第32話:社長室の秘密! 社長の意思とは
「……社長に、呼ばれた?」
神崎美玲の声が、人気のない給湯室に小さく響いた。
目の前には、CCOの白河が、いつもの薄ら笑いを浮かべて立っていた。
「ええ。昨日の『KPIゴーゴン』の一件……見事な対処でした。
その功績を称え、我が社のトップ・黒鉄社長が、直々に君たちとお話ししたいそうです」
「……罠じゃないでしょうね」
堀口梓が眼鏡の位置を直しながら鋭く問う。
「罠? とんでもない。これは『招待状』ですよ。会社の未来を決める、重要なミーティングへのね」
白河は、胸ポケットから黒いカードキーを取り出し、美玲に手渡した。
「今日の18時。最上階の社長室でお待ちしています。……遅刻は厳禁ですよ」
白河が去った後、三浦由奈が不安そうに美玲の袖を引く。
「先輩……社長って、あの伝説の黒鉄社長ですよね? 創業一代でこの会社を大きくしたっていう……」
「ええ。私も入社式で一度見たきりです。……でも、行かなきゃいけませんね」
美玲はカードキーを強く握りしめた。
「ここ最近の異常な社内改革……『ホワイト化』や『成果主義』の裏に何があるのか。確かめに行きましょう」
***
18時。
役員専用エレベーターは、音もなく上昇を続けていた。
階数が上がるにつれ、気圧の変化で耳がキーンと痛む。
それは物理的な気圧差だけでなく、これから向かう場所が持つ「権力の重圧」のようにも感じられた。
「……緊張します」
由奈が胸を押さえる。
「深呼吸して。……相手が誰であろうと、私たちは間違ったことはしていないわ」
アズサが自分に言い聞かせるように呟く。
チン。
最上階に到着すると、そこは別世界だった。
分厚い絨毯、重厚な絵画、そして静寂。
オフィスの喧騒とは無縁の、冷たく整えられた空間。
その奥にある巨大な両開きの扉の前に、白河が待っていた。
「時間通りですね。どうぞ、お入りください」
ギィィ……と重い音がして、扉が開く。
広大な社長室。その一面ガラス張りの窓からは、夕暮れの東京が一望できた。
そして、その窓を背にして、一人の男が革張りの椅子に座っていた。
逆光で表情は見えない。だが、そのシルエットだけで、圧倒的な威圧感が伝わってくる。
「……よく来たな、魔法少女たちよ」
男が椅子を回転させ、こちらを向いた。
黒鉄厳。
白髪交じりの髪をオールバックにし、深く刻まれた皺の一つ一つが、幾多の修羅場を潜り抜けてきた経営者の歴史を物語っている。
「初めまして、社長。……営業事務の神崎です」
美玲が一歩前に出て挨拶をする。
黒鉄は、値踏みするように美玲を見つめ、フンと鼻を鳴らした。
「知っている。私の会社で『魔法』などという非科学的な力を行使し、業務フローを掻き乱している問題児だろう」
「掻き乱しているわけじゃありません! 私たちは、社員を守るために……!」
由奈が抗議しようとするが、黒鉄の鋭い視線に射抜かれ、言葉を飲み込む。
「守る? ……ふん。甘いな」
黒鉄が立ち上がり、窓の外の街を見下ろした。
「社員とは、守られるべき弱者ではない。会社という巨大な機械を動かす『部品』であり、同時に『燃料』だ」
「燃料……?」
美玲が眉をひそめる。
「そうだ。人は、適度なストレスと競争、そして恐怖があってこそ、最大のパフォーマンスを発揮する。
私が創業した頃はそうだった。寝る間も惜しんで働き、ライバルを蹴落とし、生き残った者だけが富を得た。
……だが、今はどうだ? 『働き方改革』だの『コンプライアンス』だの……。
牙を抜かれた腑抜けばかりが増え、会社は衰退の一途を辿っている!」
黒鉄の声に、部屋の空気がビリビリと震える。
それは魔法ではない。純粋な「怒り」と「覇気」だ。
「だから私は手を組んだ。……『ストレス・マキシマイズ社』とな」
「なっ……!?」
三人が息を呑む。
「手を組んだって……会社が乗っ取られたわけじゃなくて……社長の意思だったんですか!?」
アズサが驚愕する。
「ああ。彼らの技術は素晴らしい。
人のストレスをエネルギーに変え、さらにそのエネルギーで人を効率的に管理する。
これこそが、私が求めていた『究極の経営管理システム』だ」
黒鉄は、机の上のスイッチを押した。
部屋のモニターに、巨大な計画書が映し出される。
『全社員・怪人化計画(ヒューマン・リソース・モンスター・プロジェクト)』
「な……!」
美玲が言葉を失う。
「恐怖も痛みも感じず、24時間365日、死ぬまで働き続ける最強の社員(怪人)。
それを作り出し、世界市場を制覇する。
これこそが、オプティクスワークスの……いや、日本の未来だ!」
狂気。
経営者としての責任感が、歪んだ方向へ暴走している。
「……間違っています」
美玲は、震える声で、しかしはっきりと告げた。
「会社は……社長のモノかもしれません。でも、そこで働く人の『心』まで、あなたのモノじゃありません!」
美玲は一歩前に踏み出した。
「人は部品じゃない。燃料でもない。
泣いたり笑ったりして、それでも誰かの役に立ちたいと願う……『人間』です!
人間を辞めさせてまで手に入れる未来に、何の価値があるんですか!」
「……ほう」
黒鉄が目を細めた。
「若造が、私に説教か。……ならば、その『人間』の無力さ、思い知らせてやろう」
黒鉄が指を鳴らすと、社長室の床から黒い霧が噴き出した。
「変身!」
三人は瞬時に変身し、構える。
だが、霧の中から現れたのは、怪人ではなかった。
黒いスーツを着た、二人の影。
「……え?」
美玲が目を見開く。
その影は、かつて倒したはずの――
「黒井!? それに、灰谷専務!?」
「やあ、久しぶりですね」
「……また会ったな、不採算因子ども」
以前倒したはずの幹部たちが、黒いオーラを纏って再生していたのだ。
「彼らは私の『直轄部下』として再雇用した。以前よりもスペックは向上しているぞ」
黒鉄が冷酷に告げる。
「さあ、テストだ。彼らを倒せなければ、君たちも計画の一部(怪人)になってもらう」
「……上等です!」
ミレイがロッドを構える。
「社長が相手でも、間違っていることは間違っていると言わせてもらいます!
それが……私の仕事ですから!」
オフィスの最上階、逃げ場のない密室で、経営陣vs 現場の最終決戦の火蓋が切って落とされた。
次回、魔法少女ミラクルミレイDX!
「第33話:再生怪人軍団! 役員報酬の闇」
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