表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/38

第26話:逆転のプレゼンテーション!未来を拓くDX

オプティクスワークス、本社大会議ホール。

数百名の株主たちが詰めかけ、異様な熱気に包まれていた。

演壇に立つ灰谷はいたには、完璧な資料と冷徹な語り口で、会場を支配していた。


「……以上の通り、営業部の解体およびAIへの完全移行こそが、当社の利益を最大化する唯一のソリューションです」


スクリーンに映し出される右肩上がりの収益予測グラフ。

「人件費削減」という甘美な響きに、株主たちが大きく頷く。

「異議なし」「承認だ」「さっさと採決しろ」

会場は灰谷のシナリオ通り、圧倒的賛成多数で可決される流れだった。


「では、第3号議案『営業部門の廃止』について、採決に――」


「異議あり!!」


重厚な扉が轟音と共に開かれた。

静まり返る会場。

逆光の中、三つの影が堂々と入場してくる。

神崎美玲かんざき・みれい堀口梓ほりぐち・あずさ三浦由奈みうら・ゆな

正規の手続きを経ていない、乱入者たちだ。


「……神崎美玲か。往生際が悪いな」

灰谷は眉一つ動かさず、冷ややかに見下ろす。

「ここは株主総会だ。議決権を持たない従業員に、発言権などない」


「いいえ、あります!」

美玲は一歩も引かず、マイク無しで声を張り上げた。

「私たちは、この会社の未来を作る『ステークホルダー(利害関係者)』です! 現場の声を聞かない経営判断に、未来はありません!」


「現場の声? ……雑音ノイズだ」

灰谷が指を鳴らすと、会場の空気が歪んだ。

株主たちの「配当をよこせ」「コストを削れ」という欲望が黒い霧となって集まり、巨大な怪物が実体化する。

無数の委任状プロキシと金貨で構成された、**怪人「サイレント・マジョリティ(沈黙の多数派)」**だ。


『利益ィィ! 配当ォォ! 従業員ハ、黙ッテ働ケェェ!!』


「排除しろ。……これは『株主の総意』だ」

怪人が巨大な金槌を振り下ろす。

「変身!」

三人は光に包まれ、スーツ姿から魔法少女へと転身した。


「株主の総意……それがどうしたって言うのよ!」

アズサがブレードで金槌を受け止めるが、その重量は桁違いだ。

「くっ……! 重い……! これが、『資本の論理』……!」

「アズサさん、無理しないで!」

由奈がシールドを展開するが、怪人の放つ「議決権ビーム」に圧され、ヒビが入っていく。


『否決! 否決! 否決ゥゥ!!』

怪人の圧倒的なパワーの前に、三人は防戦一方となる。

会場の株主たちは、怪人の暴走を見てもなお、「そうだ、無駄な抵抗はやめろ!」と煽り立てる。


「……見ろ。これが現実だ」

灰谷が嘲笑う。

「どれだけ綺麗事を並べても、資本主義の前では無力。君たちの『人間力』とやらで、この数字の壁を越えられるかね?」


美玲は、膝をつきながらも、灰谷を――そして、会場の株主たちを睨みつけた。

(数字の壁……。ええ、越えてみせます!)


「由奈ちゃん! アズサさん! プレゼンの準備はいいですか!?」

「えっ!? こんな状況で!?」

「当たり前よ。……相手を納得させるのが、私たちの仕事でしょう?」

アズサがニヤリと笑う。


「行きます! アジャイル・コア、リンク接続!」

美玲がロッドを掲げる。

「攻撃じゃありません! 私たちの『対案カウンター・プロポーザル』を、彼らの脳内に直接叩き込みます!」


「了解! データ転送開始!」

由奈がタブレットを操作すると、会場のスクリーンがジャックされ、全く別の映像が映し出された。


『ありがとう、助かったよ』

『君のおかげで、仕事が楽しくなった』


それは、営業部の社員たちが顧客と交わした、数え切れないほどの「感謝の言葉」のログだった。

AIには処理できない、細やかな気遣い。

トラブル時の泥臭い対応。

その一つ一つが、顧客の信頼を勝ち取り、次の契約へと繋がっていく過程が、可視化されていく。


「な、なんだこれは……」

株主たちがざわめき始める。


「アズサさん、ロジックの展開を!」

「任せて!」

アズサが空中に光のグラフを描く。

「短期的なコスト削減は、長期的には顧客満足度(CS)の低下を招き、結果としてブランド価値を毀損します!

対して、人とAIが協調する『ハイブリッドDX』モデルでは……5年後の収益率は、現在のアナログ営業の300%増!」


完璧なシミュレーション。

「人件費はコスト」という灰谷の前提を、「人は投資対象」というロジックで覆したのだ。


「……ほう。数字で反論するか」

灰谷の表情が曇る。


「そして、これが私たちのビジョンです!」

美玲がロッドを振りかざす。

「人は、ツールを使うことで、もっと優しくなれる。もっと創造的になれる!

それが、オプティクスワークスの目指す『DX』です!」


美玲の想いが、会場全体を包み込むピンク色の光となる。

「届け! 私たちの未来予想図! 『ビジョナリー・プレゼンテーション・ストリーム』!!」


光の奔流が怪人を飲み込む。

『利益……ダケジャ……ナカッタノカァァ……!』

怪人の体を構成していた委任状が、一枚また一枚と、「承認」の印が押された投票用紙へと変わっていく。


会場の株主たちが、呆然とスクリーンを見つめていた。

そこには、数字だけではない、生き生きと働く社員たちの姿と、それが生み出す確かな利益が映し出されていたからだ。

「……悪くないじゃないか」

「AIだけじゃ、この熱量は出せんよな」

「人こそが、資産か……」


パラパラと、拍手が起こる。

それは次第に大きくなり、やがて会場全体を包む万雷の拍手へと変わった。


『可決……サレマシタァァ……!』

怪人は満足げに微笑み、光の粒子となって消滅した。

同時に、灰谷の背後にあった「解体案」のグラフが崩れ去る。


「……馬鹿な」

灰谷は、拍手の渦の中で立ち尽くしていた。

「論理的ではない……。なぜ、不確定要素(人間)の方を選ぶ……」


「それが『経営』だからです、灰谷専務」

変身を解いた美玲が、静かに告げる。

「人は計算通りには動きません。でも、だからこそ、計算を超えた結果を出せるんです」


灰谷は、忌々しげに舌打ちをした。

「……今回の議案は、取り下げる」

彼はマイクを投げ捨てるように置き、舞台袖へと歩き出した。

「だが、勝ったと思うなよ。私は数字を信じる。……次こそは、貴様らのその『熱意』ごと、計算式に組み込んでやる」


去り際、灰谷は黒井に目配せをした。

二人の姿は、いつの間にか影の中に消えていた。


***


「……勝った……?」

由奈がへなへなと座り込む。

「ええ。私たちの提案が、通ったのよ」

アズサが、眼鏡の奥で涙を拭うのを誤魔化すように、ふいと横を向いた。


「皆さん、お疲れ様でした!」

美玲が満面の笑みで振り返ると、会場の社員たちが一斉に駆け寄ってきた。

「神崎さん! ありがとう!」

「俺たち、クビにならなくて済んだんだ!」

歓喜の輪が広がる。


その夜。

いつもの居酒屋で、美玲、アズサ、由奈の三人は祝杯を挙げていた。

「営業部存続に、乾杯!」

「「乾杯!!」」


「ぷはーっ! 仕事の後のビールは最高ですね!」

美玲がジョッキを置く。

「全く……。明日は定時で帰るわよ。有給も消化するから」

アズサが枝豆をつまみながら文句を言うが、その顔は穏やかだ。

「はいっ! 私、明日からもっと頑張ります!」

由奈が目を輝かせる。


窓の外、夜空には満月が輝いている。

灰谷との決着はついたわけではない。

ストレス・マキシマイズ社の脅威は、まだ去っていない。

さらなる上位存在――社長や会長の影もちらつく。


けれど、今の彼女たちには、最強のチームワークと、自分たちで勝ち取った「居場所」がある。


「さあ、明日も仕事ですね。……私たちのDXは、まだまだこれからです!」

美玲の言葉に、二人が力強く頷く。


働く全ての大人たちへ。

明日が、今日より少しだけ、良い日でありますように。


次回、魔法少女ミラクルミレイDX!

「第27話:嵐の後の静けさ? 忍び寄る「ホワイト化」の罠」

社会の理不尽、私がきっちり最適化します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ