第20話:緊急招集!対策会議と新たな武器
「……つまり、灰谷専務の能力は『権限によるリソース遮断』ということね」
神崎美玲のマンションのリビング。
テーブルには、コンビニの「元気が出る系」惣菜と、エナジードリンクの空き缶が散乱していた。
重苦しい空気の中、堀口梓がホワイトボード(美玲が通販で買った安物)に、複雑な図式を書き殴っていた。
「私たちの魔力は、通常、ペンデュルンの故郷である『異次元サーバー』から供給されているわ。でも、灰谷はそのアクセス権限を強制的に書き換えた。だから、由奈のシールドも私のブレードも、出力が出なくなったのよ」
「そんなの反則じゃないですかぁ……」
三浦由奈が、保冷剤で腫れた頬を冷やしながら呻く。
「向こうは専務ですよ? 平社員の私たちが、権限で勝てるわけないじゃないですか」
「ええ。正面から稟議を通そうとしても、また『却下』されるだけだわ」
美玲は腕を組み、深く息を吐いた。
「でも、あの商店街をこのままにはしておけません。……何か、彼の権限が及ばない『抜け道』はないのかしら?」
三人の視線が、テーブルの隅で縮こまっているペンデュルンに集中した。
「……ペンデュルン。何か隠してることはない?」
美玲の静かな問い詰めに、ペンデュルンはビクリと震えた。
「い、いやぁ~……実は一つだけ、試作段階(ベータ版)のアイテムがあるんでしゅけど……」
「あるの!?」
「あるなら早く出しなさいよ! この非効率ハムスター!」
アズサが詰め寄る。
「だ、だって、これは危険なんでしゅ! 『オープンソース・プロジェクト』の産物で、正規のサポート対象外なんでしゅよ!」
ペンデュルンが慌てて自分の頬袋(四次元ポケット的な空間)をごそごそと探ると、古ぼけたUSBメモリのような形状をしたクリスタルを取り出した。
「これの名は『アジャイル・コア』。中央サーバーからの供給に頼らず、現場の熱量を直接魔力に変換して駆動する、自律分散型の増幅装置でしゅ」
「現場の熱量を……魔力に?」
美玲がクリスタルを手に取る。微かに温かい。
「そうでしゅ。ただし、これは極めて不安定。使い手の想いが少しでもブレると、エラーを起こして自爆する恐れがあるでしゅ。だから封印してたんでしゅよ!」
「……上等じゃない」
アズサが不敵に笑った。
「中央の管理を受けない、現場主導のシステム。まさに今の私たちに必要なソリューションね」
「でも、自爆って……怖すぎません?」
由奈が怯える。
美玲はクリスタルを強く握りしめた。
「やりましょう。灰谷専務の『トップダウン』に対抗するには、私たちの『ボトムアップ』の力しかないわ」
***
その夜、三人は人気のいない河川敷にいた。
「いい? 『アジャイル・コア』を起動するには、三人の意識を完全に同期させる必要があるわ。少しの迷いも許されない」
アズサの指示に、美玲と由奈が頷く。
「行きます! コネクト・オン!」
由奈がタブレットを展開し、三人を光のラインで繋ぐ。
「アジャイル・コア、インストール!」
美玲がクリスタルを承認印・ロッドのスロットに差し込んだ。
ブォォォン……!
ロッドが激しく振動し、まばゆい光が溢れ出す。
「くっ……! すごい出力……!」
美玲の腕に、焼けるような負荷がかかる。
「制御して! 感情を爆発させるんじゃなく、循環させるのよ!」
アズサが叫ぶ。
「無理ですぅ! 熱すぎます!」
由奈のシールドが悲鳴を上げる。
その時――。
「見つけたぞ、不採算因子ども」
空から無機質な声が降ってきた。
見上げれば、灰色のスーツを着たドローン型の怪人たちが、群れを成して急降下してくるところだった。
灰谷の手先、**「ダウンサイジング・ドローン」**部隊だ。
「げっ、こんな時に!」
「排除します! ……くっ、体が動かない!」
コアの出力制御にリソースを割かれ、三人は身動きが取れない。
『コスト削減。コスト削減。対象ヲ、消去シマス』
ドローンが一斉にレーザーをチャージする。
「……っ! みんな、私に合わせて!」
美玲が叫んだ。
「防御に回っちゃダメ! この暴走しそうなエネルギーを、そのまま攻撃に転用するの!」
「転用って……ぶっつけ本番すぎるわよ!」
「でも、それこそが『アジャイル(俊敏)』開発でしょう!?」
美玲の言葉に、アズサが目を見開く。
「……フッ。そうね。仕様変更は現場の常よ!」
「由奈ちゃん、パスを攻撃回路に切り替えて!」
「は、はいっ! もうどうにでもなれぇぇ!」
三人の想いが、「制御」から「放出」へと切り替わった瞬間。
アジャイル・コアが青白く輝いた。
「プロトタイプ・リリース! 『スプリント・バースト』!!」
美玲がロッドを振るうと、光の刃が不規則な軌道を描いて飛んだ。
それはドローンの予測演算を遥かに超えるスピードで空間を跳ね回り、一瞬にして十数体のドローンを真っ二つにした。
ドォォォォン!!
河川敷に爆炎が上がる。
「はぁ……はぁ……」
煙が晴れた後、そこには無傷の三人が立っていた。
美玲の手の中で、アジャイル・コアは安定した光を放っている。
「……やった……?」
由奈が恐る恐る目を開ける。
「ええ。どうやら、バグは出なかったみたいね」
アズサが眼鏡の位置を直し、ニヤリと笑った。
「現場の判断で即座に仕様を変える。……悪くない開発手法だわ」
美玲は、頼もしく輝くロッドを見つめた。
「これが、私たちの新しい力……。これなら、灰谷専務の権限も突破できるかもしれない」
「油断は禁物でしゅよ! 次はもっと大掛かりな『構造改革』が来るはずでしゅ!」
ペンデュルンが釘を刺すが、その顔はどこか嬉しそうだ。
「ええ、分かっているわ。……さあ、帰りましょう。明日の作戦会議の資料、まだ作ってないもの」
美玲は二人の背中を押し、夜の河川敷を後にした。
ボトムアップの逆襲。その狼煙は、確かに上がったのだ。
次回、魔法少女ミラクルミレイDX!
「第21話:潜入!ストレス・マキシマイズ社の地下迷宮」
社会の理不尽、私がきっちり最適化します!




