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第24話:社内政治の闇? 囁く黒い噂

「……ねえ、聞いた? 営業一課の神崎さん、実は裏で取引先と癒着してるらしいよ」

「えー、嘘でしょ? あの真面目そうな人が?」

「いや、本当だって。接待費の使い込みもしてるって噂だよ」


給湯室、エレベーター、喫煙所。

オプティクスワークスの社内の至る所で、ヒソヒソとした囁き声が反響していた。

それは根も葉もない噂話。しかし、その「毒」は確実に、社員たちの信頼関係を蝕んでいた。


「……ひどい。誰がこんなデタラメを」

神崎美玲かんざき・みれいは、女子トイレの個室で深いため息をついた。

ここ数日、自分だけでなく、堀口梓ほりぐち・あずさ三浦由奈みうら・ゆなに関する悪質な噂も飛び交っている。

アズサは「前の会社でパワハラをして追い出された」、由奈は「コネ入社で仕事ができない」……。

どれも、彼女たちが最も気にしている部分を巧みに突いた内容だった。


(これは、ただの嫌がらせじゃないわ。もっと組織的な……悪意を感じる)


***


「……生産性が低下しているわ」

デスクに戻ったアズサが、苛立ちを隠さずにキーボードを叩く。

「周囲の視線が気になって、業務に集中できない社員が増えている。……私の周りでも、『アイツに関わると飛ばされる』なんて言われて、誰も近寄らなくなったわ」


「私もですぅ……」

由奈が涙目で小さくなっている。

「先輩たちとランチ行こうとしたら、同期の子に止められたんです。『派閥争いに巻き込まれるよ』って……。私たち、仲良しなだけなのに」


「……分断工作ディバイド・アンド・ルールですね」

美玲は静かに呟いた。

「灰谷専務の仕業でしょう。物理的な破壊がダメなら、今度は組織の内側から私たちを孤立させる気だわ」


その時、フロアの入口がざわついた。

「おい、聞いたか? 今度のシステムトラブル、全部システム部のせいにするために、営業部が裏工作したらしいぞ!」

「はぁ!? ふざけんな! そっちが仕様変更を強要したんだろ!」


些細な噂が火種となり、営業部と開発部の間で怒号が飛び交い始める。

普段なら笑って済ませるようなミスでも、今の彼らは互いを許せない。

疑心暗鬼の霧が、オフィス全体を覆い尽くそうとしていた。


「……来ます!」

美玲が立ち上がる。

オフィスの天井付近に溜まったどす黒い空気が凝縮し、形を成していく。

それは特定の「誰か」ではない。社員たちの影が融合し、無数の耳と口を持つ不定形の怪物――**怪人「シャドー・ゴシップ」**へと変貌した。


『聞イタ? 聞イタ? アイツハ裏切リ者……信ジルナ……疑エ……』

怪人が囁くたびに、社員たちの目から理性の光が消え、互いに掴みかかり始める。


「やめなさい!」

三人は変身し、怪人の前に立ちはだかる。

「みんなを惑わせるのはやめて! その噂は全部嘘よ!」

ミレイが叫ぶが、怪人は不気味に笑った。


『嘘カトウカハ問題ジャナイ……。人ハ、面白イ話ガ好キナノサァ……!』

怪人の体から無数の「吹き出し」のような黒い刃が放たれる。

「由奈ちゃん、防いで!」

「はいっ! ……きゃあ!?」


由奈のシールドが、刃に触れた瞬間、すり抜けてしまった。

「物理攻撃じゃない!? 心に直接……!」

刃が三人を直撃する。

痛みはない。だが、脳内にどす黒い感情が流れ込んでくる。


(神崎先輩、本当は私のこと足手まといだと思ってるんじゃ……)

(アズサ、また私を見下して……)

(由奈、実は裏で私の悪口を……)


「くっ……! 惑わされないで!」

ミレイが頭を振る。

「これは敵の精神攻撃マインド・ハックよ! お互いを信じて!」


「……分かっているわ。でも、ノイズがうるさい!」

アズサがブレードを振るうが、実体のない怪人を切り裂くことはできない。

『疑エ……憎メ……孤立シロ……』


オフィスの混乱は極限に達していた。

このままでは、怪人を倒す前に、会社そのものが空中分解してしまう。


「……みんな、聞いて!」

ミレイは決意を込め、承認印スタンパー・ロッドを高く掲げた。

「噂なんて、確認すれば消えるの! 事実ファクトは一つしかないんだから!」


ミレイはロッドのダイアルを回す。

「アジャイル・コア、リンク! 全員に『真実』を共有します!」

「先輩、それって……!」

「ええ、私の魔力を全部使って、事実確認ファクト・チェックの光を降らせるわ!」


「届け! 根拠なき噂に終止符を! 『オフィシャル・アナウンス・シャワー』!!」


ミレイのロッドから、清廉な光の粒子がシャワーのように降り注ぐ。

それは攻撃ではない。

「誰が何を言ったか」ではなく、「誰が何をしたか」という客観的な事実だけを、社員たちの心に直接届ける光だ。


光を浴びた社員たちが、ハッと我に返る。

「……あれ? 俺、なんでアイツのこと疑ってたんだ?」

「神崎さんは、いつだって俺たちのために動いてくれてたじゃないか……」

「堀口さんの指摘はキツイけど、全部会社のためだったよな……」


疑いの霧が晴れ、社員たちの顔に信頼の色が戻っていく。

『グオオォォ! 何故ダ! 何故信ジル! 人間ハ裏切ル生キ物ダロウガァァ!』

拠り所を失った怪人が苦しみだす。


「人間は弱い生き物です。だからこそ、話し合って、確認し合うんです!」

ミレイが叫ぶ。

「トドメよ、二人とも!」

「了解! 嘘のログは削除する!」

「はいっ! 信頼関係、リストア完了!」


三人の光が一つになり、怪人を貫いた。

怪人は黒い霧となって消滅し、オフィスには静寂と、少し気まずそうな、けれど温かい空気が戻ってきた。


***


「……ふぅ。なんとか収まりましたね」

変身を解いた美玲は、ぐったりと椅子に座り込んだ。

「ええ。でも、肝が冷えたわ。……組織の崩壊は、外敵よりも内側から始まるものね」

アズサも、安堵のため息をつく。


そこへ、一人の社員が駆け寄ってきた。

「神崎さん! あの、さっきは変なこと言ってごめん! 俺、どうかしてたよ」

「ううん、いいのよ。疲れが溜まってただけでしょう?」

美玲が微笑むと、他の社員たちも次々と謝罪し、三人を囲んだ。


(灰谷専務。あなたの思い通りにはさせません。私たちは、そう簡単に壊れたりしない)


だが、その様子を、ビルの屋上から見下ろす灰谷の表情は、予想に反して冷ややかだった。

「……ほう。信頼の力で乗り切ったか」

灰谷は、手元のタブレットに表示された『オプティクスワークス・組織図』を指でなぞる。

そして、ある一点――「営業部」の項目で指を止めた。


「まあいい。信頼などという不確かなもので結びついているなら、その『土台』ごと消してしまえばいいだけの話だ」


灰谷がタブレットの画面をタップする。

画面に表示された文字は――『営業部・解体ディスソリューション』。


「次回の役員会議が楽しみだね。……さようなら、神崎美玲」


次回、魔法少女ミラクルミレイDX!

「第25話:絶体絶命!営業部、解散の危機」

社会の理不尽、私がきっちり最適化します!

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