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第8話:ペンデュルンの秘密

夜の22時。

神崎美玲は、ようやく全ての業務を終え、誰もいなくなったオフィスで大きく伸びをした。

PCのモニターには、完成したばかりの昭和野製作所向けDX導入計画書が表示されている。

「……疲れた……」

ここ数週間、まともに休んだ記憶がない。

日中の激務に加え、夜は魔法少女としての戦い。

体も心も、すり減って限界に近かった。


「お疲れ様でしゅ、美玲しゃん! 今日も一日、よく頑張ったでしゅ!」

ショルダーバッグからひょっこり顔を出したペンデュルンが、労いの言葉をかける。

「……ペンデュルン。あなたって、一体何者なの?」

唐突な美玲の問いに、ペンデュルンは宝石のような瞳をぱちくりさせた。

「ワタチはペンデュルンでしゅ! 魔法少女のサポート妖精でしゅよ~!」

「そうじゃなくて。どこから来たの? なんで、私を選んだの?」

いつもは聞き流していた根本的な疑問。

疲れ果てた今、その答えが無性に知りたかった。


ペンデュルンは一瞬、いつもの陽気な雰囲気を消し、遠い目をした。

「……ワタチは、遠い星から来たでしゅ」

ぽつり、と彼は語り始めた。

「ワタチの故郷も、昔は活気のある美しい星だったでしゅ。

でも、いつからか、みんな働くことに疲れ果てて……社会の理不尽なストレスが、星を覆うようになったんでしゅ」

その声は、悲しげに震えていた。

「ストレスは怪人を生み、怪人は人々のやる気を吸い取り、さらに強いストレスを生む……。

悪循環の果てに、ワタチの星は……誰も頑張らなくなった、色のない星になってしまったでしゅ」

ペンデュルンは、その星からたった一人で逃げ延びた生き残りだったのだ。

「だから、この星では同じ過ちを繰り返したくない。

そのために、戦う勇気を持つパートナーを探していたんでしゅ。

そして、美玲しゃんを見つけた……」


ペンデュルンの悲しい告白に、美玲が言葉を失った、その時。

窓の外、夜のオフィス街全体が、巨大なドームのようなもので覆われるのが見えた。

それは物理的なドームではない。

人々の「疲れた」「もう帰りたい」「明日が来てほしくない」という、膨大な負の感情が可視化されたものだった。


「この感じ……! ワタチの故郷を滅ぼした“集団的無気力”と同じでしゅ!」

ペンデュルンの声が、恐怖に引きつる。

特定の誰かではない。

街全体の淀んだ空気が、一つの巨大な怪人を生み出そうとしていた。

それは実体を持たない、霧のような怪人――マンデー・メランコリー。

人々の月曜日への絶望感を糧に、その勢力を拡大していく。


「変身しなきゃ!」

ミレイは即座に変身し、ビルの屋上へと飛び出した。

眼下では、マンデー・メランコリーの放つ灰色の霧に触れた人々が、次々と生気を失い、その場にへたり込んでいく。

「みんなの心を蝕むなんて、許さない! 最適化ビーム!」

浄化の光線を放つが、霧状の怪人には確たるコアがなく、光はむなしく霧を拡散させるだけだった。

「そんな……! どうすれば……!」


焦るミレイの横で、ペンデュルンはカタカタと震えていた。

故郷が滅びゆく光景が、フラッシュバックしていたのだ。

「ダメだ……ダメなんでしゅ……。こうなったら、もう……」

「ペンデュルン!」

ミレイの叫び声に、ペンデュルンはハッと我に返る。

目の前には、諦めずに戦おうとするパートナーの姿があった。

(……違う。今は、ワタチ一人じゃない!)


ペンデュルンは意を決すると、自らの体をまばゆい光で包んだ。

「美玲しゃん! この怪人のコアは、人々の『諦め』の心! その連鎖を断ち切るんでしゅ!」

光と化したペンデュルンは、マンデー・メランコリーの霧の中へ飛び込み、そのエネルギー構造を解析し始める。

「分かったでしゅ! この霧の中心にあるのは、たった一つの『希望』を求める声! そこを狙うでしゅ!」


ペンデュルンの命がけのサポートを受け、ミレイは頷く。

(特定の誰かを救うんじゃない。みんなの明日を、私が作る!)

ミレイはIDチャームを天に掲げた。

それは、攻撃魔法でも、浄化魔法でもない。

「みんな、お疲れ様! 今日はもう終わり! 明日のことは、明日考えればいい! 強制終業シャットダウン・フィールド!」


ミレイから放たれたのは、夕焼けのような温かい光だった。

光は街全体を優しく包み込み、人々の心に直接語りかける。

――よく頑張ったね。

もう、休んでいいんだよ。

その光に触れた人々は、張り詰めていた緊張の糸が切れ、安らかな表情で眠りについていく。

希望を求める声に応えるように、マンデー・メランコリーは満足げなため息をつくと、夜明けの光に溶けるように消えていった。


戦いが終わり、変身を解いた美玲は、ぐったりと戻ってきたペンデュルンを優しく両手で包み込んだ。

「……ありがとう、ペンデュルン。あなたのおかげだよ」

「……美玲しゃんこそ。

やっぱり、ワタチの目に狂いはなかったでしゅ」

ペンデュルンは、少し照れくさそうに言った。

「美玲しゃんには、諦めない心と、誰かのために頑張れる優しさがある。

それこそが、ワタチの故郷にはなかった、最後の希望なんでしゅ」


二人の間には、これまで以上に強い絆が生まれていた。

美玲は、自分が背負ったものの本当の重さと、その隣にいる小さな相棒の温かさを、改めて実感するのだった。

遠く離れたビルの屋上で、ロジカルアズサがその一部始終を静かに見つめていたことに、二人はまだ気づいていない。


次回、魔法少女ミラクルミレイDX!

「第9話:休日出勤と謎の影」

社会の理不尽、私がきっちり最適化します!

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