第31話:数字が全て!? デスマーチ・サバイバル
「おはようございます。……いえ、おはようと言っている暇などありませんね」
週明けのオプティクスワークス。
エントランスには、まるで証券取引所のような巨大な電光掲示板が設置されていた。
そこに表示されているのは、全社員の名前と、リアルタイムで変動する**「現在評価額」**。
『今月より、皆さんの給与は秒単位で変動します。
売上、契約数、処理件数……あらゆる成果が即座に金額に換算され、ランキング化されます。
なお、下位10%の社員には……ペナルティとして「退場」願います』
スピーカーから流れるCCO白河の声は、楽しげに弾んでいた。
「な、何これ……私の評価額、どんどん下がってる!?」
三浦由奈が悲鳴を上げる。
彼女のような事務職やサポート業務は、直接的な「売上」を作りにくいため、システム上では「利益を生まない存在」と判定され、評価額が目減りしていくのだ。
「……ひどい設計ですね。これでは、誰もサポート業務をしなくなります」
神崎美玲は、掲示板を睨みつけた。
「ええ。短期的な数字を作るために、不正や足の引っ張り合いが横行するわ。……見て」
堀口梓が顎でしゃくる。
オフィスは戦場と化していた。
「おい! その案件、俺に回せ! 俺の数字にするんだ!」
「電話なんか取ってる暇ない! 契約書だけ作れ!」
「先輩のミス、報告しておきましたよ。これで僕の順位が上がりますね」
社員たちは目の前の数字に踊らされ、同僚を蹴落とし、顧客への誠実さすら捨てていた。
それはまさに、終わりのない数字の奴隷――**「デスマーチ(死の行軍)」**の始まりだった。
***
「あぁ……もうダメですぅ……。私、マイナス評価に突入しちゃいました……」
午後3時。由奈の顔色は土気色だった。
彼女が丁寧に資料を作っている間に、雑に数をこなした同期の評価が上がっていく。
「由奈ちゃん、焦らないで。丁寧な仕事は、必ず誰かが見てくれています」
美玲が励ますが、その言葉もシステムの前では無力だった。
『警告。下位ランカーの排除を開始します』
無慈悲なアラートと共に、オフィスの床が抜け落ちるような感覚に襲われた。
「きゃあっ!?」
空間が歪み、数字の羅列でできた檻が、評価の低い社員たちを閉じ込めていく。
「排除……排除……。数字ノナイ奴ハ、ゴミダ……」
掲示板のデータが実体化し、巨大な怪人が現れた。
全身がグラフと請求書で構成され、両手が巨大な電卓になっている。
怪人「KPI(重要業績評価指標)・ゴーゴン」。
その目が光ると、捕らえられた社員たちが「石」のように固まり、ただひたすらキーボードを叩く「自動人形」へと変えられていく。
「ひぃっ! みんなが石像みたいに!」
由奈が震える。
『オ前モダ! 利益ヲ産マナイ無能ハ、電池ニナレ!』
怪人が由奈に迫る。
「させません!」
美玲とアズサが変身し、割って入る。
「変身! 数字だけで人を測るなんて……浅はかすぎます!」
『黙レ! 結果ガ全テ! プロセスナド無意味ィィ!』
怪人が電卓を叩くと、空から無数の数字の雨「ノルマ・レイン」が降り注いだ。
「くっ……! 一粒一粒が重い!」
アズサがブレードで弾くが、数字は無限に降ってくる。
「アズサさん、大丈夫ですか!?」
「問題ないわ。私は効率化の鬼よ。この程度の処理速度なら……!」
アズサは高速でブレードを振るい、数字を切り刻んでいく。
彼女の評価額は、皮肉にもこの戦闘中も上がり続けていた。
「……見て、私の評価額。敵を倒す『成果』だけは評価されるみたいね」
「でも、由奈ちゃんは……!」
由奈はシールドで防ぐのが精一杯で、攻撃に転じられない。評価額は下がり続け、足元から徐々に石化が始まっていた。
「あ、足が……動きません……先輩……」
「由奈ちゃん!」
『ハハハ! 役立タズハ消エロ!』
怪人がトドメの光線を放つ。
美玲は、ロッドを構えて由奈の前に立った。
「役立たずなんかじゃありません!
彼女が資料を整えてくれるから、営業が回るんです!
彼女が電話を取ってくれるから、私たちが商談できるんです!」
美玲の怒りが、アジャイル・コアを赤く染める。
「目に見える数字だけが成果じゃない!
縁の下の力持ちをないがしろにする組織に、未来なんてありません!」
美玲はロッドのダイアルを回した。
「アジャイル・コア、再定義!
評価軸を書き換えます! 『クオリティ・オブ・ワーク』!!」
ロッドから放たれた光が、掲示板のシステムに干渉する。
美玲が書き加えた評価項目は――『サポート貢献度』『チームワーク』『誠実さ』。
ピピピピ……!
システムが再計算を始める。
すると、今まで「0」だった由奈の評価額が、爆発的な勢いで上昇し始めた。
『エラー! エラー! 数値化デキナイ項目ガ、莫大ナ利益ヲ生ンデイル!?』
怪人が混乱する。
「今です、由奈ちゃん! あなたの『丁寧な仕事』は、最強の武器になります!」
「……はいっ! 私、先輩たちを支えるのが得意ですから!」
由奈の石化が解け、タブレットが輝く。
「コネクト・フルサポート! 先輩たちの攻撃力、200%アップです!」
由奈の魔法が、美玲とアズサに莫大なバフ(強化)を与える。
「ありがとう、由奈ちゃん! 行きますよ、アズサさん!」
「ええ。最高の数値を叩き出してあげるわ!」
「食らいなさい! 『トータル・リターン・クラッシュ』!!」
強化された二人の一撃が、怪人の電卓を粉砕した。
『計算……間違イ……デシタァァ……!』
怪人は数字の欠片となって霧散し、石化していた社員たちも元に戻った。
***
掲示板の数字は全てリセットされ、オフィスには安堵の空気が流れた。
「……助かった」
「俺、何やってたんだろ……」
我に返った社員たちが、互いに謝り合う。
モニターの向こうで、白河は興味深そうにデータを眺めていた。
「ほう。定性的な価値を、定量的なパワーに変換しましたか。
……やはり、君たちの『心』という変数は面白い」
白河は手元のスイッチを切り、薄く笑った。
「ですが、この程度の修正では、崩壊は止まりませんよ。
そろそろ……『社長』もお待ちかねだ」
オフィスでは、美玲が疲労困憊の由奈を背負っていた。
「お疲れ様、由奈ちゃん。今日はもう帰りましょう」
「はいぃ……。神崎先輩の背中、落ち着きますぅ……」
「……甘えすぎよ、由奈」
アズサが呆れながらも、鞄を持ってやっている。
三人の絆は、歪んだ数字の暴力にも屈しなかった。
だが、白河の言葉通り、オプティクスワークスの闇の奥底で、ラスボス――**社長・黒鉄**が、静かにその玉座から立ち上がろうとしていた。
次回、魔法少女ミラクルミレイDX!
「第32話:社長室の秘密! 社長の意思とは」
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