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夜天の魔女  作者: 宵宮 詠
第4章
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2 ゴーレム


「……解析する。」


アスランは片手をザッと空中に走らせる。

そこには輝く巻き物が広がった。

アスランがキナの知らない言語で何事かを詠むたびに、巻き物の魔法陣が目まぐるしく形を変えて行く。


一体のゴーレムがゆっくりと腕を持ち上げる。その透明な先端に、白く輝く光が集束し始めるのが見える。

チッ!舌打ちと共にアスランがそちらに片手をかざしたその時


「【アンキーレ】」


キナの声が響き、空に十二枚の盾が出現する。

一枚が空を切るように、ゴーレムの射程からアスランを隠す。


「守ります。解析を。」


告げた瞬間、ガキン!と盾が揺れた。


「……すまない。」


アスランは一瞬、驚いたようにキナを見たが、すぐに魔法陣へと向き直る。


一体の攻撃を皮切りに、ゴーレム達は次々と、

空気を切り裂く鋭い水砲を発射する。

キナの操る盾が火花を散らして受け止め、

弾き、硬質な音が重なり響く。


「この魔力構造は……やはり純粋な水魔法ではない……。外部からの供給式か。」


解析が進むにつれ、アスランの表情が険しくなっていく。


「奴らの核はおそらくこの貯水槽のどこかにある主動力源に繋がっている。一体殺っても無限に湧くな。」


 砲撃を終えたゴーレムが次なる攻撃のために魔力を充填し直す。他の個体も、次々とアスランとキナに砲口を向ける。


「道は二つ。動力を叩くか管理機構か……

キナ!空間をこじ開ける!それまで保つか!?」


「お任せあれ」


キナは短く返すと、残るアンキーレを操りながら、

長い詠唱に入る。


「月の女神よ

理に未だ至らぬ者がその慈しみを請う


夜を巡り、満ち欠けを司りし御身よ


我は越えず

我は侵さず


定められた隔たりを保ち

沈黙をもってここに立つ


されど一歩 

害意と共にこの影を踏まうなら

月は躊躇なく満ち

裁きは軌道を外れず


月光よ

境界を我が背とし

不可侵を完成させよ


【フィニス・ディアナエ(月女神の境界)】」


最後のアンキーレが弾け飛んだ瞬間、ドーム型の障壁がアスランとキナを包んだ。境界に障る者へと報復を行う、苛烈な女神の守護魔法だ。


「な……っ!?」


アスランは思わず振り返り、目を見開く。

濃厚な魔力と、その繊細な制御。


「君……いつのまに……」


半球状の障壁が完成した瞬間、再びゴーレムたちから一斉に砲撃が加えられた。

轟音が鳴り響き、水の奔流が障壁に激突する。

障壁は揺るぎもしない。それどころか、攻撃を受けた箇所から反撃の光が漏れ始めていた。


月の女神の、裁きが始まる。


アスランの口元に、獰猛な笑みが浮かんだ。


「キナ!感謝する!」


返事はない。

キナは唇を噛み締め、

その身で半球を支えるかのように

両手を高く掲げた姿で微動だにしない。


アスランはその必死の姿を横目で捉え

詠い始めた。


「我が血脈に刻まれし

古き誓いの御名において命じる


門の番人よ

次元の番人よ


位相を置き換え

点と点を結べ


束の間の眠りから目覚め、

我が道を開け


【トランスポジティオ・パーズィス(位相置換)】」


アスランの足元に、巨大な魔導陣が展開される。

そこから立ち昇る膨大な魔力が空気を揺るがせる。

アスランは両手を天に掲げた。


障壁の外では女神の反撃が激しい閃光となりゴーレムたちを薙ぎ払って行く。

その音がなぜか遠い。


アスランが魔力を高めると、女神の裁きの中、何もない空間がぐにゃりと歪み始める。


今、「門」が開こうとしていた。


アスランの魔力が、空間の裂け目をこじ開けていく。

裂け目から、巨大な目がギョロリと覗いた気がした。

その瞬間、裂け目はありとあらゆる色彩を巻き込んだ渦となる。

アスランの魔力が嵐のように昂ぶり、静まった。

渦は、ぽかりと開いた「門」となっていた。


「行くぞ……!」


アスランがキナに手を伸ばす。

キナが駆け寄りその手を掴む。

守護が消え水砲が轟く。

二人は、門へと消えた。


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