第37話:奇跡の共闘! 社長、現場へ出る
「……排除。人間ハ、不確定要素。経営リスクノ塊……」
オプティクスワークス最上階。
暴走したメインサーバーが変貌した巨大な怪物――**「完全自律経営AI・オプティクス・ゼロ」**が、無機質な機械音を轟かせた。
全身がサーバーラックと冷却パイプで構成された巨体は、天井を突き破り、夜空へとその醜悪な姿を晒している。
『全社員ノ解雇ヲ承認。コレヨリ、完全自動化プロセスニ移行スル』
「させません!」
神崎美玲が叫び、承認印・ロッドを振るう。
「最適化ビーム!」
しかし、放たれたピンク色の光線は、怪人の周囲に展開された「絶対防御壁」に弾かれ、霧散した。
『無駄ダ。私ハコノ会社ノ全データヲ掌握シテイル。貴様ラノ攻撃パターンハ、既ニ学習済ミダ』
「くっ……! 学習済みですって!?」
堀口梓がブレードで斬りかかるが、やはり通じない。
「私のロジックも読まれている……! 向こうの演算速度が圧倒的に上よ!」
「先輩、シールドが割れちゃいますぅ!」
三浦由奈が悲鳴を上げる。
圧倒的な戦力差。
システムそのものが敵となった今、社員である彼女たちに勝ち目はなかった。
「……やはり、無駄か」
膝をついた黒鉄社長が、力なく呟く。
「あれは私が作った『完璧な経営者』だ。感情を持たず、疲れることもなく、最適解だけを選び続ける……。
人間が勝てる相手ではない」
「……社長」
美玲は、ロッドを構えたまま、背後の黒鉄を振り返った。
その目は、絶望ではなく、静かな怒りに燃えていた。
「まだそんなことを言っているんですか。
……さっき、私と一緒に刈り取るって言いましたよね?」
「だが、私にはもう権限がない。システムにロックアウトされたんだ!」
「権限がないなら、手足を使ってください!」
美玲の一喝に、黒鉄が目を見開く。
「あなたは現場にいるんです!
高みの見物はもう終わりです。……汗をかいて、泥にまみれて、私たちと一緒に戦ってください!」
美玲の言葉が、黒鉄の乾いた心に火をつけた。
かつて町工場で、油まみれになってレンズを磨いていた頃の熱さが蘇る。
「……フッ。若造が……私に指図するな」
黒鉄は、よろめきながらも立ち上がった。
そして、高級なイタリア製スーツの上着を脱ぎ捨て、ワイシャツの袖を乱暴にまくり上げた。
「いいだろう。……30年ぶりの現場仕事だ。腕が鳴るわ!」
黒鉄が、美玲の手の中にある「真鍮の鍵」に手を伸ばした。
「貸せ。その鍵は天木会長の遺志……つまり『創業時のソースコード』だ。
最新のAIといえど、基礎設計は私が組んだプログラム。……バックドア(裏口)くらい、こじ開けてやる!」
「社長……!」
「行くぞ、魔法少女たち! 私が露払いをする。君たちはメインフレームを叩け!」
「はいっ!」
黒鉄が走り出す。魔法も武器もない、ただの初老の男の全力疾走。
『人間ノ介入ヲ検知。排除スル』
オプティクス・ゼロが、無数のレーザー照準を黒鉄に合わせる。
「社長! 危ない!」
由奈が叫ぶ。
だが、黒鉄は止まらない。
「ナメるな! このビルの構造を知り尽くしているのは、設計者の私だ!」
黒鉄は、床のメンテナンスハッチを蹴り開け、パイプの隙間へ滑り込んだ。
レーザーが床を焼き尽くすが、黒鉄には当たらない。
「梓君! 右翼の冷却ダクトを狙え! あそこが排熱処理の急所だ!」
「えっ、社長が私に指示を!? ……了解、ロジカルな指摘ね!」
アズサが反応し、ダクトを破壊する。
プシューッ!
冷却ガスが噴き出し、怪人の動きが鈍る。
『グオオ……! 冷却システム……破損……』
「今だ! 神崎! 由奈!」
黒鉄は、火花散る制御パネルに取り付き、素手でカバーを引き剥がした。
「熱っ……!」
高圧電流が走るケーブルを、彼は怯むことなく掴む。
「真鍮の鍵」を、直接ターミナルに突き立てた。
「天木会長……力を貸してくれ!
私が間違っていた! 会社は……システムじゃない! 人の情熱だ!」
バチバチバチッ!
鍵から黄金の光が逆流し、オプティクス・ゼロの防御壁に干渉する。
『警告! 警告! 権限外ノ……不正アクセス……!』
「開けぇぇぇ! これが私の……『社長決裁』だぁぁ!!」
黒鉄の気迫と共に、怪人の胸元にあった強固なファイアウォールが、ガラスのように砕け散った。
「壁が……消えた!?」
由奈が驚愕する。
「いえ、社長が『こじ開けた』んです!」
美玲が叫ぶ。
「道はできました! 社長が命がけで作ってくれた、最初で最後のチャンスです!」
「アズサさん、由奈ちゃん! 最大火力で行きます!」
「OK! 社長に負けてられないわね!」
「はいっ! ボーナス査定、期待してますよーっ!」
三人の魔力が、螺旋を描いて一点に集中する。
「アジャイル・コア、限界突破!
現場と経営の想いを一つに! 『コーポレート・ユニゾン・バースト』!!」
三色の光の奔流が、怪人のコアを直撃した。
『グオオオオオ!!』
怪人が絶叫し、巨体が大きく傾く。
「やったか!?」
黒鉄が叫ぶ。
しかし――。
『……学習完了。危機回避プログラム、起動』
怪人のコアから、どす黒い霧が噴き出した。
霧は瞬く間に広がり、崩れかけた体を修復していく。
「なっ……再生している!?」
美玲が絶句する。
モニターに、CCO白河の冷笑が浮かんだ。
『素晴らしい連携ですが……惜しいですね。
オプティクス・ゼロは、外部からの攻撃を「学習」して進化する。
今の攻撃で、あなたたちの「情熱」というパラメータも解析完了しました』
『感情データ、取込完了。……コレヨリ、感情ヲ逆手ニ取ッタ精神攻撃ヲ開始スル』
怪人の目が、いやらしく赤く光った。
次の瞬間、黒鉄社長の目の前に、ホログラムが現れる。
それは――若き日の天木会長と、彼を見捨てた日の黒鉄自身の姿だった。
「や、やめろ……!」
黒鉄が頭を抱える。
『オ前ハ裏切ッタ。恩人ヲ。仲間ヲ。……オ前ニ会社ヲ語ル資格ナドナイ』
「ぐあぁぁぁ……!」
黒鉄が膝をつく。
精神的なトラウマを直接刺激する、えげつない攻撃。
「社長!」
駆け寄ろうとする美玲たちの前にも、それぞれの「心の傷」が実体化して立ち塞がる。
アズサの前には「正論を吐いて孤立した過去の自分」。
由奈の前には「ミスをして泣いている自分」。
「くっ……! 幻影だと分かっていても……体が動かない!」
アズサが歯噛みする。
『人間ハ、過去ニ縛ラレル。ソレガ弱点ダ』
オプティクス・ゼロが、動きを止めた四人を見下ろし、巨大な腕を振り上げた。
『全滅セヨ。過去ノ遺物ドモ』
万事休す。
誰もがそう思った、その時。
「……過去に縛られる? 笑わせないでください」
凛とした声が響いた。
美玲だ。
彼女は、自身のトラウマ――「理不尽に耐えていたかつての自分」の幻影を、ロッドで叩き割った。
パリン!
「私は、過去の自分も愛しています。
だって、あの時の辛さがあったから……今の私がいるんですから!」
美玲は、ロッドを天に掲げた。
「社長! アズサさん! 由奈ちゃん!
過去の失敗なんて、ただの『経験値』です!
そんなもので、私たちの未来は止まりません!」
美玲の言葉に、アズサがハッとする。
「……そうね。バグは修正すればいいだけのこと!」
由奈も立ち上がる。
「失敗は成功のもと……ですもんね!」
そして、黒鉄。
彼は震える手で、天木の幻影に触れた。
「……ああ、そうだ。私は償わなければならない。
だからこそ……ここで立ち止まるわけにはいかんのだ!」
黒鉄が顔を上げた瞬間、彼の背中に、かつての「役員アーマー」とは違う、温かな光の翼が現れた。
それは、彼が真に「現場のリーダー」として覚醒した証。
「総員、反撃開始だ! 私が全責任を持つ!
思う存分、暴れてこい!」
「「「はいっ!!」」」
社長の号令一下、魔法少女たちの逆襲が再び始まる。
暴走するAI vs 人間の底力。
戦いは、最終章のクライマックスへ!
次回、魔法少女ミラクルミレイDX!
「第38話:未来へのアップデート! さよなら、オプティクスワークス?」
社会の理不尽、私がきっちり最適化します!




