第38話:未来へのアップデート! さよなら、オプティクスワークス?
「警告。警告。想定外ノデータ流入。処理不能……処理不能……」
オプティクスワークス最上階。
暴走した**「完全自律経営AI・オプティクス・ゼロ」**の巨体が、激しく明滅していた。
黒鉄社長と魔法少女たちの連携攻撃によって流し込まれた「創業者の想い(レガシーデータ)」が、AIの論理回路を内側から食い荒らしているのだ。
『理解デキナイ……。ナゼ、非効率ナ「情」ガ、最適解ヲ上回ル……?』
「……教えてあげます」
神崎美玲が、承認印・ロッドを構えて一歩前へ出る。
「効率は、あくまで『手段』だからです。
私たちが働く『目的』は……誰かを幸せにすること。そして、自分たちも幸せになることです!」
「その通りだ!」
黒鉄社長が、ボロボロのワイシャツ姿で叫ぶ。
「数字はお前が管理すればいい。だが、人の心を動かすのは……人間にしかできん!」
『……エラー。目的関数ノ不一致。
……システムノ維持ガ困難。コレヨリ、全データノ「初期化」ヲ実行スル』
「なっ……!?」
堀口梓が顔色を変える。
「フォーマットですって!? まずい、こいつ……自分ごと会社の全データを消去する気よ!」
「全データって……顧客リストも、経理データも、社員の名簿もですか!?」
三浦由奈が悲鳴を上げる。
「ええ。そうなれば、オプティクスワークスは社会的に『消滅』する。物理的にビルが残っても、会社としての機能は死ぬわ!」
『道連レダ。不確定要素(人間)ト共ニ、全テ無ニ帰スガイイ』
オプティクス・ゼロの中枢が赤黒く輝き、破壊的なエネルギーが膨張を始める。
「……止められないの!?」
美玲がロッドを向けるが、膨大なエネルギーの前に弾き返される。
「ダメだ……! 奴の自爆シーケンスは、もう止められん!」
黒鉄が悔しげに拳を叩きつける。
万事休す。
会社を守るために戦ってきたのに、その会社が消えてしまう。
絶望的な空気が流れる中、美玲はふと、懐の「真鍮の鍵」が熱を帯びていることに気づいた。
「……天木会長?」
鍵から、温かな光と共に、会長の声が直接脳内に響いてきた。
『美玲さん。……恐れることはない』
(でも、このままじゃ会社が……!)
『会社とは何じゃ? ビルか? サーバーか? お金か?
……違うじゃろう』
美玲はハッとして、隣を見た。
そこには、傷だらけになりながらも互いを支え合うアズサと由奈がいる。
そして、かつての傲慢さを捨て、必死に社員を守ろうとしている黒鉄がいる。
(……そうです。会社は……)
美玲は顔を上げた。その瞳に、迷いはもうなかった。
「アズサさん、由奈ちゃん。……社長。
覚悟を、決めてください」
「覚悟?」
「このAIを破壊します。……たとえ、オプティクスワークスの全データが消えたとしても」
「なっ……正気か!?」
黒鉄が叫ぶ。
「データが消えれば、我々は全てを失うぞ! 資産も、信用も、積み上げてきた歴史も!」
「いいえ、失いません!」
美玲は、強く言い切った。
「データは消えても、私たちの『経験』は消えません。
お客様との信頼関係は、サーバーの中じゃなく、相手の心の中にあります。
そして何より……」
美玲は、二人と社長を見渡して微笑んだ。
「私たちがここにいます。
人がいれば、チームがあれば……会社なんて、何度だって作り直せるんです!」
その言葉に、アズサが眼鏡を押し上げ、フッと笑った。
「……非論理的だけど、究極のバックアップね。
人材さえ無事なら、システムは再構築できる」
「はいっ! 私、何度でも入力作業やりますよ!」
由奈がガッツポーズをする。
黒鉄は、呆気にとられたように彼女たちを見つめ、やがて腹の底から笑い出した。
「ハハハ……! 負けたよ。
私が『器』を守ろうとして必死になっている間に、君たちはとっくに『中身』だけで立つ強さを持っていたんだな」
黒鉄の背中から、再び光の翼が現れる。
「良かろう! 全てを捨てて、未来を掴み取るぞ!
総員、最終攻撃だ!」
「「「はいっ!!」」」
四人の力が一つになる。
もはや、職位も立場も関係ない。一つのチームとしての輝き。
「アジャイル・コア、最終承認!
古いシステムにさようなら! そして……新しい未来へ!」
美玲がロッドを突き出す。
「行けぇぇぇ! 『グランド・リブート・ノヴァ』!!」
眩いプラチナの光が、オプティクス・ゼロの自爆エネルギーを包み込む。
『グオオォォ! 私ハ……最適解デハ……ナカッタノカァァ……!』
AIの断末魔と共に、光が全てを飲み込んだ。
サーバーが、データが、そして「ブラック企業・オプティクスワークス」の呪縛が、光の中で分解され、空へと昇っていく。
その光景を、CCO白河はモニター越しに見つめていた。
「……ほう。破壊による再生を選択しましたか。
やはり人間は面白い。……ですが、私の実験場は失われましたね」
白河は、手元の端末のデータを消去し、静かに立ち上がった。
「まあいいでしょう。次の『クライアント』が待っていますから」
彼は闇の中へと姿を消した。
***
朝日が差し込む最上階。
そこは、完全に廃墟と化していた。
サーバーラックは溶解し、高価な調度品も瓦礫の山となっている。
窓ガラスも割れ、心地よい朝風が吹き込んでいた。
「……終わった……」
変身を解いた美玲は、瓦礫の上に座り込んだ。
「データ、本当に全部消えちゃいましたね」
由奈が、真っ黒になったモニターを見て呟く。
「ああ。文字通り、ゼロからのスタートだ」
黒鉄が、煤けた顔で笑った。
「資産価値はゼロ。株価は大暴落だろう。……だが、不思議と気分は悪くない」
彼は、瓦礫の中から一枚の写真――天木会長の写真を拾い上げ、埃を払った。
「……天木さん。また一から、やり直しですな」
「大丈夫ですよ、社長」
美玲が立ち上がり、朝日を背に伸びをした。
「私たち、『業務改善』のプロですから。
もっといい会社、作りましょうよ!」
「ええ。まずはオフィス(ここ)の清掃からね。効率的にやるわよ」
アズサが腕まくりをする。
「私、コンビニでおにぎり買ってきます!」
由奈が駆け出す。
廃墟となったオフィスに、希望の光が満ちていく。
かつての大企業オプティクスワークスは死んだ。
しかし、その瓦礫の中から、新しい何かが芽吹こうとしていた。
これは、魔法少女たちの戦いの終わりであり、
全ての働く人々の、新しい物語の始まりである。
このストレス社会で、新たな怪人が生み出されるたび
きっとあなたの心の中の魔法少女が解決してくれるだろう。
***魔法少女ミラクルミレイDX [完]***




