表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/38

第27話:嵐の後の静けさ? 忍び寄る「ホワイト化」の罠

株主総会での逆転劇から一ヶ月。

オプティクスワークスは、嵐が嘘だったかのような平穏を取り戻していた。

営業部の解体は撤回され、神崎美玲かんざき・みれいたちの提案した「人とAIの協調モデル」が試験的に導入されることになったのだ。


「おはようございます、神崎さん!」

「おはよう、今日もいい天気ね!」

出社する社員たちの顔には笑顔が溢れている。

リストラの恐怖に怯えていた日々が嘘のそうだ。


「……平和ですねぇ」

デスクでコーヒーを啜りながら、三浦由奈みうら・ゆながほうっと息をつく。

「ええ。これもしっかり戦った成果ですね」

美玲も微笑みながらメールチェックを始める。


だが、堀口梓ほりぐち・あずさだけは、眉間に皺を寄せてモニターを睨んでいた。

「……変よ」

「え? 何がですか、アズサさん」

「平和すぎるのよ。灰谷専務があのまま黙って引き下がるとは思えない。それに……」

アズサは周囲を見回し、声を潜めた。

「最近、社内の空気が『良すぎる』と思わない?」


「えー? 良いことじゃないですか」

「いいえ。……『不自然』なのよ」


***


その違和感の正体は、昼礼で明らかになった。

「皆さん、注目してください」

人事部長が、満面の笑みで一台の奇妙なカメラを掲げた。


「今日から、全フロアにこの『ハピネス・キーパー』を導入します!

これは皆さんの表情や声のトーンをAIが解析し、ストレス度を測る最新鋭のDXツールです。

我が社はこれより、**『完全ストレスフリー宣言』**を行います!」


ざわめく社員たち。

「ストレスフリー?」

「そう! 職場でのネガティブな発言、暗い表情、そして怒号……これらは全て『マイナス評価』となります!

常に笑顔で、ポジティブな言葉だけを使いましょう。

ハピネス・スコアが高い社員には、特別ボーナスも支給されますよ!」


人事部長の言葉に、社員たちは顔を見合わせ、そして一斉に作り笑顔を浮かべた。

「す、素晴らしいですね!」

「最高です! さあ、笑顔で頑張りましょう!」


美玲は背筋に冷たいものを感じた。

(無理やり笑うことが……ストレスフリー?)


***


それからの毎日は、奇妙な息苦しさに包まれていた。

「あー、この資料間違ってる……くそっ……あ、いけない!」

社員が舌打ちをした瞬間、天井のカメラが赤く光る。

『警告。ネガティブ・ワードを検知。ハピネス・スコア減点』

「す、すみません! 最高です! 間違いを見つけられてラッキーです!」

社員は慌てて引きつった笑顔を作る。


会議でも、反論や指摘は「ネガティブ」とみなされ、誰もが当たり障りのない賛同しかしなくなった。

「この企画、リスクが高いのでは?」とは言えず、「チャレンジングで素敵ですね!」としか言えない。


「……気持ち悪いわ」

給湯室(ここにもカメラがあるため小声)で、アズサが毒づく。

「ロジカルな批判も封じられたら、PDCAなんて回せないわよ。これは『心理的安全性』の履き違えだわ」

「私、もう顔の筋肉がピクピクしてますぅ……」

由奈が頬をマッサージする。


「……このシステムの裏に、何かがあるはずです」

美玲が険しい顔をした、その時だった。


『キャハハハハ! 笑え! もっと笑えぇぇ!』


フロアから悲鳴ではなく、狂ったような笑い声が聞こえてきた。

駆けつけると、無理やり笑顔を作っていた社員たちの顔に、**巨大な「笑顔の仮面」**が張り付いていた。

彼らは涙を流しながら、体は勝手に踊り、口だけは笑い続けている。


「な、何あれ!?」

フロアの中央に、風船のような体をしたピエロ型の怪人が浮いていた。

怪人「ポジティブ・クラウン」。

『悲しみ? 怒り? そんなもの捨てちゃえ! 笑顔だけが正義だヨォォ!』


「みんなの心を無理やり操作するなんて……!」

美玲たちが変身する。

「やめなさい! 感情は、誰かに強制されるものじゃありません!」


「おやおや、空気が読めないネガティブな子猫ちゃんたちだ!」

怪人が風船爆弾を投げてくる。

「防御します! ……きゃっ!」

由奈がシールドで防ぐが、爆弾が弾けると中から「キラキラした粉」が舞い散った。

それを吸い込んだ由奈の表情が、一瞬で緩む。


「あはは……なんか、どうでもよくなってきたかもぉ……。戦うのとか、ダサくないですかぁ?」

「由奈ちゃん!?」

「マズい、思考力を奪う神経ガスよ! シールド解除!」

アズサが叫ぶが、怪人の動きは不規則で捉えきれない。


『ハッピー! ラッキー! 悩みなんて忘れちゃえ!』

怪人の攻撃は、物理的な痛みはないが、戦う意欲(闘争心)を削ぎ落としていく。

「くっ……! 力が入らない……!」

美玲も膝をつく。

(怒っちゃダメ……? 戦っちゃダメ……? でも、そんなの……!)


「……違う」

美玲は、ロッドを握りしめた。

「悲しい時は泣いていい! 腹が立ったら怒っていい!

それが人間でしょう!!」


美玲の心の叫びが、強制されたポジティブの霧を吹き飛ばした。

「アズサさん! 怒りの感情を、攻撃力に変換して!」

「……ええ。得意分野よ!」

アズサの目が据わる。

「このふざけた道化師……! ロジカルに、かつ感情的に……ぶっ飛ばす!」


「由奈ちゃん、目を覚まして!」

「ハッ! ……私、何をヘラヘラと……! 許せません!」


三人の「怒り」が一点に集中する。

「ネガティブだって、大切なエネルギーです! 『エモーショナル・アンガー・バースト』!!」


赤く燃え上がる光線が怪人を直撃した。

『ギャアアア! 怒ラナイデェェ! 笑顔ガ一番ナノニィィ!!』

怪人は爆発し、社員たちの顔から仮面が剥がれ落ちた。


「はぁ……はぁ……」

騒ぎが収まると、社員たちは一様に疲れた顔で座り込んだ。

「……疲れた」「もう笑いたくない……」

それが、彼らの本音だった。


その様子を、オフィスの監視カメラ越しに見つめる男がいた。

灰谷ではない。

白衣を着た、糸目の優男だ。

彼は手元のタブレットで「ハピネス・スコア」の変動を記録しながら、薄く笑った。


「ふむ。強制的なポジティブでは、質の高いエネルギーは回収できないか。

……やはり、『自発的』に依存させないとね」


彼は胸元の名札――**「CCOチーフ・カルチャー・オフィサー 白河しらかわ」**と書かれたプレートを指で弾いた。


***


「……新しい敵の気配がします」

変身を解いた美玲は、不気味に光る「ハピネス・キーパー」のカメラを見上げた。

物理的な攻撃よりも、もっと厄介な「心の支配」が始まろうとしている。


グローバルな戦いではなく、もっと身近で、もっと逃げ場のない「職場環境」との戦い。

オプティクスワークスの「ホワイト化」の裏に潜む闇が、静かに口を開けていた。


次回、魔法少女ミラクルミレイDX!

「第28話:残業禁止のパラドックス! 隠れ残業を暴け」

社会の理不尽、私がきっちり最適化します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ