1 眠り姫
夜が明け、陽の光が部屋を暖かく照らす。
遠くで小鳥がさえずり、新しい一日の始まりを告げている。
キナが目を覚ますと、天蓋のベッドは既に空だった。
生成りのチュニックに細身のズボン。ベルトに空間魔法を施したポーチ。そして濃茶色のローブ。キナはいつも通りに支度を整えて部屋を出る。
道中、昨夜叶わなかった「宿の美の賛美」を心ゆくまで堪能し、食堂へと向かった。
そこには既に朝食を終え、優雅にティーカップを傾けるアスランの姿が窓越しの陽光に煌めいていた。
途中、給仕をつかまえ注文を済ませたキナは、弾むような足取りでアスランへと近寄った。
「やっと起きたか眠り姫。おはよう。」
アスランがキナに気づき、悪戯っぽく笑う。
「よく眠れたか? 」
「おはようございます、朝露に煌めく王子様?」
キナは悪戯に悪戯で返してクスクス笑う。
「ぐっすり眠れました。ちょっとお寝坊でしたね、
お待たせしてごめんなさい。起こしてくれれば良かったのに。」
いや、むしろそちらの方が通常運転だ。
朝に弱いキナは何度布団を引っぺがされた事だろう。
「王子様」というキナの返答に、アスランは一瞬
きょとんとした後、呆れたように溜息を吐いた。
「朝からよく回る口だな。どこでそんな言葉を覚えてくるのやら。」
「アスランが『眠り姫』なんて言うからですよ?
姫と言われりゃ王子と返すのが世の定め。
様式美、と言うものです。」
キナが大真面目な顔で言うのを見て、アスランは
思わず噴き出しそうになるのを堪えた。
運ばれてきたキナの朝食に目をやり、自分も紅茶の
おかわりを頼む。
「まあ、いい。早く食べなさい。準備ができたら出発するぞ。」
「早く食べるのは吝かではないのですが……
珈琲だけは、急ぎたくない物No1のひとつでして……」
No1がいくつあるのかわからない返事をしながら、
キナはその香りを口に運ぶ。
「別に急かしてはいない。急ぐ道中ではないからな。
ゆっくり味わうといい。」
キナはサンドイッチに齧りついたままアスランを
凝視した。
どうやら叩き起こされなかった理由もそれらしい。
「……何をじろじろ眺めているんだ?」
「神の采配により完璧に配置された目と鼻と「それはもうやった。」
一刀両断だった。




