第28話:残業禁止のパラドックス! 隠れ残業を暴け
「18時です。業務終了時刻となりました。速やかに退社してください」
無機質なアナウンスと共に、オプティクスワークスのオフィス一斉に照明が落ちる。
PCの画面には『強制シャットダウンまであと10秒』という無慈悲なカウントダウンが表示され、社員たちは慌てて保存ボタンを押して席を立つ。
「……健康的ですね。まるでモデル企業みたい」
神崎美玲は、静まり返ったフロアを見渡して呟いた。
「ええ。数字の上ではね」
堀口梓が、冷ややかな視線を送る。
「残業時間は前月比マイナス90%。でも、業務量は変わっていないわ。……計算が合わないのよ」
「みんな、魔法みたいに仕事が早くなったんでしょうかぁ?」
三浦由奈が首をかしげる。
「まさか。……行きましょう。この『数字のトリック』の裏側を見に」
***
三人が向かったのは、会社の裏手にある24時間営業のファミリーレストランだった。
店に入った瞬間、異様な熱気と、どんよりとした空気に包まれる。
「いらっしゃいま……あ、あの、当店はコワーキングスペースでは……」
困り果てた店員の声。
客席を見渡せば、そこはオプティクスワークスの社員たちで埋め尽くされていた。
彼らは皆、個人所有のノートPCやタブレットを開き、鬼のような形相でキーボードを叩いている。
テーブルには冷めきったコーヒーと、大量の資料。
そして、彼らの背中からは、どす黒いストレスのオーラが立ち上っている。
「これが……『隠れ残業』の実態」
美玲が息を呑む。
会社で残業が禁止された結果、終わらない仕事を家に持ち帰ったり、こうして外で隠れて処理したりする――いわゆる「持ち帰り残業」が横行していたのだ。
「佐伯課長……」
美玲が声をかけると、奥の席にいた佐伯課長がビクッと肩を震わせた。
「か、神崎さん!? み、見なかったことにしてくれ!」
彼は充血した目で懇願する。
「終わらないんだよ! でも残業申請すると『能力不足』だってハピネス・スコアを下げられる! だから、ここでやるしかないんだ!」
「そんな……。それは会社がリソース管理を放棄しているだけです!」
美玲が詰め寄ろうとした時、店内のモニターが突然切り替わった。
『おやおや、困りますねぇ。オフの時間まで仕事だなんて』
画面に現れたのは、CCOの**白河**だった。
彼は白衣のポケットに手を入れ、優しげな笑みを浮かべている。
『我が社は「自律したプロフェッショナル」を求めています。時間内に終わらないのは、皆さんの自己研鑽が足りないからでは?
……まあ、その「隠れた努力」、私は嫌いじゃありませんよ。美しい自己犠牲だ』
「白河……! あなたが追い詰めているんでしょう!」
美玲が睨みつける。
「心外ですね。私はただ、文化を作っているだけです。……さあ、彼らの努力の結晶、見せてあげなさい」
白河が指を鳴らすと、社員たちのPCから黒いデータが噴き出した。
それは実体を持たない影となり、一つに融合していく。
残業時間のログに残らない、存在しないはずの労働――**怪人「シャドー・ワーカー」**が誕生した。
『私ハ……イナイ……。仕事ナド……シテイナイ……』
怪人は半透明の体で、周囲の風景に溶け込んでいく。
「消えた!?」
由奈が叫ぶ。
「気配はあるわ! でも、視認できない!」
アズサが周囲を警戒する。
ドカッ!
見えない攻撃が由奈を襲う。
「きゃあっ! な、何ですかこれ! 重い書類の束で殴られたみたいな感触!」
「見えない『タスク』を投げてきているのね……!」
アズサがブレードを振るうが、空を切るだけだ。
『記録ニナイ……証拠モナイ……ダカラ、攻撃モ当タラナイ……』
怪人の不気味な声が響く。
「厄介ですね。労務管理に残らないから、対処しようがない……!」
美玲は、ロッドを構えながら思考を巡らせた。
この怪人の正体は「隠蔽された業務」。
ならば、やるべきことは一つ。
「……アズサさん、由奈ちゃん。照明を確保してください。影を消します!」
「えっ?」
「仕事は、隠れてコソコソやるものじゃありません。……日の目の当たる場所に引きずり出します!」
美玲はロッドのダイアルを回した。
「アジャイル・コア、リンク! 隠されたプロセスを全て可視化します!
『業務実態・スキャン』!!」
ロッドから強烈なフラッシュのような光が放たれた。
店内が昼間のように明るく照らし出される。
『グアアアア! 眩シイィィ! 見ルナァァァ!』
光の中、怪人の姿がくっきりと浮かび上がった。
その体には、無数の「未処理案件」「納期遅延」「仕様変更」というタグが張り付いている。
「見えました! それがあなたの正体ですね!」
美玲が叫ぶ。
「仕事があるなら、堂々と申告しなさい! 隠すことは美徳じゃありません!」
「ターゲット確認! 今よ、由奈!」
「はいっ! コネクト・ロックオン!」
由奈がタブレットで怪人を捕捉し、動きを止める。
「アズサさん、お願いします!」
「ええ。リソース不足なら、強制的に精算してあげる!」
アズサが青い光を纏って跳躍する。
「残業代、耳を揃えて払ってもらうわよ! 『オーバーワーク・ブレイク』!!」
一閃。
怪人は真っ二つに切り裂かれ、大量のタイムカードとなって散らばった。
『定時……退社ァァァ……』
怪人は消滅し、店内の重苦しい空気も霧散した。
***
「……ふぅ。片付きましたね」
変身を解いた美玲は、呆然とする佐伯課長たちに向き直った。
「課長。明日の朝、この『業務ログ』を全部人事部に提出します」
美玲は、ロッドでスキャンしたデータをスマホに転送して見せた。
「で、でも、そんなことをしたら評価が……」
「下がりません。……いえ、下げさせません」
美玲の瞳には、強い光が宿っていた。
「適正な評価は、適正な申告から始まります。私たちが守りますから、堂々と『終わらない』と言ってください」
その毅然とした態度に、社員たちは涙ぐみながら頷いた。
「……ありがとう、神崎さん」
一方、モニター越しの白河は、興味深そうに目を細めていた。
『ほう。見えない努力を暴きましたか。……やはり君は面白い。
だが、次はどうかな? 組織の「膿」は、もっと深い場所に溜まっているものですよ』
モニターがプツリと消える。
店を出た三人は、夜空を見上げた。
「……隠れ残業、これで少しは減るといいんですけど」
由奈が呟く。
「根本的な業務量が変わらない限り、また起きるわ。……経営陣(あの二人)をどうにかしないとね」
アズサが眼鏡の位置を直す。
「ええ。私たちの『働き方改革』は、まだまだ道半ばですね」
美玲は、鞄を持ち直して歩き出した。
明日もまた、戦いが待っている。
次回、魔法少女ミラクルミレイDX!
「第29話:恐怖のハラスメント講習! 言葉狩りの罠」
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