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夜天の魔女  作者: 宵宮 詠
第4章
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3 管理者

 右も左も、天も地もがい交ぜになった空間を越えて、二人は降り立った。


そこは、四角い空間だった。壁一面に埋め込まれた水晶のような鉱石が淡い光を放ち、空気には異様な魔力が満ち満ちている。


部屋の中央には、巨大な水晶でできた椅子に座る、一体の影があった。ローブを纏っているような輪郭。顔は見えない。

ただ、その存在の異質さに、アスランとキナの背筋は怖気立つ。


アスランが、キナを背に庇うように一歩前へ出る。


「……出迎え、ご苦労。」


低く響いたアスランの軽口に、影は微動だにせず返す。


「待ってはいなかった。しかしいずれこの時が来る事は可能性の一つとして演算済みだった。

守護者の生き残りよ。」


アスランの肩がぴくりと跳ねる。


「……貴様こそ、この文明の生き残りか?

なぜ船を捕らえた。」


「ワタシはエーテルと共にあるもの。この星の巡りを導き管理するもの。」


影が言葉を紡ぐ度、壁の水晶に光が走る。

アスランの背で構えを解かないキナは、その光を目で追った。


影が呟く。


「……船。」


センサー カクニン

ジョウホウカイイキ ニ シンニュウシャ


ケイコク レベル1

ケイコク レベル2


コウゲキプロトコル イコウ

タイショウ ホカク

タイショウ カイシュウ


シュウリョウ


抑揚ない音声が響いた。

二人はぴくりと身構える。


「保安システムの不具合だ。」


影は、無機質に答える。

アスランはギリ、と奥歯を噛み締めた。


「星の巡りの管理者だと?それは神の所業ではないか。保安システムとやらも管理できずに、大きく出たものだ。」


「ワタシはセカイを管理するもの。神はワタシの制作物。役目を終え、削除済みだ。」


アスランの脳裏に、消えた小さな太陽神の姿が過ぎる。

影は淡々と続けた。


「守護者もまた役目を終えた。侵入者は排除する。」


アスランが目を見開き息を呑んだ。

壁の水晶が明滅を始める。

空間に満ちる魔力が肌を刺すようにビリビリと張り詰める。


「……まだ、だ。まだ、この役目が残っている。」


アスランはくうに手を翳した。


「深淵の理よ 我が名において 今——」


アスランの足元に魔法陣が浮かび上がり、そこから金色の魔力が空間に満ちる異質な魔力を押し除けるように膨れ上がった。


影はゆっくりと立ち上がる。ジジッ、と軋むような音を立てて、影の輪郭が歪む。


「魔力波形、メモリに確認。解析済。キャンセルを実行。」


これまでと違う無機質な声が発せられた瞬間

壁の明滅と共に魔法陣が掻き消えた。


「「!」」


アスランとキナは揃って息を飲む。

背後でキナの魔力が膨れ上がるのを感じ、

アスランは手で制した。


「小癪な真似をする。ならば……」


壁が再び明滅を始める。


アスランが片手を空に走らせる。光を放つ古代文字で埋め尽くされた巻き物が展かれる。

その手を一振りすると巻物の文字は浮き上がり、光の粒子へと姿を変え、輝く奔流となってアスランを取り巻く。


「我が血脈に刻まれし

古き誓いの御名において命じる


今、封じられし鎖を

古の契りを以て解き放つ


万象を喰らいし蛇よ

すべてを飲み込む日輪の紅炎にて

眼前の理を塵芥へ帰せ


【オムニア・アド・ニヒルム(万象滅却)】」


万物を理から喰らう古代禁呪。

アスランから凄まじい金色の炎が放たれ、空気が陽炎のように歪む。炎はうねり、脈打ち、命ある物のように周囲の魔力を飲み込んでいく。


キナは気圧されアスランの背にしがみつく。

そして、膨れ上がった金の焔が大蛇の如く顎門あぎとを開き、迸る光となって影へと一直線に駆けた。



「無効です。」



水晶の明滅が止む。影は動かない。

次の瞬間、影に触れた炎は音も立てずに消えた。

影を起点に炎は順に消滅していく。

理を焼き尽くす蛇はその理を分解され、

無へと再構築された。


(なん……だと……!?)


アスランは呆然と立ち尽くす。

壁に光が走る。

影がまた、ジジジ、と歪む。


「スペル、メモリ参照。キャンセル完了。対象物排除へ移行。」


アスランは悟った。

これは力の差ではない。

すべてが、最初から管理されていたのだと。


水晶が再び明滅を始めた時、キナの声が響いた。


「あなたは、何を管理しているの?」




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