第21話:潜入!ストレス・マキシマイズ社の地下迷宮
「……ここが、入り口?」
神崎美玲は、スマートフォンのライトを頼りに、薄暗い地下通路を進んでいた。
そこは、都心の地下鉄駅から続く、地図には載っていないメンテナンス用通路の奥深く。
湿った空気と、古い機械油の匂いが立ち込めている。
「データによると、この先に異常なエネルギー反応があるわ。灰谷の『権限』が及ぶエリアの境界線ね」
堀口梓が、タブレットの画面を見つめながら冷静に告げる。
「うぅ……なんかオバケが出そうですよぉ……」
三浦由奈が、美玲の背中にぴったりと張り付いて震えている。
「大丈夫よ、由奈ちゃん。私たちにはこれがあるもの」
美玲は、胸元の承認印・ロッドに装着された『アジャイル・コア』を軽く叩いた。
青白い光が、暗闇の中で頼もしく明滅する。
「行きましょう。ストレス・マキシマイズ社が何を企んでいるのか、直接確かめなくちゃ」
美玲の号令で、三人は重い鉄扉を押し開けた。
***
扉の向こうに広がっていたのは、予想を裏切る光景だった。
「え……? オフィス?」
そこは、無機質なコンクリートの迷宮――ではなく、どこにでもあるような、しかしどこか歪な「オフィスフロア」だった。
蛍光灯がチカチカと明滅し、床には書類が散乱している。
そして、壁の至る所に「努力」「根性」「必達」といったスローガンが、赤いペンキで殴り書きされている。
「……趣味が悪いわね。動線設計も最悪よ」
アズサが眉をひそめる。
「気を付けて。ただのオフィスじゃないわ」
三人が足を踏み入れた瞬間、フロアの電話が一斉に鳴り響いた。
ジリリリリリリ!! ジリリリリリリ!!
鼓膜をつんざくような大音量。
「ひぃっ! なんですかこれ!?」
由奈が耳を塞ぐ。
「これは……『鳴り止まない電話の回廊』!」
ペンデュルンが叫ぶ。
受話器が勝手に浮き上がり、コードを触手のように伸ばして三人に襲いかかってきた。
『オ待チシテオリマァァス!!』
『至急確認ヲォォォ!!』
受話器から、怒声と催促の叫びが発せられる。
「くっ……! まともに取り合っちゃダメよ!」
美玲がロッドを振るう。
「アジャイル・コア、起動! 優先順位を設定!」
ロッドから放たれた光が、襲い来る受話器を次々と弾き飛ばす。
「由奈ちゃん、アズサさん! 全部の電話に出る必要なんてないの! 重要な案件だけ選別して!」
「了解! スパム判定、実行!」
アズサがブレードで受話器のコードを切断する。
「私も……! 転送設定、完了!」
由奈がシールドで受話器を弾き返し、壁の向こうへ追いやる。
三人の連携によって、電話の嵐は沈黙した。
「はぁ……はぁ……。いきなりこれ?」
「先が思いやられるわね……」
***
迷宮はさらに続く。
次に現れたのは、無限に続くかのような長い廊下。
その両脇には無数のドアがあり、中からは延々と続く会議の声が漏れ聞こえてくる。
「次は……『終わらない会議室』か」
アズサが舌打ちをする。
「このエリア、空間が歪んでいるわ。ただ歩いているだけじゃ、永遠に出口に辿り着けない」
「どうすればいいんですかぁ……」
由奈が泣きそうになる。
「会議を終わらせるしかないわね」
美玲がキッと前を見据えた。
「アズサさん、この会議の『結論』を予測して!」
「……分析完了。この会議、結論を出す気がないわ。ただ時間を浪費することが目的の『定例報告会』よ」
「やっぱりね。なら、強制終了させるまでよ!」
美玲はロッドを高く掲げた。
「アジャイル・コア、出力全開! 無駄な会議に終止符を! 『サマリー・ブレイク』!!」
美玲がロッドを床に叩きつけると、衝撃波が廊下を駆け抜けた。
バァァァン!!
ドアが一斉に開き、中から「解散!」「お疲れ様でした!」という声と共に、灰色の煙が吹き出す。
煙が晴れると、歪んでいた空間が元に戻り、奥へと続く階段が現れた。
「……強引ね。でも、嫌いじゃないわ」
アズサが少しだけ口角を上げる。
***
階段を降りると、空気はさらに冷たく、重くなった。
最下層。そこには、広大な空間が広がっていた。
「な、なにこれ……」
三人は言葉を失った。
そこは、巨大な「養殖場」のような場所だった。
無数のカプセルが整然と並び、その一つ一つの中に、疲れ切った表情の人々が眠っている。
彼らの頭上にはチューブが繋がれ、そこから赤黒いエネルギー――ストレスが抽出され、中央の巨大なタンクへと送られていた。
「これが……ストレス・マキシマイズ社のビジネス……」
美玲の背筋が凍る。
黒井が言っていた「エネルギー資源」とは、比喩でもなんでもなかったのだ。
「ひどい……。人間を、電池みたいに……」
由奈が口元を押さえる。
「……感傷に浸っている場合じゃないわ。中央のタンクを破壊すれば、システムは停止するはず」
アズサがブレードを構えようとした、その時。
『ようこそ、我らが生産プラントへ』
天井のスピーカーから、聞き覚えのある冷徹な声が響いた。
「灰谷……!」
『君たちがここまで到達するとは、想定外のバグだ。……だが、ちょうどいい』
カプセルの間から、黒い影がゆらりと立ち上がる。
それは、警備用のアンドロイドたち。しかし、その動きはあまりに早く、数も多い。
『ここで君たちを処理し、新たなエネルギー源としてカプセルに収容してあげよう。……光栄に思うがいい』
警報音が鳴り響き、数百体のアンドロイドが一斉に三人に視線を向けた。
その目は、不気味な赤色に発光している。
「……罠だったってわけね」
アズサが苦々しく言う。
「でも、引くわけにはいきません!」
美玲はロッドを構え、二人を守るように前に出た。
「みんな、行くわよ! この人たちを解放して、灰谷の野望をここで食い止める!」
「はいっ!」
「……了解。残業代、弾んでもらうわよ」
地下迷宮の最深部で、オプティクスワークスの魔法少女たちと、ストレス・マキシマイズ社の主力部隊との全面対決が始まろうとしていた。
次回、魔法少女ミラクルミレイDX!
「第22話:破壊せよ!悪夢の生産プラント」
社会の理不尽、私がきっちり最適化します!




