第26話:逆転のプレゼンテーション!未来を拓くDX
オプティクスワークス、本社大会議ホール。
数百名の株主たちが詰めかけ、異様な熱気に包まれていた。
演壇に立つ灰谷は、完璧な資料と冷徹な語り口で、会場を支配していた。
「……以上の通り、営業部の解体およびAIへの完全移行こそが、当社の利益を最大化する唯一の解です」
スクリーンに映し出される右肩上がりの収益予測グラフ。
「人件費削減」という甘美な響きに、株主たちが大きく頷く。
「異議なし」「承認だ」「さっさと採決しろ」
会場は灰谷のシナリオ通り、圧倒的賛成多数で可決される流れだった。
「では、第3号議案『営業部門の廃止』について、採決に――」
「異議あり!!」
重厚な扉が轟音と共に開かれた。
静まり返る会場。
逆光の中、三つの影が堂々と入場してくる。
神崎美玲、堀口梓、三浦由奈。
正規の手続きを経ていない、乱入者たちだ。
「……神崎美玲か。往生際が悪いな」
灰谷は眉一つ動かさず、冷ややかに見下ろす。
「ここは株主総会だ。議決権を持たない従業員に、発言権などない」
「いいえ、あります!」
美玲は一歩も引かず、マイク無しで声を張り上げた。
「私たちは、この会社の未来を作る『ステークホルダー(利害関係者)』です! 現場の声を聞かない経営判断に、未来はありません!」
「現場の声? ……雑音だ」
灰谷が指を鳴らすと、会場の空気が歪んだ。
株主たちの「配当をよこせ」「コストを削れ」という欲望が黒い霧となって集まり、巨大な怪物が実体化する。
無数の委任状と金貨で構成された、**怪人「サイレント・マジョリティ(沈黙の多数派)」**だ。
『利益ィィ! 配当ォォ! 従業員ハ、黙ッテ働ケェェ!!』
「排除しろ。……これは『株主の総意』だ」
怪人が巨大な金槌を振り下ろす。
「変身!」
三人は光に包まれ、スーツ姿から魔法少女へと転身した。
「株主の総意……それがどうしたって言うのよ!」
アズサがブレードで金槌を受け止めるが、その重量は桁違いだ。
「くっ……! 重い……! これが、『資本の論理』……!」
「アズサさん、無理しないで!」
由奈がシールドを展開するが、怪人の放つ「議決権ビーム」に圧され、ヒビが入っていく。
『否決! 否決! 否決ゥゥ!!』
怪人の圧倒的なパワーの前に、三人は防戦一方となる。
会場の株主たちは、怪人の暴走を見てもなお、「そうだ、無駄な抵抗はやめろ!」と煽り立てる。
「……見ろ。これが現実だ」
灰谷が嘲笑う。
「どれだけ綺麗事を並べても、資本主義の前では無力。君たちの『人間力』とやらで、この数字の壁を越えられるかね?」
美玲は、膝をつきながらも、灰谷を――そして、会場の株主たちを睨みつけた。
(数字の壁……。ええ、越えてみせます!)
「由奈ちゃん! アズサさん! プレゼンの準備はいいですか!?」
「えっ!? こんな状況で!?」
「当たり前よ。……相手を納得させるのが、私たちの仕事でしょう?」
アズサがニヤリと笑う。
「行きます! アジャイル・コア、リンク接続!」
美玲がロッドを掲げる。
「攻撃じゃありません! 私たちの『対案』を、彼らの脳内に直接叩き込みます!」
「了解! データ転送開始!」
由奈がタブレットを操作すると、会場のスクリーンがジャックされ、全く別の映像が映し出された。
『ありがとう、助かったよ』
『君のおかげで、仕事が楽しくなった』
それは、営業部の社員たちが顧客と交わした、数え切れないほどの「感謝の言葉」のログだった。
AIには処理できない、細やかな気遣い。
トラブル時の泥臭い対応。
その一つ一つが、顧客の信頼を勝ち取り、次の契約へと繋がっていく過程が、可視化されていく。
「な、なんだこれは……」
株主たちがざわめき始める。
「アズサさん、ロジックの展開を!」
「任せて!」
アズサが空中に光のグラフを描く。
「短期的なコスト削減は、長期的には顧客満足度(CS)の低下を招き、結果としてブランド価値を毀損します!
対して、人とAIが協調する『ハイブリッドDX』モデルでは……5年後の収益率は、現在のアナログ営業の300%増!」
完璧なシミュレーション。
「人件費はコスト」という灰谷の前提を、「人は投資対象」というロジックで覆したのだ。
「……ほう。数字で反論するか」
灰谷の表情が曇る。
「そして、これが私たちのビジョンです!」
美玲がロッドを振りかざす。
「人は、ツールを使うことで、もっと優しくなれる。もっと創造的になれる!
それが、オプティクスワークスの目指す『DX』です!」
美玲の想いが、会場全体を包み込むピンク色の光となる。
「届け! 私たちの未来予想図! 『ビジョナリー・プレゼンテーション・ストリーム』!!」
光の奔流が怪人を飲み込む。
『利益……ダケジャ……ナカッタノカァァ……!』
怪人の体を構成していた委任状が、一枚また一枚と、「承認」の印が押された投票用紙へと変わっていく。
会場の株主たちが、呆然とスクリーンを見つめていた。
そこには、数字だけではない、生き生きと働く社員たちの姿と、それが生み出す確かな利益が映し出されていたからだ。
「……悪くないじゃないか」
「AIだけじゃ、この熱量は出せんよな」
「人こそが、資産か……」
パラパラと、拍手が起こる。
それは次第に大きくなり、やがて会場全体を包む万雷の拍手へと変わった。
『可決……サレマシタァァ……!』
怪人は満足げに微笑み、光の粒子となって消滅した。
同時に、灰谷の背後にあった「解体案」のグラフが崩れ去る。
「……馬鹿な」
灰谷は、拍手の渦の中で立ち尽くしていた。
「論理的ではない……。なぜ、不確定要素(人間)の方を選ぶ……」
「それが『経営』だからです、灰谷専務」
変身を解いた美玲が、静かに告げる。
「人は計算通りには動きません。でも、だからこそ、計算を超えた結果を出せるんです」
灰谷は、忌々しげに舌打ちをした。
「……今回の議案は、取り下げる」
彼はマイクを投げ捨てるように置き、舞台袖へと歩き出した。
「だが、勝ったと思うなよ。私は数字を信じる。……次こそは、貴様らのその『熱意』ごと、計算式に組み込んでやる」
去り際、灰谷は黒井に目配せをした。
二人の姿は、いつの間にか影の中に消えていた。
***
「……勝った……?」
由奈がへなへなと座り込む。
「ええ。私たちの提案が、通ったのよ」
アズサが、眼鏡の奥で涙を拭うのを誤魔化すように、ふいと横を向いた。
「皆さん、お疲れ様でした!」
美玲が満面の笑みで振り返ると、会場の社員たちが一斉に駆け寄ってきた。
「神崎さん! ありがとう!」
「俺たち、クビにならなくて済んだんだ!」
歓喜の輪が広がる。
その夜。
いつもの居酒屋で、美玲、アズサ、由奈の三人は祝杯を挙げていた。
「営業部存続に、乾杯!」
「「乾杯!!」」
「ぷはーっ! 仕事の後のビールは最高ですね!」
美玲がジョッキを置く。
「全く……。明日は定時で帰るわよ。有給も消化するから」
アズサが枝豆をつまみながら文句を言うが、その顔は穏やかだ。
「はいっ! 私、明日からもっと頑張ります!」
由奈が目を輝かせる。
窓の外、夜空には満月が輝いている。
灰谷との決着はついたわけではない。
ストレス・マキシマイズ社の脅威は、まだ去っていない。
さらなる上位存在――社長や会長の影もちらつく。
けれど、今の彼女たちには、最強のチームワークと、自分たちで勝ち取った「居場所」がある。
「さあ、明日も仕事ですね。……私たちのDXは、まだまだこれからです!」
美玲の言葉に、二人が力強く頷く。
働く全ての大人たちへ。
明日が、今日より少しだけ、良い日でありますように。
次回、魔法少女ミラクルミレイDX!
「第27話:嵐の後の静けさ? 忍び寄る「ホワイト化」の罠」
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