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人と人

不思議で怖かったりもする短編集。略してふしこわ



 苦手な同僚がいた。


この地方の中では有名な大学を出ており若かりし頃は学生運動をしていたという。


現在の状況を不遇と考えており、単なる愚痴を言われれば自分の時はもっと大変だった。

病についての弱音を零せば自分はもっときついと言葉を被せてくる。

ニュースについて話せばSNSの切り貼りの情報をさも自分の意見のように意気揚々と話す。



こんな風にはなりたくないと二回り以上年上の中高年男性を内心軽蔑して見ていた。



その人を完全に苦手になったきかっけは忘れもしない。


祖父の救急搬送の時駆けつけて出来ることをなるべくし、次の出勤に合わせて早めの高速バスに乗り込んだのだが、大雨の影響で遅れたのだ。


勿論遅れると分かった時点で職場には連絡したし、上司も仕方ないと言ってくれたがその同僚は職場について顔を合わせるなりありえないと声を荒げて注意された。


「そもそも遅れる可能性がある高速バスを使うのが間違ってるだろう。何故新幹線を使わなかったんだ。別に亡くなったわけでもないのに駆けつける必要はあったか?女じゃあるまいし」


突っ込みどころはたくさんある、が、仕事に遅れて迷惑をかけたのは事実だからこらえて頭を下げた。

内心うるせえよ、てめえの目の前で電車の扉が閉まれ、車移動の時遮断機が30分ごとに下りろ、チャージ金額足りなくて改札で止められろと呪いながら。



不貞腐れた様子が見ていて面白かったのだろう。


デスクのパソコンの前にボトルを置いたタイミングでくすりと小さな笑い声。


この先輩もよくわからない人だ。


大学院で何かしらの研究をしているらしい。


イデア論について頭を捻っていた時にアドバイスをくれて以来なんかすごい先輩だが何をやってるかは俺には理解ができなかった。

正直フラスコの中にガニメデの化身を造る研究をしているとしても不思議はないと感じる。


「あれは違うから構うだけ無駄だよ」


相も変わらず言うことが唐突でわけがわからない。


さっきからこっちを気にしている視線が刺さっているから返しも端的にならざるをえず「っす」とだけ返した。


学生の週3出勤だとしても仕事は仕事。


苦手でもこちらが我慢しなくては。

あっちのほうが年上で勤務時間も長い。






地元球団を熱烈に応援しており有休をつかい遠征によく行き地方土産を大盤振る舞いするのはいつもの事。


暫く顔を合わせない平和な日々とおさらばだな、とため息ともに出勤するとにこにこと満面の笑みお土産を差し出してくる。


「やあ、僕がいない間ありがとうね」


誰だてめえ、と口から出そうだった。


乱暴に投げつけるように土産をデスクに投げてよこすのが常だったのに丁寧に手渡しをしてきたのだ。


思わずどもったのは仕方ない。


「それ美味しかったんだよ、洋酒ケーキだから家に帰って食べてね。今日も頑張ろうね」


今どきの若いもんは、と言外に含んだ態度は微塵も見当たらず丁寧な物腰だ。


ありがとうございますとお礼を言って自席に戻ると先輩と目が合う。



「あれ、何んすかね」


「ナニだねぇ」


のんびりとした口調のくせに返答は素早い。


「旅先で変わられちゃったみたいだねぇ」


変わったって何が、何を。


ふふ、と吐息と共に笑った先輩は得体の知れない妖怪のようだった。


「どうする?」


どうするって、どうにかしようもないだろうに。


「できるよ、君が。

 行って戻してあげればいい」


目をゆっくり動かして、ハラスメント塗れだった同僚の背中を追う。


「戻す」


「そう。戻すの」


「しなければどうなりますか」


どうも?とかわいらしく首を傾げたお化けが嗤う。


じゃあ


「いいんじゃないですかね」


身勝手かもしれない。


けど、まあ


「支障は減りそうですし」


そうだねぇとお互いにPCの画面に向き合う。


仕事は変わらなさそうですし。


そんなこともあるんだなってお話。


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