第4話:激闘!承認印は電子化の夢を見るか?
「由奈ちゃんを……絶対に助ける!」
強い決意を胸に、美玲はペンデュルンを抱えて誰もいない給湯室に駆け込んだ。
彼女の想いに応えるように、胸元のIDカード型チャームが熱を帯びる。
「社会の理不尽に、愛と書類とハンコで立ち向かう! 魔法少女ミラクルミレイ、見参!」
スーツ姿がまばゆい光に包まれ、ピンクを基調とした魔法衣装へと変わる。
いつもは気恥ずかしいこの姿も、今は頼もしい戦闘服だ。
ミレイは給湯室を飛び出し、同僚たちの悲鳴が響く稟議書の森へと舞い戻った。
森の中心では、全身をバインダーの分厚い鎧で固め、頭に巨大な印鑑を載せた怪人――根津部長の歪んだ承認欲求が生み出した怪人、ネズガドールが腕を組み、鎮座していた。
その手には、絡め取られた由奈がぐったりと捕らえられている。
「来たな、魔法少女! だが、この神聖なる稟議書の森、そう易々と通れると思うな!」
怪人が叫ぶと、由奈が苦しそうに呻いた。
「まずは、その不届きな書類からだ! 非承認レーザー!」
頭の印鑑から、「非承認」の赤い文字がレーザーとなってミレイを襲う。
「きゃっ!」
ミレイはそれを紙一重で避けるが、レーザーが当たった壁には「非承認」の印がジュッと焼き付いていた。
「なんてものを……!」
「無駄だ! この森では、私の承認なくして一歩も進むことはできん! 差し戻しウォール!」
ネズガドールが叫ぶと、ミレイの眼前に「差し戻し」と書かれた巨大な書類の壁が出現し、行く手を阻む。
壁に触れた瞬間、「ああ、この案件、また最初からやり直しか……」という絶望感が頭をよぎり、精神力がごっそりと削られた。
「美玲しゃん! この怪人も、ドドゲラと同じでしゅ! 根っこには、会社を良くしたいという純粋な気持ちがあるはずでしゅ!」
ペンデュルンの言葉に、ミレイはハッとする。
そうだ。
根津部長は、不正や間違いが許せない、人一倍責任感の強い人だった。
その強い想いが、歪んでしまっただけなんだ。
「……あなたの責任感は、素晴らしいと思います。
でも、そのやり方では、みんなの心が離れていくだけです!」
ミレイは攻撃ではなく、対話を試みる。
胸のIDチャームを強く握りしめた。
「あなたのその完璧主義なまでのチェック能力は、デジタルの力を使えば、もっと多くの書類に、もっと正確に活かせます! ミスを探すためじゃない、未来を作るためにその力を使いましょう!」
IDチャームから光のキーボードが現れ、ミレイは猛烈な勢いでタイピングを始める。
光の文字が、美しいグラフや図を宙に描き出し、洗練されたデザインの提案書を構築していく。
「これは……“電子決裁ワークフローシステム”! これさえあれば、誰がいつ申請し、承認したか、全ての記録が改ざん不可能な形で残ります!
あなたが守りたい“正しさ”は、魂を込めたハンコがなくても実現できるんです!」
「な、なんだと……? そんなもので、俺が長年かけて築き上げた魂のハンコ文化に代われるというのか……!」
「代わるんじゃありません! “進化”させるんです!」
ミレイは完成した光の提案書をネズガドールに突きつける。
「これが、未来の働き方です! 受け取ってください、部長! 最適化ビーム(オプティマイズ・レイ)!!」
浄化の光が、優しく怪人を包み込む。
「おお……! ペーパーレス……なんと美しい響きだ……! 全てのログが残り、検索も一瞬……。これこそ、私の求めていた完璧な管理体制……! 私の魂は、ここにあったというのか……!」
ネズガドールは恍惚の表情を浮かべ、やがて光の中に消えていった。
異空間が消え、オフィスは元に戻る。
根津部長は自分のデスクで座ったまま、何かに打たれたように呆然としていた。
ツタから解放された由奈が、心配そうに駆け寄る。
「……そうだ。稟議書の電子化……。なぜ、私は今まで、こんな単純なことに気づかなかったんだ……!」
翌日。
美玲は経理部長室に呼び出された。
「神崎さん。君、こういうことに詳しそうだから、相談があるんだが……」
根津部長は、徹夜で作ったのであろう、拙いが熱意だけは伝わるパワポ資料を広げ、ワークフローシステム導入について熱く語り始めた。
「この人も、ただの頑固者じゃなかったんだ……」
その姿に、美玲は心からの笑顔で応える。
「はい、部長! 喜んでお手伝いします!」
こうして、魔法少女ミラクルミレイは、二人目のDXの愛の契約を(半ば強制的に)結んだのだった。
バッグの中で、ペンデュルンが「これでまた一歩、ホワイト企業に近づいたでしゅ!」と小さなガッツポーズをしている。
(うるさいけど、私の仕事、ちょっとだけ世界を良くしてるのかも……)
美玲のデラックスな毎日は、まだ始まったばかりだ。
次回、魔法少女ミラクルミレイDX!
「第5話:新人・由奈の憂鬱」
社会の理不尽、私がきっちり最適化します!




