第23話:灰谷の逆襲!魔のリストラ旋風
ストレス・マキシマイズ社、重役会議室。
巨大なモニターに映し出された真っ赤なグラフ――「地下プラント喪失による損失報告書」を前に、専務取締役・灰谷は、静かに、しかし沸騰するような怒りを押し殺していた。
「……私の管理下で、これほどの赤字が出るとはね」
傍らで直立不動の姿勢をとる黒井は、一言も発することができない。
灰谷の指が、デスクをコツコツと叩く。そのリズムは、まるで死へのカウントダウンのようだ。
「回収が必要だ。早急に、かつドラスティックに。……『構造改革』を実行する」
灰谷が立ち上がる。
「不採算部門の切り捨てではない。この街そのものを『整理』し、残った優良資産だけを吸い尽くす。……魔の旋風を起こすぞ」
***
オプティクスワークスのオフィスにも、不穏な空気が漂っていた。
「ねえ、聞いた? 駅前の商社、いきなり倒産したらしいよ」
「隣のビルのIT企業も、社員の半分が解雇されたって……」
どこからともなく流れてくる「リストラ」や「倒産」の噂。
神崎美玲は、PCに向かいながらも、胸のざわめきを抑えきれずにいた。
(ただの噂じゃない……。街全体が、見えない『恐怖』に覆われているみたい)
「先輩……私、大丈夫でしょうか……」
隣の席で、三浦由奈が不安そうに呟く。
「もし会社がヤバくなったら、真っ先に切られるのって、私みたいな新人ですよね……」
「そんなことありませんよ。由奈ちゃんはもう立派な戦力です」
美玲は優しく励ますが、由奈の顔色は晴れない。
その時、オフィスの窓ガラスがビリビリと振動した。
「……何?」
堀口梓が立ち上がり、窓の外を見る。
空が、急激に暗転していた。
黒い雲が渦を巻き、その中心から、巨大な竜巻が発生している。
だが、それはただの風ではない。
舞い飛んでいるのは、無数の白い紙片――『解雇通知書』だ。
「あれは……!」
「行きましょう! ただの天気じゃありません!」
***
街はパニックに陥っていた。
『解雇通知書』の竜巻――**怪人「リストラ・ストーム」**が、オフィス街を蹂躙している。
通知書に触れたビルは、まるでデータを削除されるように「存在」を削り取られ、中にいた人々は「職を失う恐怖」に支配され、無気力に座り込んでいく。
「不要。不要。貴様ラハ、コストダ」
竜巻の中心で、書類の束で出来た怪人が無機質な声を上げる。
そして、その頭上には灰谷が浮遊していた。
「さあ、選別の時間だ。利益を生まない人間は、この街から退場してもらう」
「やめなさい!」
変身したミラクルミレイたちが駆けつける。
「またあなたですね、灰谷専務! 人の生活を、これ以上壊すのは許しません!」
「口答えするコスト要因か。……消去しろ」
灰谷が指を振ると、リストラ・ストームが三人に襲いかかった。
「うわぁぁっ! 紙が! 紙が痛いですぅ!」
由奈がシールドを展開するが、鋭利な通知書はシールドを切り刻んでいく。
「物理攻撃と精神攻撃の複合技ね……! 『あなたの席はありません』なんて幻聴まで聞こえてくるわ!」
アズサがブレードで紙片を払うが、キリがない。
「くっ……! アジャイル・コア、起動!」
美玲がロッドを振るうが、竜巻の風圧に押し戻される。
「無駄だ。この嵐は、社会人なら誰もが持つ『根源的な恐怖』そのもの。君たちのちっぽけな希望で防げるものではない」
灰谷冷たく言い放つ。
「特にそこの君。……青い魔法少女」
灰谷の視線が、アズサを射抜く。
「君は優秀だ。だが、コストパフォーマンスが悪い。組織に馴染まず、独断専行を繰り返す……以前の会社でも、そうやって弾かれたのではないかね?」
「ッ……!」
アズサの動きが止まる。
古傷を――「正論を言っても排除された過去」を、的確に抉られたのだ。
「君のような人材は、使いにくい。……『解雇』だ」
竜巻がアズサに集中する。
「アズサさん!」
美玲が叫ぶ。アズサの目から、光が消えかけている。
(そうよ……私は、どこに行っても……結局は……)
「ダメェェェ!!」
絶望しかけたアズサの前に、小さな影が飛び出した。
コネクト・ユナだ。
「堀口先輩は……私の憧れなんです! 厳しくて怖いけど、誰よりも仕事ができて、カッコいいんです!」
由奈は、ボロボロになりながらもタブレットを掲げ、竜巻に立ち向かう。
「コストとか知りません! 先輩がいなきゃ、現場は回らないんですぅ!!」
「由奈……」
「そうですよ、アズサさん!」
美玲も二人の前に立ち、ロッドを構える。
「会社が人を切るんじゃない。人が会社を支えているんです!
あなた一人が欠けたって、私たちのチーム(組織)は機能不全を起こします!」
美玲の瞳に、強い意志が宿る。
「私たちは、コストなんかじゃありません! 未来への『投資』です!」
美玲はロッドのダイアルを回し、アジャイル・コアの出力を最大にした。
「アズサさん、由奈ちゃん! 私たちの価値を、あの専務に見せつけてやりましょう!」
「……ええ。そうね。私の査定を、他人に決めさせてたまるもんですか!」
アズサが顔を上げる。眼鏡の奥の瞳が、再び鋭く光った。
「行きます! 三人連携!」
由奈がラインを繋ぐ。
「ロジック再構築! 私たちの価値は、無限大よ!」
アズサが剣を掲げる。
「食らいなさい! これが私たちの……『人的資本・バースト』!!」
三人の魔力が螺旋を描いて収束し、黄金の光となって竜巻に突っ込んでいく。
「なっ……! リストラ通知が……弾かれるだと!?」
怪人が驚愕する。
「あなたは、人を数字でしか見ていない! だから、計算外の力に勝てないんです!」
美玲が叫びと共にロッドを振り抜く。
光の奔流が怪人を飲み込み、無数の解雇通知書を、色とりどりの『辞令(昇進通知)』へと書き換えていく。
「グオオォォ! 私ハ……必要……ナイノカァァ……!」
怪人は光の中で浄化され、消滅した。
「……チッ。損切り(ロスカット)か」
竜巻が晴れた空に、灰谷だけが浮いている。
彼は不愉快そうにネクタイを緩めた。
「だが、勘違いするな。今回は私の『査定ミス』ではない。……市場環境が悪かっただけだ」
負け惜しみのような言葉を残し、灰谷は姿を消した。
街には、再び平和なオフィス街の喧騒が戻ってくる。
「はぁ……怖かったですぅ……」
由奈がへたり込む。
「……助かったわ。由奈、美玲」
アズサが、少し照れくさそうに背を向けたまま言った。
「あなたたちが『投資』だと言ってくれなかったら、私は……」
「ふふ。事実は事実ですから」
美玲は、アズサの肩に優しく手を置いた。
「帰りましょう。……今日は、美味しいものでも食べて帰りますか。経費で!」
「やったー! 神崎先輩、太っ腹!」
三人の笑い声が、夕暮れの街に響く。
だが、灰谷の「構造改革」は、これで終わったわけではない。
彼が去り際に残した視線は、次なる、より残酷な一手を示唆していた。
次回、魔法少女ミラクルミレイDX!
「第24話:社内政治の闇? 囁く黒い噂」
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