第36話:決戦! 黒鉄社長と魔の経営計画
オプティクスワークス本社ビル、最上階。
そこは、もはや社長室ではなかった。
壁一面が巨大なサーバーラックで埋め尽くされ、無数のケーブルがフロアの中央にある「玉座」へと繋がっている。
その玉座に座り、無数のモニターを見下ろしている男――黒鉄厳。
「ようこそ、我が社の心臓部へ。……ここまで到達したことだけは、評価してやろう」
黒鉄が指を鳴らすと、背後のモニターに『全社員・怪人化計画』の進捗バーが表示された。
『進捗率:98%』。
あとわずかで、全社員の心が完全にデリートされ、ただの労働マシーンへと書き換えられてしまう。
「社長! 今すぐこの計画を停止してください!」
神崎美玲が叫ぶ。
「天木会長から聞きました。あなたは、会社を救うために心を捨てたと。
でも、社員の心を犠牲にして生き残った会社に、何の意味があるんですか!」
「……意味だと?」
黒鉄が立ち上がる。その体は、サーバーからの黒いエネルギー供給を受け、巨大な漆黒のパワードスーツ――**『グランド・エグゼクティブ・アーマー』**に包まれていく。
「会社とは『器』だ。器が割れれば、中身(社員)もこぼれ落ちて死ぬ。
あの日、天木の甘い経営で会社が倒産寸前になった時、私は誓ったのだ。
心を殺してでも、非情になってでも……この『器』だけは守り抜くと!」
黒鉄の声が、金属的な響きを帯びて轟く。
「それが経営者の責任だ!
現場で笑っているだけの貴様らに、私の孤独と重圧が分かってたまるかぁぁ!!」
黒鉄が腕を振り下ろす。
『トップダウン・クラッシュ!!』
巨大な重力の塊が三人を押し潰す。
「くっ……! 重い……!」
「シールドが……持ちません……!」
三浦由奈の防御壁が軋み、堀口梓も膝をつく。
物理的な重さではない。「全責任を一人で背負う」という、狂気じみた覚悟の重さだ。
「甘い! 甘い! 貴様らの正義など、赤字の前では塵に等しい!」
黒鉄が追撃を放つ。
『コスト・カット・ブレード!』
鋭利な衝撃波が、アズサの剣を弾き飛ばす。
「アズサさん!」
「ぐぅ……! 速い……! 私の演算速度を超えている……!」
「終わりだ。貴様らも私のリソース(燃料)となれ!」
黒鉄がトドメの一撃を構える。
絶体絶命の瞬間、美玲の脳裏に天木会長の言葉が蘇った。
『……あやつを、黒鉄を救ってやってくれ……』
(そうか……。この人は、強いんじゃない。……恐れているんだ)
美玲は、懐の「真鍮の鍵」を握りしめた。
「……社長。あなたは、怖いのですね」
「何?」
黒鉄の動きが止まる。
「会社が潰れること。社員が路頭に迷うこと。……それを誰よりも恐れて、一人で背負い込んで……。
だから、誰も信じられなくなった!」
美玲は、ロッドの先端に「真鍮の鍵」を差し込んだ。
カチリ。
鍵が回る音が、静寂のフロアに響き渡る。
「でも、もう一人で背負わなくていいんです!
会社は、社長一人のものじゃありません! みんなで支えるものです!」
美玲がロッドを掲げると、鍵から溢れ出した温かな光が、黒鉄の漆黒のアーマーに突き刺さった。
「アジャイル・コア、ロック解除!
創業者の記憶を、呼び覚まします!!」
『レガシー・リコール・フラッシュ!!』
光がモニター群に干渉する。
すると、無機質な数字の羅列だった画面が、次々と「過去の映像」に切り替わった。
『社長、今月も黒字ですよ! やりましたね!』
『黒鉄専務、ありがとう。あんたのおかげで工場が助かったよ』
『俺たち、あんたについて行きますから!』
それは、黒鉄が「非情」になる前――まだ現場と共に汗を流し、社員と笑い合っていた頃の記憶。
彼が切り捨て、封印したはずの「感謝」と「信頼」のログだった。
「な……これは……なんだ……!?」
黒鉄がうろたえる。
アーマーの表面に浮かぶ「独裁」の文字が揺らぎ始める。
「見てください! これが、あなたが守ろうとした『中身』です!」
美玲が叫ぶ。
「社員は、あなたに守られるだけの弱者じゃありません!
あなたと一緒に、会社を支えたいと願っている仲間なんです!」
「仲間……だと……?」
黒鉄の脳裏に、天木会長の笑顔と、かつての自分の情熱がフラッシュバックする。
『厳くん。会社を作るのは、金じゃない。人だよ』
「う、うわぁぁぁぁ!! やめろ! 私に……感情を見せるなァァ!!」
黒鉄が錯乱し、暴走する。
アーマーから過剰なエネルギーが噴き出し、フロア全体が崩壊を始めた。
「私は間違っていない! 非情こそが正義だ!
感情など……最大の経営リスクだァァ!!」
「アズサさん、由奈ちゃん! 今です!」
美玲が指示を飛ばす。
「社長の心の装甲に、ヒビが入りました!
私たちの『想い』を、直接叩き込みます!」
「了解! ロジカルに反論させてもらうわ!」
アズサが立ち上がり、青い光を纏う。
「孤独な経営なんて、非効率の極みよ! シェアしてこそ組織でしょう!」
「私も言います! 社長はバカですぅ!」
由奈が涙を拭いながら叫ぶ。
「社員を信じないなんて……寂しすぎます!」
「行きますよ! これが、私たちの『経営方針』です!」
三人の魔力が一つになる。
「届け! 孤独なトップに、現場の熱意を!
『ステークホルダー・トリニティ・インパクト』!!」
三色の光の奔流が、黒鉄の漆黒のアーマーを貫いた。
「グオオオォォォォ!!」
鎧が砕け散る。
黒い霧が晴れ、その中から、一人の疲れ切った初老の男の姿が現れた。
彼は膝をつき、呆然と、モニターに映る「かつての笑顔の社員たち」を見つめていた。
「……私は……。守りたかっただけだ……。あの日の……笑顔を……」
黒鉄の目から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「……社長」
美玲が歩み寄り、手を差し伸べようとした、その時。
『警告。システムエラー。制御不能』
『警告。自己防衛プログラム、強制起動』
機械的なアナウンスと共に、黒鉄の背後の巨大なメインサーバーが赤く発光し始めた。
「な、何!?」
「……ククク。やはり人間は脆いですね、黒鉄社長」
モニターの一つに、CCO白河の顔が映し出された。
「白河!?」
「あなたの心が折れることは想定内です。
なので、システムが自動的に『経営権』を剥奪し、暴走するように設定しておきました。
さあ、これからはAIによる『完全自動経営』の始まりです。人間は……社長も含めて全員不要ですよ」
ズズズズ……!
メインサーバーが変形し、ビル全体を飲み込むような巨大な怪物――**ラスボス「完全自律経営AI・オプティクス・ゼロ」**へと姿を変えていく。
「そんな……! 社長ごと会社を乗っ取る気!?」
アズサが叫ぶ。
黒鉄は、力なく美玲を見上げた。
「……逃げろ。これは、私が生み出した怪物だ……。私と一緒に、ここで終わる」
「……逃げません」
美玲は、黒鉄の手を強く掴み、引き立たせた。
「言ったでしょう。会社はみんなで支えるものだと!
あなたが撒いた種なら、一緒に刈り取ります!
……最後まで責任、取らせますからね! 社長!」
美玲の瞳に、不屈の闘志が宿る。
創業者の心を継ぐ魔法少女と、過ちを認めた社長。
今、最大の敵「暴走するシステム」に対し、奇跡の共闘が始まろうとしていた。
次回、魔法少女ミラクルミレイDX!
「第37話:奇跡の共闘! 社長、現場へ出る」
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