7 海底神殿
グスタフの言う通り、確かにいくつかの黒い岩が
海面から突き出していた。
海流が渦を巻いているのか、その周囲の水面だけが
不自然に白波立っている。
「キナ、聞こえたな。そろそろだ、気を引き締めて
おけ。」
「アイアイサー!」
キナはビシッと敬礼して見せた。
「……アイ、アイ?
君、グスタフの店の前でも言ってたな……」
その聞き慣れない奇妙な返事に、アスランは思わず
キナの顔を見返した。
キリリと直立敬礼する姿に、一体どこでそんな言葉を覚えたのかと、新たな疑問が浮かぶ。しかし、今は。
船は岩礁地帯に近づくにつれ、大きく揺れ始める。
波しぶきが甲板を叩き、潮の匂いが一層強くなった。
「どうだ、見えてきたろ。あの岩礁地帯だ。」
傍らにやってきたグスタフが指をさす。
「何ヶ所かあそこを抜ける航路があるが、消えた船の一つがここを通る予定だったらしい。
まずはそこから試してみる。
けどまあ、船が消えた周期に一貫性はねぇ。
当たるも八卦、当たらぬも八卦ってヤツだ。」
グスタフは豪快に「ガハハ」と笑う。
船は徐々に速度を落とし、器用に岩の間をすり抜けて行く。
と、その時。
船を打つ波音に混じって、何かが聞こえた。
三人はハッと身構える。
……センサー ……カクニ……
ジョウホウカイ…… ニ シンニュウシャ
……レベル1 ……ケイコク ……
三人は顔を見合わせる。
「ビンゴだな。おいでなすったぜぇ……!」
「【センサス・アクティウス(能動探知)】」
グスタフが叫び、キナが詠唱し、同時にアスランが
構えた。
「前方、巨大な魔力の塊。浮上してきます。残り、
9……8……7。接触はしませんが、退避させますか?」
キナがアスランに指示を仰ぐ。
海が盛り上がり船が大きく揺れる。
波音以外の音がないことが、逆に背筋を凍らせる。
「退避は不要。来るぞ、構えろ!」
アスランが叫ぶと一際大きな波が船に激突し、大型の帆船が木の葉のように揺れる。
船体が大きく傾ぎ、甲板に積んであった木箱や樽が滑り落ちて海へ投げ出される。船員たちの悲鳴と怒号が入り混じる。
——喧騒が、一瞬遠のいたような気がした。
それは、音もなく浮かび上がって来た。
巨大な一枚岩でできた、古代神殿の門。
それは幾星霜を経たのか、苔と海藻に覆われ、解読不能な古代文字がびっしりと刻まれている。
静寂の神殿に、ザァァ、と海水が流れ落ちる音だけが響き、石の扉が、重々しく開き始めた。
余波から逃れ中空へ浮いていたキナが、海へ投げ出された船員を魔力を伸ばして掬い上げる。
そして。
「海底……神殿……」
一瞬目を奪われて、ハッと気づく。
波が……門へと逆流して行く……
咄嗟にアスランを見る。目が合った。
頷き合い、詠唱に移る。
「「形を保て。」」
再び目を合わせる。
「逆!座標、無理!!!」
キナが叫んだ。
気を取り直してアスランが紡ぐ。
「帰還座標を定める。
潮流、風向、星位を算出。」
キナが重ねる。
「形を保て。
竜骨、帆先、積荷、魂に至るまで」
「道はここに在る」
「この船を包め」
「「【テレポルタティオ】」」




