第25話:絶体絶命!営業部、解散の危機
週明けの月曜日。オプティクスワークスの大会議室には、重苦しい沈黙が張り詰めていた。
緊急招集された全社員の前で、スクリーンに映し出されたのは、あまりにも無慈悲な決定事項だった。
『経営合理化に伴う、営業部の解体および全社員の整理解雇について』
「……嘘だろ?」
「俺たち、全員クビ……ってことか?」
ざわめきが波紋のように広がる。
その中心で、神崎美玲は、信じられない思いでスクリーンを見つめていた。
「静粛に」
壇上に立ったのは、社長……ではなく、外部顧問として紹介された灰谷だった。
彼は薄い笑みを浮かべ、マイクを握る。
「今回の決定は、極めて論理的かつ前向きな『進化』です。……皮肉なことに、その土台を作ったのは、そこにいる神崎美玲さん。あなたですよ」
「……私が?」
美玲が声を震わせる。
「ええ。あなたが推進したDXのおかげで、我が社の業務フローは劇的に効率化されました。
顧客データはクラウドで管理され、AIが最適な提案を行い、チャットボットが問い合わせに対応する。
……さて、ここに『人間』の営業担当は必要でしょうか? いえ、不要です」
灰谷は両手を広げた。
「人件費という最大のコストを削減し、全てをデジタルに置き換える。これこそが、あなたが目指した『DXの完成形』ではありませんか?」
「違います!」
美玲が席を立ち、叫んだ。
「私が目指したのは、人が『もっと人間らしく』働くためのDXです! ツールは人を助けるためのものであって、人を追い出すためのものじゃありません!」
「感情論ですね。……数字は嘘をつきませんよ」
灰谷が指を鳴らすと、会議室の壁が歪み、巨大な重機のような怪人が出現した。
全身がシュレッダーと鉄球で構成された、**怪人「部門解体」**だ。
『解体、解体、解体ィィ! 不要ナ部署ハ、更地ニスルゥゥ!』
「さあ、始めようか。まずは物理的に、営業部のオフィスを『更地』にするとしよう」
「させません!」
美玲、梓、由奈の三人は、社員たちの前に飛び出し、変身した。
「みんな、逃げて! ここは私たちが食い止めます!」
「無駄な抵抗を……。行け」
灰谷の命令で、怪人が鉄球を振り回す。
「シールド展開! ……きゃああっ!」
由奈のシールドが、一撃で粉砕される。
「由奈!」
「くっ……物理的な破壊力が桁違いよ!」
アズサがブレードで応戦するが、怪人の装甲は分厚く、刃が通らない。
『営業部ハ赤字! 削減対象! 排除ォォ!』
怪人のシュレッダーアームが、美玲に迫る。
美玲はロッドで受け止めるが、その圧倒的なパワーに膝が震える。
(重い……。これが、『経営判断』という名の暴力……!)
「どうしたのです、神崎さん。あなたの愛するDXが、あなたを殺そうとしていますよ」
灰谷が冷ややかに嘲笑う。
「悔しいですか? 自分のやってきたことが、仲間を不幸にしたと認めるのが」
「……っ!」
美玲の心に、迷いが生じる。
(私がやってきたことは……間違いだったの? 私が頑張れば頑張るほど、みんなの居場所を奪っていたの……?)
ロッドの光が明滅し、力が抜ける。
「先輩! しっかりしてください!」
由奈の叫びも、遠くに聞こえる。
その時だった。
ガギィィン!!
アズサが、美玲と怪人の間に割って入り、ブレードで攻撃を弾き返した。
「……勘違いしないで、灰谷」
アズサは、乱れた呼吸を整えながら、眼鏡の奥から鋭い眼光を放った。
「彼女のDXは、決して『人間不要論』なんかじゃないわ」
「ほう? 元・効率至上主義者の君が言うのかね?」
「ええ、言うわ。……私は見たもの。
彼女が導入したツールのおかげで、空いた時間に顧客と楽しそうに雑談する社員たちを。
その『無駄』に見える雑談から、新しいアイデアや信頼が生まれる瞬間を」
アズサは、美玲の方を振り向かずに続けた。
「AIには『共感』はできない。チャットボットには『熱意』は伝えられない。
最後に契約を決めるのは……人と人との信頼関係よ。
それが分からないあなたの計算式は、バグだらけの欠陥プログラムだわ!」
「アズサさん……」
美玲の目に、涙が滲む。
かつて「感情は不要」と言い切ったアズサが、今、誰よりも「人の価値」を信じてくれている。
「……そうですね。私が迷ってどうするんですか」
美玲は涙を拭い、再び立ち上がった。
「私は、間違ってない。私のDXは、みんなを幸せにするためのものです!」
美玲のロッドが、かつてない強さで輝き始めた。
「アジャイル・コア、フルドライブ! 私たちの『価値』を証明します!」
「生意気な……。消えろ!」
灰谷が叫ぶ。怪人が最大の攻撃を放つ。
「三人連携! ターゲット、敵の『論理的支柱』!」
由奈がパスを繋ぐ。
「構造解析、完了! 弱点は『想定外の人間力』!」
アズサが切り込む。
「届け! 私たちの想い! 『ヒューマン・タッチ・ブレイカー』!!」
三人の光が一つになり、怪人の鉄球を真っ向から粉砕した。
『グオオォ……! 計算……デキナィィ……!』
怪人は爆散し、会議室に静寂が戻った。
「……チッ。現場の抵抗か」
灰谷は、少しも動じることなくネクタイを直した。
「物理的な排除は失敗したようだが……決定事項は変わらんよ。
営業部の解体は、明日の臨時株主総会で正式に承認される。
そうなれば、君たちは法的に『終わり』だ」
灰谷は背を向け、冷たく言い放った。
「精々、最後の夜を楽しむといい」
姿を消した灰谷。
残されたのは、半壊した会議室と、解雇の恐怖に震える社員たちだけだった。
怪人は倒した。けれど、組織の決定という「現実」は、何一つ変わっていない。
「……どうすれば……」
絶望的な空気が流れる中、美玲は顔を上げた。
その瞳には、もう迷いはなかった。
「……乗り込みましょう」
「え?」
アズサと由奈が振り返る。
「明日の株主総会。そこで、私たちが直接、株主たちに訴えるんです。
営業部が……『人』が必要だってことを!」
それは、平社員が経営陣に挑む、無謀すぎる賭け。
だが、もうそれしか道はない。
「……フッ。クレイジーな提案ね」
アズサが苦笑する。
「でも、一番勝率が高いわ。……付き合うわよ、美玲」
「私もです! 最後までお供します!」
オプティクスワークスの魔法少女たち。
次なる戦いの舞台は、戦場ではなく――「株主総会」。
会社という巨大な生き物との、最終決戦の幕が上がろうとしていた。
次回、魔法少女ミラクルミレイDX!
「第26話:逆転のプレゼンテーション!未来を拓くDX」
社会の理不尽、私がきっちり最適化します!




