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夜天の魔女  作者: 宵宮 詠
第3章
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7 海底神殿


グスタフの言う通り、確かにいくつかの黒い岩が

海面から突き出していた。

海流が渦を巻いているのか、その周囲の水面だけが

不自然に白波立っている。


「キナ、聞こえたな。そろそろだ、気を引き締めて

おけ。」


「アイアイサー!」


キナはビシッと敬礼して見せた。


「……アイ、アイ?

君、グスタフの店の前でも言ってたな……」


その聞き慣れない奇妙な返事に、アスランは思わず

キナの顔を見返した。

キリリと直立敬礼する姿に、一体どこでそんな言葉を覚えたのかと、新たな疑問が浮かぶ。しかし、今は。


船は岩礁地帯に近づくにつれ、大きく揺れ始める。

波しぶきが甲板を叩き、潮の匂いが一層強くなった。


「どうだ、見えてきたろ。あの岩礁地帯だ。」


傍らにやってきたグスタフが指をさす。


「何ヶ所かあそこを抜ける航路があるが、消えた船の一つがここを通る予定だったらしい。

まずはそこから試してみる。

けどまあ、船が消えた周期に一貫性はねぇ。

当たるも八卦、当たらぬも八卦ってヤツだ。」


グスタフは豪快に「ガハハ」と笑う。

船は徐々に速度を落とし、器用に岩の間をすり抜けて行く。


と、その時。

船を打つ波音に混じって、何かが聞こえた。

三人はハッと身構える。


……センサー ……カクニ……

ジョウホウカイ…… ニ シンニュウシャ

……レベル1 ……ケイコク ……


三人は顔を見合わせる。


「ビンゴだな。おいでなすったぜぇ……!」

「【センサス・アクティウス(能動探知)】」


グスタフが叫び、キナが詠唱し、同時にアスランが

構えた。


「前方、巨大な魔力の塊。浮上してきます。残り、

9……8……7。接触はしませんが、退避させますか?」


キナがアスランに指示を仰ぐ。

海が盛り上がり船が大きく揺れる。

波音以外の音がないことが、逆に背筋を凍らせる。


「退避は不要。来るぞ、構えろ!」


アスランが叫ぶと一際大きな波が船に激突し、大型の帆船が木の葉のように揺れる。

船体が大きくかしぎ、甲板に積んであった木箱や樽が滑り落ちて海へ投げ出される。船員たちの悲鳴と怒号が入り混じる。


——喧騒が、一瞬遠のいたような気がした。

それは、音もなく浮かび上がって来た。


巨大な一枚岩でできた、古代神殿の門。


それは幾星霜を経たのか、苔と海藻に覆われ、解読不能な古代文字がびっしりと刻まれている。

静寂の神殿に、ザァァ、と海水が流れ落ちる音だけが響き、石の扉が、重々しく開き始めた。


余波から逃れ中空へ浮いていたキナが、海へ投げ出された船員を魔力を伸ばして掬い上げる。

そして。


「海底……神殿……」


一瞬目を奪われて、ハッと気づく。


波が……門へと逆流して行く……


咄嗟にアスランを見る。目が合った。

頷き合い、詠唱に移る。


「「形を保て。」」


再び目を合わせる。


「逆!座標、無理!!!」


キナが叫んだ。


気を取り直してアスランが紡ぐ。


「帰還座標を定める。

潮流、風向、星位を算出。」


キナが重ねる。

「形を保て。

竜骨、帆先、積荷、魂に至るまで」


「道はここに在る」


「この船を包め」


「「【テレポルタティオ】」」





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