プロローグ
『続いてのニュースです。先日行われた女流棋戦、門倉白姫戦で星宮ひなさんが最年少タイトルを獲得いたしました。
16歳と3カ月で獲得という前代未聞の記録に、今後の活躍にさらなる期待が高まります。
また星宮さんは奨励会員でもあり、現在は初段の位置です。女性初のプロ棋士誕生も注目されています』
「ふーん……」
夕方のニュースを俺――平田智樹は肘をつきながら適当に眺めていた。
さらにニュースは彼女、星宮ひなのことを『天才』や『容姿端麗』、『学校でも優等生』と
紹介している。
そのお陰で世間もそう言う風な印象を抱いている。
皆知らないのだ。本当の彼女の姿を。
「ともぉ~。お菓子とってぇ~。ポテチがいぃ~」
その時、隣から気怠そうな声が聞こえてきた。
ちょっと目を向けるとピンク色のジャージがモゾモゾと動く。
「……自分で取ったらどうだ?」
「ええ~。無理~。私もう、このソファーに捕まっちゃったからぁ~」
くだらないことを言いながら仰向けになり両手を伸ばして目を瞑る。
それには意地でもここから動かないという強く意思を感じた。
そう、これが星宮ひなの本当の姿である。
対局の時や学校では真面目で礼儀正しく、成績優秀。
まさにさっきテレビで紹介していたような存在だが、俺の前では怠惰で面倒くさがりの甘えん坊。
自分では何もしない、何もできないただのダメ人間なのである。