表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜天の魔女  作者: 宵宮 詠
第3章
15/65

5 お留守番は嫌


グスタフは「はぁぁぁ」と深い深いため息を吐いた。


「仕方ねぇ、俺の愛する『黒曜の牙号』を囮に使う。その辺の海域を航行して、何が起きるのか見てやろうじゃねぇか。」


「うむ。それが一番早道だろうな。」


アスランは無情に頷いた。

そしてグスタフに渡した袋を見やり


「何かあっても新しい船ぐらい作れるさ。」


グスタフが「うへぇ」と情けない声を出すのを、

キナは同情に満ちた目で眺めた。


「それで、報酬は?」


アスランが淡々と追い討ちをかけた。

グスタフは「はは」と諦めたように笑う。


「もちろん弾む。お前が好きそうなお宝がもう一つある。成功報酬で後払いだ。」


「承知した。だが一つ、前払いの報酬が欲しい。

……この子を、人目につかない安全な場所に匿ってくれ。」


ガタタッ!という音と共に

キナは弾かれたように立ち上がる。


「お留守番嫌です!一緒に行きます!」


キナの間髪入れない反論に、アスランは動じることもなく応じる。


「駄目だ、キナ。未知の敵がいるんだ。

下手をすれば、神域に踏み込む事にもなりかねん。

お前を危険な目に遭わせるわけにはいかない。」


キナがもう一度口を開きかけた時、グスタフの声が

割り込んだ。


「おうおう、いいのか? その嬢ちゃん、かなり腕が

立つように見えるがな。」


思わぬ援護射撃にキナがグスタフを見ると、

面白がるような笑みが目に入る。


「足手まといになるってんなら話は別だがよ、

戦力は少しでも多い方がいいぜ?

連れて行って損はねぇんじゃねぇか?」


「グスタフさんの言う通りです。

私は強いです。ちゃんと力になります!」


アスランは黙り込み、腕を組んで考え込む。

キナの実力は、アスランが良く知っている。

この旅の間、予想を超える術を行使する姿を何度も

目にした。けれど。しかし。


「それに。

私とアスランがいれば、グスタフさんの船、

逃がしてあげられると思います。」


アスランの逡巡をキナの声が断ち切った。

ハッと顔を上げると、グスタフが満面の笑みでキナに握手を求めている。

アスランはその手をバシッと叩き落とした。


「わかった、連れて行く!……ただし、絶対に私の

指示から外れるな。少しでも危険を感じたらすぐに引くんだ。それが守れるならば、だ。」


キナの顔がパッと輝く。

グスタフは「あいたた」と手を振りながらも

ニヤリと笑い、アスランの肩をバシッと叩いた。


「そう来なくっちゃな、賢者サマ?

さてと、出航はいつにする?」


 出航は明日の朝となった。

二人はグスタフの店を後にし、港の通りへと出る。

潮の香りと、男たちの野太い声、荷物を運ぶ荷車の音が入り混じっている。

二人は波止場へ向かって歩いた。


「……声で眠らせるなんて、セイレーンみたいですね?」


はためく色とりどりの船旗を見ながら、

キナがぽつりと言う。


「セイレーン……古い文献で読んだことがある。

美しい歌声で船乗りを誘惑し、岩礁へと導く

海の魔女、か。」


「セイレーンは魔女ではないです。半人半鳥の魔物です。」


強めの反論にアスランは驚いたようにキナを見る。

キナの視線は波間を見つめている。


「そうだったか。……なるほど、『魔女』というものは、不老不死だの怪しげな術を使うだの、噂ばかりで謎のままだ。恐ろしげなものにこうしょっちゅう名前を使われるのは……

案外『魔女』にとっては風評被害とやらかもしれんな?」


アスランは、キナの横顔を見ながらくすりと笑う。

キナはハッとしたようにアスランを見返した。


ミルセルダ大聖堂の聖女。

ラズオルダンジョンの番人。

——誰も二人が、「魔女」だとは知らない……。


「や、あの、違くてっ……!最近セイレーンの文献を読んだばっかりで……!」


その慌てぶりに一瞬驚いた後、ふっと空色が柔らかに細められた。


「勤勉な弟子に鼻が高いな。」


キナの頭をポンポンと叩くと


「さて、今日の宿を探そうか。我が弟子?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ