第18話:黒井の罠!ブラック企業・連合艦隊
日曜日のオフィス街は、ゴーストタウンのように静まり返っていた。
だが、オプティクスワークスの入るビルだけは、異様な熱気と――物理的な黒煙に包まれていた。
「これは……ただのシステム障害じゃありませんね」
神崎美玲は、ビルのエントランスで足を止め、険しい表情で上層階を見上げた。
隣に立つ堀口梓が、スマホでサーバー稼働状況を確認しながら眉をひそめる。
「全システムダウン。さらに、空調、セキュリティ、エレベーターまで制御不能。……ハッキング? いえ、外部からの侵入形跡はないわ」
「ええっ!? じゃあ、中で何が起きてるんですか!?」
三浦由奈が不安そうに声を上げる。
「行きましょう。佐伯課長たちが中にいるはずです」
美玲の号令で、三人は非常階段を駆け上がった。
***
サーバー室のあるフロアに辿り着くと、そこは地獄絵図だった。
「なんで繋がらないんだよぉ!」
「予備電源も落ちたぞ! バックアップはどうなってる!」
「顧客からクレームの電話が鳴り止まない! 誰か出ろよ!」
システム部の社員、駆けつけた営業部員、そしてビル管理会社の担当者たち。
極限状態のストレスが、フロア全体に赤黒い澱みとなって充満している。
そして、その中心に――彼はいた。
「素晴らしい。やはり、トラブル対応こそが社畜の華だ」
ストレス・マキシマイズ社の黒井が、優雅に指揮棒を振るうように手を広げていた。
「黒井……! あなたが原因なのね!」
美玲が叫ぶ。
「おや、人聞きが悪い。私はただ、日曜日に叩き起こされた彼らの『怒り』と『責任のなすりつけ合い』を、ほんの少しコーディネートしただけですよ」
黒井が指を鳴らすと、フロアに渦巻くストレスが三つの塊となり、融合を始めた。
システム部の「復旧への焦り」。
営業部の「顧客への恐怖」。
管理会社の「板挟みの絶望」。
「合体完了。見よ、これぞ我が社の誇る『ブラック企業・連合艦隊』!」
ズズズズ……!
三つのストレスが融合し、巨大な軍艦のような怪人が姿を現した。
全身が焼けたサーバーラックと受話器で構成され、両腕からはLANケーブルの鞭が伸びている。
怪人――**「システム・ダウナー提督」**が、電子音のような咆哮を上げた。
『責任者ヲ出セ……! 誰ガ悪イ……! 始末書ヲ書ケェェェ!!』
「来るわよ! 変身!」
三人は同時に光に包まれ、戦闘態勢に入る。
「まずは私が動きを止める。由奈、シールド展開!」
アズサが飛び出し、由奈がタブレットで防壁を展開する。
しかし、怪人の攻撃は予想外だった。
『連帯責任砲、発射ァ!』
怪人の全身から放たれたのは、物理的な衝撃波ではなく、粘着質な黒い霧だった。
「なっ……!?」
霧に触れた瞬間、アズサの動きが鈍る。
「体が……重い……?」
「アズサさん!?」
助けに入ろうとした由奈も、霧に巻かれてその場にへたり込んだ。
「うぅ……なんか急に、やる気が……。私なんかが戦っても、どうせバグるだけだし……」
「なんで私がこんな泥被らなきゃいけないの……非効率すぎる……」
二人の目から光が消え、ブツブツとネガティブな言葉を吐き出し始める。
「これは……!」
美玲が驚愕する中、黒井が高笑いした。
「ハハハ! これぞ『責任転嫁ミスト』! 組織のトラブルにおいて、最も恐ろしいのはバグそのものではない。周囲の空気感染する『やる気の減退』と『相互不信』ですよ!」
黒井の言う通り、由奈とアズサのリンク(コネクト)が切れ、チームの連携が崩壊していく。
「さあ、ミラクルミレイ。あなたも絶望に沈みなさい!」
怪人がLANケーブルの触手を美玲に向ける。
だが、美玲は逃げなかった。
「……確かに、トラブルは怖いです。みんなが疑心暗鬼になるのも分かります」
美玲は、承認印・ロッドを静かに構えた。
「でもね、そんな時だからこそ、誰かが声を上げなきゃいけないんです!」
美玲はロジカル・アズサとコネクト・ユナに向かって叫んだ。
「二人とも! 顔を上げてください! 誰が悪いとか、そんな犯人探しはどうでもいいんです!」
「美玲……?」
「先輩……?」
「今、私たちがやるべきことは何ですか! 犯人探しですか!? 違うでしょう!」
美玲の声には、現場を束ねるリーダーとしての確かな熱があった。
「システムを復旧させて、みんなを安心させること! その一点だけを見なさい!」
その言葉が、霧を晴らす風となって二人の頬を打つ。
「……そうね。原因究明は事後でいい。今はサービス復旧が最優先事項!」
アズサの瞳に理性の光が戻る。
「はいっ! 私、バックアップから正常なメンタル、リストアします!」
由奈がタブレットを叩き、輝く光が二人を包み込んだ。
「再起動完了! リンク、再接続!」
由奈の叫びと共に、三人のパスが再び繋がる。
「チッ、小賢しいマネを……!」
黒井が舌打ちする。
「行くわよ、二人とも! このトラブル、定時までに片付けます!」
美玲が先陣を切る。
「ターゲット、メインサーバー直結の動力炉!」
アズサが弱点を解析し、指示を飛ばす。
「ルート確保しました! ファイアウォール、全開!」
由奈が怪人の攻撃を全て弾き返し、道を切り開く。
『グオオォォ! 何故ダ! 何故責任ヲ押シ付ケ合ワナイ!』
怪人が狼狽する。
三人は同時に跳躍した。
「責任なら、私たちが背負ってあげる!」
「バグは修正すればいい!」
「失敗は、成功の元です!」
三つの光が一点に重なる。
「喰らえ! トラブルシューティング・トリニティ・クラッシュ!!」
美玲のロッド、アズサのブレード、由奈のスタイラスが、怪人のコアであるサーバーラックを同時に貫いた。
『復旧……完了ォォォ……!』
怪人は爆散し、黒い霧と共に消滅した。
オフィスには、正常に緑色のランプを点滅させるサーバー群と、安堵の表情で眠る社員たちが残された。
「……おのれ、オプティクスワークス……。組織力で上回るとはな」
黒井は悔しげに呟き、煙のように姿を消した。
***
「はぁ〜……終わりましたねぇ……」
変身を解いた由奈が、床に大の字になる。
「お疲れ様。二人とも、よく頑張ったわね」
美玲も壁にもたれかかり、息をついた。
「……あなたの、あの時の言葉」
アズサが、汚れた眼鏡を拭きながらポツリと言う。
「『犯人探しはどうでもいい』……。非論理的だけど、あの状況では最適解だったわ。……ナイス・マネジメントよ」
「ふふ、アズサさんに褒められるなんて、明日は大雨かしら」
三人は顔を見合わせ、小さく笑い合った。
窓の外では、日曜日の夕日がビル街を赤く染めている。
休日出勤は最悪だったが、三人の絆は、どんな強固なシステムよりも強く結ばれていた。
しかし、彼女たちはまだ知らない。
黒井の背後に潜む、さらなる巨大な「経営陣」が動き出そうとしていることを。
次回、魔法少女ミラクルミレイDX!
「第19話:衝撃!黒井の上司、専務・灰谷の来襲」
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