魔力が流れ込む。
激しい、怒りを含んだ魔力だった。
(ごめんなさい……)
キナは心の中でアスランに詫びた。
アスランの怒りは正しくアスランのものだ。
なのに自分は、それすらも糧にしてしまう。
ぶわり、とキナから夜が溢れた。
「では守護者とは何なのだ!
それも計算ずくの作られた存在だと言うのか!!!」
「否。管理者は手をくださナイ。
魔王も守護者も、自然発生。ただ、演算済。」
「……き、さまぁぁぁぁっ!!!」
アスランの絶叫と、キナが手を離したのは
同時だった。
夜は、ふわりとキナをその身に抱いた。
金の星を瞬かせ、キナの髪を空に遊ばせる。
アスランが息を飲んだその時
キナの口から場違いな歌が細く響いた。
「回れ 回れ 糸車
紡げ 紡げ 巡りの糸
来し方を綴り
行く末を編め
回れ 回れ 糸車」
歌に合わせて、
キナはくるり、くるりと人差し指を回す。
溢れる魔力がその指に巻き取られ
次第に大きな渦をなす。
キナの身は流星の夜を纏う。
そして夜は、静かにキナへと還った。




