第22話:破壊せよ!悪夢の生産プラント
『排除。排除。業務妨害ハ、許サレナイ』
無数の赤い目が、暗闇の中で明滅する。
地下プラントの最深部で、神崎美玲たちは、数百体を超える警備用アンドロイドの包囲網の中にいた。
彼らは無言で、しかし一糸乱れぬ動きで、スタンバトンや捕獲ネットを構えて迫ってくる。
「……数が多いですね。まるで、ブラック企業の終わらないタスクみたい」
美玲は承認印・ロッドを構え、額の汗を拭った。
「効率化の極みね。個性を排除し、命令だけを実行するRPA(ロボットによる業務自動化)の軍団……。でも!」
堀口梓が地面を蹴る。
「創造性のない単純作業なんて、私の敵じゃないわ!」
青い閃光が走り、先頭のアンドロイド数体が瞬く間にバラバラに切断された。
「ひぃぃっ! こっちにも来ましたぁ!」
三浦由奈が悲鳴を上げる。
「防御して、由奈ちゃん! 反射設定で!」
「は、はいっ! ファイアウォール、展開!」
由奈がタブレットをかざすと、光の壁が出現し、アンドロイドたちの突撃を弾き返す。
「今です! アジャイル・コア、出力上昇!」
美玲がロッドを掲げる。
「まとめて承認! 『一括処理・バースト』!!」
ロッドから放たれた無数の光弾が、群がるアンドロイドたちを次々と撃ち抜く。
爆発音と火花が散る中、三人は中央の巨大なタンクを目指して走った。
***
「そこまでだ」
タンクの前まで辿り着いた三人の前に、灰色の障壁が立ち塞がった。
天井のスピーカーから、灰谷の冷徹な声が響く。
『このプラントは、我が社の基幹システム(コア・システム)。外部からの不正アクセスは、全て遮断される仕様だ』
障壁の向こうには、透明なカプセルに閉じ込められた人々が見える。
彼らは苦悶の表情を浮かべ、生命力を吸い上げられている。
その中には、先日行方不明になった商店街の人々の顔もあった。
「……許せない」
美玲の手が震える。
「人を……人の心を、ただの消耗品みたいに扱って……!」
『消耗品ではない。資源だ。彼らは社会の歯車として、ストレスを生むことだけに価値がある。私が有効活用してやっているのだ』
「ふざけないでください!」
美玲がロッドを障壁に叩きつける。
ガギンッ!
硬い。びくともしない。
「物理攻撃無効……。強固なセキュリティね」
アズサが分析する。
「解除コードが必要よ。でも、解析には時間がかかる……」
「そんな……! 時間をかけてたら、中の人たちが!」
由奈が泣きそうな声で叫ぶ。
その時、美玲はカプセルの中の一人と目が合った気がした。
それは、商店街の頑固な八百屋の店主だった。
彼の口が、音もなく動いている。
――たす、けて。
「……由奈ちゃん」
美玲が静かに呼んだ。
「はい?」
「このシステム、ハッキングできる?」
「えっ!? む、無理ですよぉ! ストレス・マキシマイズ社のメインシステムなんて、セキュリティレベルが高すぎます!」
「全部を乗っ取る必要はないの。このタンクの『ロック』だけでいい。……私とアズサさんが、時間を稼ぐから」
美玲は、優しく、しかし力強く由奈の肩に手を置いた。
「あなたなら出来る。私たちを繋いでくれた、最高のエンジニアでしょう?」
由奈は、美玲の真っ直ぐな瞳を見て、ゴクリと唾を飲んだ。
そして、覚悟を決めたようにタブレットを構えた。
「……やって、みます! 私、先輩たちの役に立ちたいから!」
「頼んだわよ、新人」
アズサが背中を向け、アンドロイドの増援に向き直る。
「美玲、来るわよ。由奈に指一本触れさせない!」
「ええ、行きましょう!」
***
「アクセス開始……! 暗号化コード、解析!」
由奈が高速でタッチパネルを操作する。
その背後で、美玲とアズサは死闘を繰り広げていた。
『排除、排除、排除ォォォ!!』
アンドロイドたちが、壊れてもなお這いずりながら襲ってくる。
「しつこいですね……! でも、通しません!」
美玲はロッドを旋回させ、光の帯でバリケードを作る。
「右舷、弾幕薄いわよ! ミレイ!」
「了解! 埋め合わせます!」
二人の阿吽の呼吸。
しかし、数は圧倒的だ。
アズサのブレードに亀裂が入り、美玲のロッドの光が弱まる。
「ま、まだですか、由奈ちゃん!」
「もう少し……! あと少しで、管理者権限に……ッ!?」
由奈の指が止まる。
「ダメです! 最終防衛ライン(ラスト・ディフェンス)が……『絶対服従』のコマンドが邪魔をして、解除できません!」
『無駄だと言っただろう』
灰谷の声が嘲笑う。
『彼らの心は既に折れている。自ら檻を出ることを拒んでいるのだ』
「そんな……」
由奈の手が震える。
その時、美玲が叫んだ。
「拒んでなんかいない! みんな、必死に助けを求めてる!」
美玲は、アンドロイドを蹴り飛ばし、タンクに向かって声を張り上げた。
「聞こえますか! 皆さん! 諦めないでください!
あなたたちは、資源なんかじゃない! 誰かの言いなりになるだけの機械じゃない!」
その声は、分厚いガラスを超えて、人々の心に届いた――わけではない。
しかし、美玲の放つ「承認」の光が、人々の心の奥底に残っていた「希望」と共鳴した。
「由奈ちゃん! プログラムで開かないなら、想いでこじ開けるまでです! 私の『承認』エネルギーを、全部ハッキングに使って!」
「えっ!? そ、そんなことしたら、先輩の魔力が!」
「いいから! 早く!」
「……もう! 無茶苦茶ですよぉ!」
由奈は涙目で叫びながら、タブレットをタンクに押し付けた。
「コネクト・ユナ、最大出力! 先輩の想いを、データに変換!!」
美玲のロッドから溢れ出したピンク色の光が、由奈のタブレットを経由し、猛烈な勢いでシステムに流れる。
『エラー! エラー! 未知の感情データヲ検知!』
警報音が鳴り響く。
「届けェェェ! 『オープン・ザ・ゲート』!!」
パリーン!!
甲高い音と共に、タンクの制御パネルが爆散した。
同時に、カプセルのロックが一斉に解除される。
シューーー……!
プシューッ!
カプセルが開き、人々が崩れ落ちるように解放された。
「う、うぅ……」
「助かった……のか……?」
『馬鹿な……! システムが……感情論に負けたというのか……!』
灰谷の驚愕の声が響く。
「……感情論、上等です」
美玲は、膝をつきながらも、勝気な笑みを浮かべた。
「人は、感情があるから動くんです。……さあ、ずらかりましょう!」
「退避ルート、確保済みよ!」
アズサが壁を切り裂き、出口を作る。
「皆さん、走ってください! ここが崩れます!」
解放された人々は、互いに支え合いながら出口へと殺到する。
三人もまた、崩落する天井を避けながら、地上への階段を駆け上がった。
背後で、悪夢の生産プラントが、轟音と共に瓦礫の下へと埋もれていく。
それは、ストレス・マキシマイズ社の野望が、初めて大きな挫折を味わった瞬間だった。
***
地上に出ると、そこは朝だった。
救出された人々が、救急隊や警察に保護されていくのを見届け、三人はビルの屋上で肩を並べていた。
「……やりましたね」
由奈がへたり込む。
「ええ。大損害を与えてやったわ」
アズサも、満足げに眼鏡を直す。
美玲は、昇り始めた朝日を見つめ、静かに言った。
「でも、これで灰谷専務は本気を出してくるはずです。……本当の戦いは、ここからですね」
彼女の手の中で、アジャイル・コアが小さく、しかし力強く脈打っていた。
巨大な組織の論理に、個人の想いで立ち向かう。
その無謀な戦いは、まだ始まったばかりだ。
次回、魔法少女ミラクルミレイDX!
「第23話:灰谷の逆襲!魔のリストラ旋風」
社会の理不尽、私がきっちり最適化します!




