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泉鏡月と夜叉ヶ池

(う〜〜ん…売れ行きが悪いですね…やっぱり、僕だけじゃ上手く商売は出来そうもありませんね………)


ずらりと本棚に並べられた大量の本を見て、僕は腕組みをしながらため息をついた。

僕の名前は「泉 鏡月(いずみ みづき)」です。

幼い頃に両親を流行り病で亡くしてから祖父母に引き取られた僕ですが、

「髪の色が月魄色」という訳の判らない理由で近所の子らに虐められて…

祖父母も歳で亡くなってしまい、お金がないため高校にも進学出来ずに今は「玉兎屋(ぎょくとや)」という祖父母が遺した古本屋で1人で働いています。


ですが、今は本もスマートフォンなどで見れる時代…当然、古本屋などで充分に稼げる筈もなく、食べ盛りの僕としてはかなり苦しい生活でした。

ですが僕は、「きっと僕は高校には行けない」ことを判っていたので、祖父母がまだ生きていた頃、祖父母に頼み込んで高校生用の教科書やら本やらを沢山買ってもらい、自発的に勉強をすることにしました。

勉強と仕事だけの生活も案外悪くないです。虐める人も居ないし、誰にも邪魔されずに静かに生きることができます…まぁ、相変わらず生活は苦しいままですけど………


僕は今、本を整理しながら掃除に励んでいます!

僕は昔っからかなりの潔癖症でして…少しの汚れでもあると落ち着いていられないんです…!

沢山の本を一つ一つ丁寧に手にとって見ていく。

(わぁ…かなり昔の本ですね…♡物語の作り方や表現の仕方も美しいです…♡)

…あと、自分で言うのもなんですが僕は大の本好きです…はい。ちょっと僕が気に入りそうな古い本が目に留まると、こんな風に綺麗な人を見つけた変態みたいになります………

………リアルに顔赤らめてたりするので、傍から見ると完璧に「異常者」扱いされますよ………知ってます………


話を戻しますが、本の整理中に懐かしい物も見つけましたよ!

(…?この本の表紙…どこかで見たことがあるような………よく見えないですね…眼鏡かけましょうか………)

僕は近視です。なので、親が生前に買ってくれた紺色の四角眼鏡を掛けています!

…他に生きていた頃の親から貰った物といえば…この竜胆という花の髪飾りと、僕の背丈程もあるとても長い黒漆のマフラー…そしてあとは………

「………あぁ、そうでした。この本………」

()()()()

親から買ってもらった本です。

この本は、泉鏡花…僕の()()()()が書いた作品の1つです。僕は、この作品が大好きで、幼い頃は何度も何度も読み返しては、その作品から溢れ出てくる白雪姫の姿を想像していたものです。

「夜叉ヶ池…懐かしいですねぇ………」

僕は本を開き、無意識のうちにその言葉を吐くように呟いた。その時………

「…!?」

本の(ページ)から水が溢れ出し、美しく麗しく流れ出す。

やがてその水が形を成し、1人の少女の姿となった。

(この少女………)

僕は少し驚き、後退りしながらも、僕が覚えているその本のとある1節が頭に蘇る。

──[夜叉ヶ池の白雪姫。雪なす(うすもの)、水色の地に(くれない)(ほのお)を染めたる襲衣(したがさね)黒漆(こくしつ)銀泥(ぎんでい)(うろこ)の帯、下締(したじめ)なし、(もすそ)をすらりと、黒髪長く、丈に余る。(しろがね)の靴をはき、帯腰に玉のごとく光輝く鉄杖(てつじょう)をはさみ持てり]───

…今の少女を見るに、僕がこの文に付け足すものがあるとすれば、

「容姿は12ほどの少女」「龍のような白い(つの)」「藍玉(らんぎょく)のような色の瞳」「精霊(エルフ)のような長い耳」………


そのやや釣り上がった目をした美しい少女が、僕を見遣って、ふっと微笑んで見せる。

「なんじゃ、なんじゃ。驚く必要は無かろう。」

「のう?鏡月?」

「?!なんで僕の名前を知ってるんです?」

僕は少しズレた眼鏡をかけ直して、その少女を見遣る。

「知っておるも何も、私を大事に大事にしてくれておったのは、(なんじ)ではあるまいか。」

「?大事に…?」

少女は微笑みながら、夜叉ヶ池の本を指差した。

「?!もしかして、君は…夜叉ヶ池の…付喪神(つくもがみ)…なの…?」

(しか)り。我が名は「白雪(しらゆき)」。」

「汝の【言靈(ことだま)】から生まれた存在じゃ」

「言靈…ですか…?」

僕は首を傾げる。

「そうじゃ!言靈というのは…───」

その時、白雪の声を遮るかのように店の扉が開く音が聞こえました。すると、白雪はふっと微笑んだ。

「客じゃな。それも、特別なお客のようじゃ」

「特別なお客…?」

僕の言葉に白雪はコクリと頷いて

「然り、ゆくぞ」

「え?ちょ…」

僕が白雪に手を引かれて、お客さんが来たであろう扉の付近に連れて行かれた。すると…

「おー、ここが芥川先生が言っていた古本屋か…」

「沢山の本がありますね!沢山買いましょう!!」

「あぁ…あ、買うとしても俺は太宰治の本、お前は檀一雄の本だからな?」

「判ってますよ!兄様!」

そこには、金髪のセンターパートに紺碧(こんぺき)の瞳、そして男子用のブレザーを身に纏った青年と、恐らく、その妹であろう、黒髪のおさげに(あか)い瞳、そして女子用のブレザーを身に纏った少女が居た。

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